邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】唄う六人の女

唄う六人の女

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映画情報

監督 石橋義正

脚本 石橋義正 大谷洋介

主演 竹野内豊 山田孝之 水川あさみ

2023年/112分/PG12

 


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あらすじ(公式HPより)

ある日突然、40年以上も会っていない父親の訃報が入り、父が遺した山を売るために生家に戻った萱島(竹野内豊)と、その土地を買いに来た開発業者の下請けの宇和島 (山田孝之) 。契約の手続きを終え、人里離れた山道を車で帰っている途中に、二人は事故に遭い気を失ってしまう……。目を覚ますと、男たちは体を縄で縛られ身動きができない。そんな彼らの前に現われたのは、この森に暮らす美しい六人の女たち。何を聞いても一切答えのない彼女たちは、彼らの前で奇妙な振る舞いを続ける。異様な地に迷い込んでしまった男たちは、この場所からの脱走を図るが……。

美しく奇妙な女たちに隠された”秘密”とは―

 

私的評価

★★★★★☆☆☆☆☆  5/10

 

感想

 

◉尻切れトンボとはまさにこのこと

 

この映画、序盤から中盤にかけては非常によくできていた印象でした。登場する6人の女たちは蠱惑的でミステリアス、まさに予告編でみたとおり、上質なサイコスリラーを期待させる立ち上がりです。原生林という舞台も非常にマッチしており、幻想的な映像とともにこちらまで村に迷い込んだかのような没入感でした。

 

提示される謎もすごく魅力的で、こちらをぐいぐいと惹きつけます。

彼女たちが男二人を拉致したのにはどんなわけがあるんだ?

吊り下げられたり、かと思えば食事を用意されたり、果たして目的は?

そして、謎の儀式のときに突き刺さった矢はどうして竹野内豊の乳毛になったのか?

 

私が単純に読解力不足なのかもしれませんが、これらの謎に対し、映画内では一切説明はありませんでした。後半にかけて色々畳もうと駆け足気味に伏線を拾っていくのですが、はっきり言って尺が足りていなかったような気がします。普通の映画では会話で説明するものですが、今回の『女たち』は喋ることができないので、もっと観客に伝える工夫が必要だったのにもかかわらず、それをしなかった。結果として後半に詰め込みまくったような感じになったのだと思います。

 

特に、ラストシーンがかなり酷い。山田孝之の罪を暴くため、一度竹野内豊が村の外に出るという選択肢をとったにもかかわらず、うやむやな理由でもう一度村に戻ることを決意する。おそらく、物語のしまりが悪いのと、彼女たちの正体がこうですよ、っていうのを観客に知らしめる必要があったからだと思うんですけど、結局主人公は何もできずに無駄死にするんですよね。

 

主人公が最後に何も果たせず死ぬ、っていうこと自体が悪いって言ってるわけじゃなく、わざわざ死地に再突入しておいて無駄に死ぬ、っていうのがストーリー上の必然性を感じられなかった。なんかグダグダしちまったから主人公殺しとくか、みたいな。

 

前半戦でやりたい放題した結果、映画の終わらせ方が見えなくなってしまい、雑な感じで締めてしまったような気がします。とにかく構成の粗さが目立つ作品でした。

 

◉唄う女たちだけでも見る価値あり

 

とまあ、ストーリーにかんしては結構酷い感想になってるんですけど、唄う女たちのビジュアルとキャラクター性に関しては満点に近い出来になっていると思います。6人とも会話はできないのにそれぞれ個性があってキャラが立っており、スッと頭に入ってきました。メインとなる登場人物が割と多い映画なので、すぐ覚えられるというのは非常に重要なポイントだと僕は思っています。

 

女たちの撮り方も非常に芸術点が高く、見終わった後も印象に残っているシーンが結構ありました。特に濡れる女の水中映像は光のさし方とか泡の動きとか、めちゃくちゃこだわって作っているなあと感じました。

 

あと、見つめる女役の桃果さん、抜群にかわいくないですか? キービジュアルだとそんなにピンとはこなかったんですけど、実際に映像を見てみると小動物っぽい可愛らしさが全開で、庇護欲をそそられます。今まで知らなかったですけど、演技力も高く、鬼畜山田孝之に自分の子供=卵を割られて絶叫するシーンとか、悲愴さがこちらまで伝わってくる非常に良い演技だったと思いました。

 

