邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】泣き虫しょったんの奇跡

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泣き虫しょったんの奇跡

2018年公開

監督  豊田利晃

 

 

◉あらすじ(公式サイトより)

26歳。それはプロ棋士へのタイムリミット。

小学生のころから将棋一筋で生きてきた“しょったん”こと瀬川晶司の夢は、
年齢制限の壁にぶつかりあっけなく断たれた。

奨励会退会後、将棋とはしばらく縁を切り
平凡な生活を送っていたしょったんに突然訪れた父親の死…。
親友・悠野ゆうやら周囲の人々に支えられ様々な困難を乗り越え、再び駒を手に取ることに。
しかし、プロを目指すという重圧から解放され、その面白さ、楽しさを改めて痛感する。

「やっぱり、プロになりたい――」。

35歳、しょったんの人生をかけた二度目の挑戦が始まる。

 

 

◉私的評価

 

★★★★☆☆☆☆☆☆  4/10

 

 

◉総評

 

『青い春』の豊田利晃松田龍平コンビが送る感動実話ストーリーという触れ込みの今作。妻夫木聡松たか子など、主役を張れるだけの大物がちょい役でバンバン出てきて、そこは見ていてすごく楽しかった。通りすがりの一般人で藤原竜也が出てきた時も劇場がざわついたし。(喋り方のクセがまんまですぐに分かるのがすごい)

 

将棋のシーンではセリフやBGMが控えめで、パチリパチリ、という駒の音だけが響くような演出。これがめちゃくちゃ良かったと思う。緊張感が画面から滲み出しているというか、本当に対局を見ているようなリアリティがあった。

 

ただ、肝心の内容はというと、ちょっとバランスが悪いかなと。物語は少年時代・奨励会時代・大人時代の三部に分かれてるんだけど、どれも同じくらいの濃度で書かれている。少年時代・奨励会時代のエピソードも丁寧に書かれていて、なおかつ後半への伏線にもなっているから面白いことには面白いんです。でも、その分大人時代がかなり駆け足気味でした。

 

物語の肝となるのは、主人公のしょったんが一度絶たれたプロへの夢をもう一度叶えようとする大人時代にこそあると思うんです。けれども、前半に時間を取っていたせいで尺が足りない。だから、詰め込みすぎてて説明不足になっているシーンが多かった。

 

例えば、しょったんがプロになるのを棋士たちが反対しているシーンがあるんだけど、そのちょっと後に賛成多数でプロ編入試験を受けさせることに決まるシーンが来る。プロたちの改心とかは全く描かれていないので、どうしてそうなったのか見ている側としては困惑した。

 

「夢を諦めない」というテーマもうまく表現できていないなと思った。年齢制限で奨励会を去った後、特に努力することなくトントン拍子でプロへの道が拓かれるからだ。本当はもっとエピソードがあったんだろうけど、どうしても時間との兼ね合い上、描くことが出来なくて、結果としてご都合主義で葛藤のない展開になってしまったような気がします。

 

ただ、大人になるまでを濃密に描いていたおかげで、これまで出会ってきた人たちが再登場してしょったんを応援するというラストシーンは説得力があり、ベタではあるが感動できた。だから一概に構成が悪い、とは批判できないんだけど……。

 

うーん、やっぱ全体的に時間不足が否めない。連ドラにしたら面白いかも。ただ、ドラマでやるには題材が地味だしなぁ。難しい。

 

最後になるが主演の松田龍平はクールな役が多いので、こういうちょっと気弱な感じのキャラは新鮮で良かった。彼のファンなら今作は必見だ。