邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】愛しのアイリーン

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愛しのアイリーン

監督 吉田恵輔

 

 

◉あらすじ(公式サイトより)

一世一代の恋に玉砕し、家を飛び出した42歳のダメ男・宍戸岩男(安田顕)はフィリピンにいた。コツコツ貯めた300万円をはたいて嫁探しツアーに参加したのだ。30人もの現地女性と次々に面会してパニック状態の岩男は、半ば自棄になって相手を決めてしまう。それが貧しい漁村に生まれたフィリピーナ、アイリーン(ナッツ・シトイ)だった。岩男がとつぜん家を空けてから二週間。久方ぶりの帰省を果たすと、父の源造(品川徹)は亡くなり、実家はまさに葬儀の只中だった。ざわつく参列者たちの目に映ったのは異国の少女・アイリーン。これまで恋愛も知らずに生きてきた大事な一人息子が、見ず知らずのフィリピーナを嫁にもらったと聞いて激昂するツル(木野花)。ついには猟銃を持ち出し、その鈍く光る銃口がアイリーンへ……!

 

 

◉私的評価

 

★★★★★★★☆☆☆  7/10

 

 

◉総評

 

吉田監督の作品ってこれまでのイメージだと、定石をなぞりながらも、どこかでワンポイントズラす、っていうイメージでした。その変化が面白くて割と好きだったんだけど、本作は一転、ストレートにテーマを表現していたように思います。

 

そのメインテーマとなるのが国際結婚。それもお金目当ての。そして、そこに渦巻く劣情や肉欲なんかを逃げることなく表現している。

 

なので、今作はぶっちゃけかなり下品です。

モザイクも出るし、おっぱいもポロポロ出ます。しかも、それを色っぽくは描いていない。むしろ、半ば汚らしく表現しているからこそ、この映画はお腹の下あたりにズドンとくる衝撃を与えてくれるのです。

 

漫画原作なのでストーリーラインは決まっていますが、物語の分岐となるターニングポイントがしっかりと設定されていて、丁寧な脚本作りを感じられました。あーこっからヤバイな、っていう映画の空気がガラッと変わるのが、はっきり分かるんです。

 

そのシーンから前半の緩いコメディタッチは息を潜め、重苦しい現実をどこまでも転がり落ちていくのは、映画でありながらも目を背けたくなるような辛さがあり、だからこそ逆にスクリーンから目を離せなくなる。いやらしい映画を撮るようになったなぁ、と感心する反面、あまりにも観客の姿勢を固定してしまうのはどうかと思ったり。

 

というのも、登場人物を鮮烈に描きすぎているせいであんまり奥行きがないんですよ。想像の余地を与えないというか、岩男クズだなぁとかアイリーン健気だなぁとか、それ以上の印象が湧いてこない。監督が見せたいキャラクターを観客に見せるっていう点ではwin-winな関係なんでしょうけど、もう少しそこに余韻が欲しかったかなぁ。

 

映像表現に関しては、カメラワークも常に見やすくてかなり良かったと思います。薄暗い寒村が舞台ということで、邦画にありがちな『暗闇で何してるか分からない』なんてシーンもなかったし。あとはラスト、雪原の撮り方は圧巻でした。

 

俳優の演技は、多分見た人100人が100人、こう答えると思います。木野花さんがヤベェ。マジで凄いんです(語彙消失)。漫画に出てくる強烈なクソババァをそのまま引っ張ってきたかのような説得力があるし、そうかと思えば息子を思う優しい表情にもリアリティがある。冗談抜きで、今年見た映画の中では一番の熱演だったかもしれない。

 

本来であれば別のものになるはずだったラストシーンを、変えてしまったほどの迫力。これを味わうだけでも、この映画を見る価値はあると思います。

 

主演の二人も、体当たりな演技で良かったと思います。二人とも出すものボロンと出してますからね、ええ。

 

というわけで、本作は見る人によっては本当に不快になる可能性があるので、相当に人を選ぶ作品となっております。ですが、僕みたいな独り身の男性には楔のように刺さる映画となっているはずです。

 

レイトショーでビールを飲みながら、ひとり寂しく鑑賞する。それがこの映画を見る正しいスタイルである、とオススメしてみたり。