6人の女たちに関して、僕が一番気に入っているポイントがあります。ネタバレになるんですけど、結局6人の女たちって動物が化けてるみたいな感じになっていて、その種明かしが一部を除いてスタッフロールでされるんですよ。この仕掛けはまじでめちゃくちゃいいなと思いました。

 

途中で彼女たちは動物だよっていうのは明かされるんですけど、えーじゃあなんの動物だろって考えながら見ていたのにエンディングを迎えて、「あれ映画終わっちゃうの、答え合わせは?」って焦っていたところに、スタッフロールで役名がどん。オサレポイントくっそ高いです。ストーリーおもんねえなって思いながら見てたので、そこで少しだけ救われました。

 

◉メッセージ性と主演二人の今後について考える

 

女たちをほめたところで、もう一つこの映画の嫌いなポイントをお伝えすると、メッセージの伝え方が安直すぎるだろと思いました。自然を守ろう、開発反対! みたいな。作風がミステリーとかサスペンスよりなのに、メッセージがでかでかと出ているので、すごくアンマッチだなと感じました。別に僕は自然破壊大好き人間ではないので、環境保護自体に文句を言うつもりはないんですけど、あまりにも映画全体の雰囲気に馴染んでおらず悪目立ちしていたなという印象です。

 

残された婚約者が縁もゆかりも義理もないのに、なんか環境を守ろうとしているところとか、すっごい無理やりキャラクターに喋らせているような感じがして一気に冷めてしまいました。前半にも書きましたが、本当に映画の終わらせ方がひど過ぎる。

 

最後に主演の二人について。竹野内豊さんって、昔はもっと演技に幅を持っていたような気がするんですけど、なんか最近は、丁寧な喋り方をする黒幕っぽいおじさんみたいな演技しか見てない気がします。序盤からもっと驚いていいはずのシーンで落ち着いているような感じで、やっぱり黒幕っぽさがありました。「キムタクは何をやってもキムタク」という有名な格言(?)がありますが、それに近い領域に入ってきました。

 

脚本も特に当て書きという感じはないので、ぴったりハマっているという印象も受けず、どんなシリアスなシーンでも「竹野内豊」が邪魔してくるような違和感がありました。

 

んで、山田孝之さん。皆さんお気づきかもしれませんが、彼は髭の濃さによって役どころの悪人レベルが判断できます。ウシジマくんとか、すごいでしょ? 今回はおひげがちょいもじゃくらいなので小悪党かなと思っていたら大当たりでした。最初は取り繕っていた化けの皮が剥がれて、粗野な人格をどんどんむき出しにしていく感じがすごく良くて、上記の竹ノ内さんと比較しても色々演じ分けが出来ているなぁと思いました。

 

シンボル性が高い固定の演技か、キャラクターを使い分ける変化の演技か。両者の演技を見比べる、という鑑賞の仕方も本作に関しては面白いかもしれません。なんせ、話自体が面白くないので。

 

◉まとめ

 

・ストーリーは破綻寸前でバランスが悪い

・6人の女たちはビジュアル・キャラクターともに◎

・何をやっても竹野内 髭の濃度で悪さが変わる山田孝之

・乳毛の謎だけはだれか解説お願いします

 

まとめると、大衆向けと芸術路線、二兎を追うもの一兎も得ず、な映画でした。

【感想】北極百貨店のコンシェルジュさん

北極百貨店のコンシェルジュさん

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映画情報

監督 板津匡覧

脚本 大島里美

原作 西村ツチカ 『北極百貨店のコンシェルジュさん』

主演 川井田夏海 大塚剛央 飛田展男

2023年/70分/G

 


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あらすじ(公式HPより)

新人コンシェルジュとして秋乃が働き始めた「北極百貨店」は、来店されるお客様が全て動物という不思議な百貨店。一人前のコンシェルジュとなるべく、フロアマネージャーや先輩コンシェルジュに見守られながら日々奮闘する秋乃の前には、あらゆるお悩みを抱えたお客様が現れます。中でも<絶滅種>である“V.I.A”(ベリー・インポータント・アニマル)のお客様は一癖も二癖もある個性派ぞろい。長年連れ添う妻を喜ばせたいワライフクロウ。父親に贈るプレゼントを探すウミベミンク。恋人へのプロポーズに思い悩むニホンオオカミ・・・。自分のため、誰かのため、様々な理由で「北極百貨店」を訪れるお客様の想いに寄り添うために、秋乃は今日も元気に店内を駆け回ります。

