【感想】志乃ちゃんは自分の名前が言えない
2018年公開
監督 湯浅弘章
◉あらすじ(公式サイトより)
高校一年生の志乃は上手く言葉を話せないことで周囲と馴染めずにいた。ひとりぼっちの学生生活を送るなか、ひょんなことから同級生の加代と友達になる。
音楽好きなのに音痴な加代は、思いがけず聴いた志乃の歌声に心を奪われバンドに誘う。
文化祭へ向けて猛練習が始まった。そこに、志乃をからかった同級生の男子、菊地が参加することになり・・・。
◉私的評価
★★★★★★★☆☆☆ 7/10点
◉総評
押見先生の原作漫画は既読。
一時期、一巻完結の短編漫画を集めるのにハマってて、その時に買った一冊です。
まずは漫画原作として気になるデリケートゾーン
「某巨人とか〇〇の奇妙な冒険みたいに、改悪されてんじゃねーの?」
であるが、ラストシーンを除いてほとんど原作通りでキャラ増減などは一切ない。押見作品の「なんとなく漂う鬱屈とした雰囲気」も映像的に程よく再現されていたのではないだろうか。
こういうのでいいんだよ、と思う反面、しかし物足りなさもあった。
だいたい漫画原作というと、5〜10巻くらいの内容を1時間半にギュッと押し込めているのだが、なにぶん「志乃ちゃん」は漫画一冊分しかなく、映画にするとやや間延びしてしまっている印象があった。
原作の雰囲気を壊さない程度には追加のエピソードなんかもあってよかったんじゃないだろうか。
そして、改変したラストシーンも微妙である。原作のラストも飛躍しすぎていてアレだったが、それと比較しても締まりが悪い。
あとは、主人公の友達である加代は「歌が下手くそ」という設定なのだが、あるシーンで一曲歌った時にそこまで下手というわけではなく、設定と現実が食い違っていてもやっとした。
と、ぶちぶち文句を垂れてはいるものの全体としては非常にバランスの良い青春映画。とはいっても「リンダ リンダ リンダ」や「スウィングガールズ」みたいな音楽×ガールの王道とは違い、よりキャラクターに寄り添った優しくも厳しい青春物語だ。テーマである各々のコンプレックスも、繊細に消化していて人間くさい、身近な感じを受ける作品に仕上がっている。
橋の上で懐メロを歌うシーンなんか特に好きで、キラキラした主役2人の思い出をバックに「あの素晴らしい愛をもう一度」が流れる。いやー、たまらん。下手に恋愛要素を入れて媚びないところもいい。そういうのを見たいんじゃないんだ。
そしてこの映画を語る上で外せないのが主演・南沙良さんの熱演。なんと映画初出演とのことだが、それで吃音症の少女という特殊な役柄をあそこまで演じきってしまうのだから大したものだ。
泣きながら感情を吐露するシーンなんて、往年の女優も顔負けの迫力だった。そんな泣き顔晒して大丈夫なの?と心配になるレベル。
舞台となった沼津市の情景も映画の雰囲気に非常にマッチしていた。青い空、伸びる海岸線、微妙に古臭く、懐かしさを覚える街並み。いかにも青春の香りが渦巻いていそうである。
初回なので長々と語ったが、要するにそこそこおすすめなので、暇があれば見てください。青春時代に大切なものを落っことしてきたそこの君、特におすすめだぞ。