 

私的評価

★★★★★★★★☆☆  8/10

 

感想

 

◉疲れた体に染み渡る癒し系ムービー

 

最近はクソ重い映画とかクソ長い映画ばかり見ていたので、コメディアニメかつ上映時間がたった70分という今作は、本当に癒しでした。例えるなら、サウナの後の外気浴。なので、自己採点に関してはかなり甘めになっているような気がしないでもないです。とはいっても、相当クオリティが高い上、コンパクトにまとまっていて客観的に見ても完成度が高いアニメ作品となっていると思います。

 

個人的にはもっと上映館を増やしてもいいくらい力作だと思うんですが、時間の短さから見ても、どっちというとレンタルとかサブスクメインでターゲティングされてるのかなあと思ったり。やっぱネトフリとかアマプラが出来てから、映画の形は複雑になっていますね。

 

そんなことはさておき、本作の話に戻りますが、キャラクターデザインもすごく癒し系ですよね。原作はちょっと読んだ程度なんですけど、柔らかい画風がしっかり再現されていると思います。動物の擬人化メインなので相当デフォルメされているんですが、そういうのにありがちな野暮ったさはなく、シンプルながらも動きが洗練されています。特に、主人公がパタパタ動く様子は爽快で、見ていて気持ちよさも感じる程でした。ウミベミンクの親子に商品を勧めるシーンとか、ずっと見てたくなる。

 

ポップな表現と特徴のある動きと言えば、湯浅政明監督を思い出しますが、そちらと違って目に優しいというか、あくまで『パタパタ』なんですよ。伝わりにくいかもしれませんが、細部までことごとくこだわり抜いた動画表現というわけではなく、漫画的な描写のまま動くというか。もう何回言ってるか分かりませんが癒し系です。はい。

 

監督の板津匡覧さんはなんか名前みたことあるな程度の認識だったんですけど、wikiで調べてみたら、『電脳コイル』や『妄想代理人』の作画監督だとか。どっちも知っていたらアニメ通っぽさのある隠れた名作です。原画として参加している作品も数多く、当ブログで感想を書いた『バースデー・ワンダーランド』や、ジブリ系列も沢山。

 

今作での漫画的なデフォルメとキレのある動きの両立は、毛色が違う多くの作品を経験してきたことによる産物のような気がします。唯一無二の特色でした。

 

◉ストーリーはコッテリバリカタ

 

本作の構成ですが、4つのエピソードを詰め込んだ連作短編みたいな形となっています。単純計算で一つのエピソードが15.6分くらい? とてつもなく短く感じてしまいますが、中身が薄いのかというとその逆で、一つ一つ丁寧に描写されていたと思います。

 

北極百貨店でのお仕事という部分だけにフォーカスを当てており、無駄なものは一切合切、切り捨てる。普通の映画なら間を持たせるために入れがちな日常描写とか本筋と関係ない会話シーンとか、そんなものは全くありません。駆け足というわけではないんだけど、絶え間なく濃密なストーリーとアニメーションに飲み込まれるような感じでした。

 

ストーリー展開は王道な、いわゆる『お仕事系』。新人の秋乃が仕事で失敗しながらも成長していき、周りの人々(動物たち?)にも影響を与えて、最後には大団円のハッピーエンド、みたいな感じです。目新しい驚きはないベタなストーリーではあるんですが、とにかくテンポがいいので集中して見られる。社会人として見習いたい時間の使い方だと思いました。

 

お気に入りのエピソードで言うと、意中の子に告白するために、とある香水を探しているライオンの話。ライオン自体めっちゃ可愛いし、あとはお客さんが一緒になって助けてくれるシーンとか、何でもないはずなのに思わず目頭が熱くなりました。

 

というか、書いてて思ったんですけど、このシーンみたいに、あれ、何でこんなに感動してるんだろうって驚くくらいに、感情が静かに揺さぶられることが多かったです。動物に置き換わってますが、本質的には『お仕事系』ムービーなので、人の生き死にとかではなく、思いやりや助け合いでしっとりと感動させてくれます。それが波状攻撃としてくるもんだから、メチャクチャ効いてるんでしょう。

 

表題にもありますが、ストーリーを総じて言うならば、短い時間で出されたのに芯がしっかりしていて味は濃厚、つまり博多豚骨ラーメンみたいな味付けでした。例えが上手い! 自画自賛

 

◉ちょい役のキャストが豪華すぎる

 

ついで声優関連。メインキャストももちろん申し分ないんですけど、各エピソードに出てくるサブキャラクターたちなんですが、もうそこで予算使い果たしてるんじゃないかってくらい豪華です。福山潤さんとか中村悠一さんとか入野自由さんとか花澤香菜さんとか。ベテラン勢で言うと島本須美さんまで出てる。

 

日本アニメ界を代表する一線級の声優陣がそろい踏みです。アニオタ大歓喜ですね。賛否両論あるとは思いますが、昨今の劇場版アニメってTV版の続きものとかでもない限り、普通の俳優さんをメインに据えることが多いと思います。話題性って大事ですし、一般層を取り込めるし。そんな中、ここまで振り切ったキャスティングは逆に見事というほかありません。

 

実力派の声優が集まっているので、安心感をもって見られるってのが一番大きかったです。当ブログで何度も引き合いに出してる割には感想を書いていないあの『映画大好きポンポさん』とか、内容はくっそ面白いのに声の演技で引っかかる部分があったりしましたし。もっと話題作で言うと『君たちはどう生きるか』でも、ぶっちゃけあいみょんの演技、気にならないって言ってる人は強がりですよね。

 

もちろん、普段は声優なんてしない俳優さんであっても素晴らしい演技をされる方はたくさんいます。それでもやっぱりギャンブルみたいなところは否めないので、今作みたいにがっつり有名声優大集合してくれた方が、変なところで映画に入り込めないなんていう事態が少なくて、個人的にはこっちの方が好きです。

 

最後に声優的お気に入りナンバーワンで言うと、マンモスのウーリー役で出ていた津田健次郎さん。いつもはクールだったりエネルギッシュだったりするキャラクターを演じられていることが多いですが、今回は真逆でのんびりおっとり優しい感じ。それがビックリするほどキャラクターに声があっていてすごく意外なんですけど良かったです。

 

◉まとめ

 

・癒し系お仕事ムービーの傑作

・漫画的表現と動きの面白さ

・上映時間の短さを感じさせない密度のストーリー

古今東西豪華声優大集結

 

まとめると、2023年はしんどい映画が多かったのでホントに沁みました、な映画でした。

【感想】月

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映画情報

監督 石井裕也

脚本 石井裕也

原作 辺見庸 『月』

主演 宮沢りえ 磯村勇斗 オダギリジョー 二階堂ふみ

2023年/144分/PG12

 


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あらすじ(公式HPより)

深い森の奥にある重度障害者施設。ここで新しく働くことになった堂島洋子(宮沢りえ)は“書けなくなった”元・有名作家だ。彼女を「師匠」と呼ぶ夫の昌平(オダギリジョー)と、ふたりで慎ましい暮らしを営んでいる。洋子は他の職員による入所者への心ない扱いや暴力を目の当たりにするが、それを訴えても聞き入れてはもらえない。そんな世の理不尽に誰よりも憤っているのは、さとくんだった。彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で徐々に頭をもたげていく――。

 

私的評価

★★★★★★★☆☆☆  7/10

 

感想

 

◉障害者施設殺傷事件

 

本作は「相模原障害者施設殺傷事件」を題材とした作品です。事件当時の社会的影響や犯人の人間性が話題になったことなんかは記憶に残っている人も多く、時代を代表するといってもいい印象的な事件でしたが、あくまで映画レビューであるため深くは触れません。一つだけ言及するならば、犯人「彼らは人間ではないから殺してもよい」という

発言がこの映画の核となるテーマとなっています。

 

モラルに従って考えれば、この発言に対しては「否」という他ありません。彼らだって生きている以上、基本的人権はあるわけで、殺していいなんて持ってのほか。主人公である洋子もそちら側の考え方であるはずなんですが、施設で彼らの心があるとは思えない言動を次々に見せられるうちに、心はどんどん揺さぶられる。特に、暗闇の中、汚物まみれで虚空を見ながら自慰行為?をしているワンシーンがあるのですが、下手なホラーよりよくできてます。

 

犯人=さとくんとの対話シーンでその揺れが顕著に表現されるのですが、ところどころさとくんの言葉が自分の言葉になるような描写が背筋が凍るくらいに恐ろしく、この映画一番の見どころシーンと言えます。そして、ある意味そのシーンより恐ろしいんですが、犯人の発言について、YESともNOとも断言しないでこの映画はラストを迎えます。主人公たちは夫も仕事が上手くいき、ハッピーエンド的な終局を見せるんですが、その背後で流れているTVには、さとくんが起こした大量殺りくが放送されている。止めようと真剣に思えば、止められたはずの惨劇。そうしなかったのは、犯人が言う「彼らは人間じゃない」という発言に、少しでも同意してしまった自分がいるからではないか・・・。

 

観終わった後もモヤモヤが続き、現実生活まで浸食してくるような後味が残る映画でした。

 

磯村勇斗二階堂ふみのヤバさ

 

はい、メインテーマについて少し真面目に語ったところで、本作の映画的に面白いと思った点をいくつか紹介していきます。こっからはフランクに。

 

まずキャラクターですが、一番目を引いたのは、さとくん(磯村勇斗)と陽子(二階堂ふみ)

です。主人公である洋子(宮沢りえ)は障碍者施設に就職したてで、まともな人間の感性で視聴者側に近いのですが、この二人は明らかにどっかぶっ壊れてる感じを出しています。それが施設での経験なのか、生まれ育ちの影響なのか、曖昧にしているのもよいポイントだなと思います。

 

一番印象に残ってるのが、主人公の家にこの二人を招いて飲み会をするシーン。酒が入っているからと言い訳して、主人公の作品を思いっきり否定する陽子と、場をぶち壊すような死刑の豆知識を披露するさとくん。二人とも、圧倒的に空気が読めていない。発言した後にすっごい気まずい雰囲気になる主人公夫婦と、あれなにかやっちゃいました? みたいな感じで気づいていない2人の対比が、めちゃくちゃ嫌らしくて最高でした。

 

オダギリジョーさんも珍しく(?)気弱な夫役なので、こんな常識知らずの奴らにも笑って濁すだけなんですよね。普通は、だれかが怒って会話が終了しそうなもんだけど、なあなあにして流してしまう。映画全体を通して「見て見ぬふりをしていないか」という問いかけは一つのテーマになっていると思うんですが、それを端的に表した会話シーンだと思います。終盤でさとくんと二人っきりで話すときは、溜まっていたうっぷんを晴らすようにオダジョーがぶちぎれてた部分も含めてうまい構成だなと感じました。

 

というか若干話し飛びますけど、このぶちぎれシーン、めっちゃよかったんですよ。何が良かったかってオダギリジョーの演技ですよね。普通にキレるならだれでもできるんですけど、ちゃんと大人しい人が無理して怒ってるな、って分かる演技になっていて素晴らしかったです。

 

◉施設の描写は閲覧注意

 

次にメインとなる障碍者施設での描写ですけど、これはたぶん、人によっては受け入れられないかもしれないです。なぜなら、本物の障碍者の方が出演しているからです。映画でのそういった描写って俳優が演じているので抵抗なく見ることができるのですが、『本物』を見せられることに対して、正直なところ僕は少しだけ目をそらしたくなりました。

 

演技ではない本当の障碍者です。駄目だとわかっていても全く嫌悪感を抱かないわけにはいかない。描き方も、心優しい人たちって感じではなく、マジで話が通じない人々って感じなので、相当きつい。

 

思い出したのはやっぱり『フリークス』ですよね。本物の奇形者や障碍者見世物小屋の従業員という形で出演した、ある意味伝説の映画です。あれって国によっては上映禁止になるレベルの作品だったんですけど、割と今作もそれに近いレベルの作品だと思います。しれっとぎりぎりのラインを攻めてるなと。豪華めなキャストで誤魔化していますが、やっていることはかなり挑戦的です。

 

上映前のCMで「愛とイナズマ」が流れてたんですけど、これ本当に同じ監督なの・・・?って少しビビりました。向こうはよくあるテンプレ邦画って感じなので。

 

あとは施設の建物も、雰囲気が出ていてとてもよかった。森の奥に隠されるように立っていて、ぱっと見では牢獄みたいなんですよ。陽子が「隠したいからこんなところに施設がある」みたいに話すんですけど、なるほどその通りな外観です。特に夜中なんて、それこそもうゾンビでも大量に湧いてきそうな感じで、恐怖と不安を煽る効果的な舞台装置だったと思います。

 

◉ストーリーのスケール感

 

とまあ、ここまでまとめればすごく異質で特徴的な映画にはなっているんですけど、肝心のストーリーに関してもう少し広がりが欲しかったなと感じました。というのも、主人公の洋子は一時的に施設の従業員になるという形で、障碍者やさとくんたちと交流を持つのですが、そのことが何か全体のストーリーに影響を与えるかというと、さして何もなかったりします。

 

ストーリー的にはもちろん、色々動きはあるんですけど、それは主人公とその夫という狭いサークル内で進んでいくだけなんです。スケールの大きな虐殺事件を扱っている割には、メインストーリーがコンパクトにまとまりすぎていて、さとくんサイドの話と温度感が違いすぎて、ちぐはぐな印象を受けました。

 

単品で見れば、夫婦の再生物語として、そこそこ面白いものには出来上がってるんです。諦めていた子供ができて、夫の仕事もうまくいって、自分も作家として復活する、みたいな。ただ、メインテーマに対する必然性はあまり感じられず、結局は主人公たちがいなくても映画としては成り立ってしまうような気がします。もちろん、描きたいものは施設での話だと思うので、作品の意義としては満たしているわけですが、ぼく個人の好みかもしれませんが、やっぱり主人公たるもの映画の主観部分には深くかかわってほしかったというのが正直なところです。

 

ただまあ、若干こじ付けで言ってるだけなんですけどね。映画を見た後はそんなストーリーの構成とか主人公たちの存在感とか考えられないくらいにはダメージを負わされていて、最近になってようやく振り返ることができました。今年見た映画のなかでは、間違いなく一番破壊力がある作品だったと思います。

 

◉まとめ

 

・「見て見ぬふり」をさせない、メッセージ性の強い作品

・本物の障碍者が多数出演している挑戦作

・弱気なオダギリジョーの演技は必見

・心が落ち込んでいるときの鑑賞はお勧めできません

 

まとめると、冷静に振り返れば陽子(二階堂ふみ)も相当やばいやつだったな、な映画でした。

【感想】キリエのうた

キリエのうた

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映画情報

監督 岩井俊二

脚本 岩井俊二

主演 アイナ・ジ・エンド 松村北斗 黒木華 広瀬すず

2023年/178分/G

 


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あらすじ(公式HPより)

スワロウテイル』(96)『リリイ・シュシュのすべて』(01)――。時代を震わせてきた監督:岩井俊二×音楽:小林武史による新作映画が、遂に誕生した。
ふたりの心を射止めたのは、伝説的グループ「BiSH」を経て、現在はソロとして活動するアイナ・ジ・エンド。歌うことでしか“声”が出せない路上ミュージシャン・キリエ役で映画初主演を果たし、本作のために6曲を制作。スクリーン越しに圧巻の歌声を響かせる。

アイナと共に“運命の4人”を演じたのは、次代を担う面々。姿を消したフィアンセを捜し続ける青年・夏彦役に、松村北斗SixTONES)。過去にとらわれた青年の複雑な心情表現を細やかな演技で魅せる。傷ついた人々に寄り添う教師・フミ役は、黒木華。清らかな慈愛を体現し、物語に奥行きを与える。過去を捨て、名前を捨て、キリエのマネージャーを買って出る謎めいた女性・イッコ役には、広瀬すず。今回は従来のイメージを覆す役どころに挑み、新境地を拓いた。

石巻、大阪、帯広、東京――。岩井監督のゆかりある地を舞台に紡がれる、出逢いと別れを繰り返す4人の壮大な旅路。儚い命と彷徨う心、そこに寄り添う音楽。 “あなた”がここにいるから――。13年に及ぶ魂の救済を見つめたこの物語は、スクリーンを越えて“貴方”の心と共振し、かけがえのない質量を遺す。

 

私的評価

★★★★★★★☆☆☆  7/10

 

感想

 

◉『リリィ・シュシュのすべて』は146分でした

 

岩井俊二×音楽映画と言われれば、どうしても僕は「リリィ・シュシュのすべて」を思い出します。まだ思春期だったころに見たんですが、あの衝撃は今でも忘れられません。どん底に暗い内容と透き通った音楽、繊細で幻想的な映像美。おそらく、邦画というジャンルを愛するようになる一因となった映画の一つであります。

 

というわけで期待度マックスで鑑賞したわけですが、普通に面白かったけど少し不満もあるというのが正直な感想です。

 

不満点から先に言っちゃいますと、この映画、半端なく長いです。

 

最初上映時間を見ずに、時刻だけみて映画館に入ったので、大体2時間くらいかーと勘違いしてました。ところが中々映画が終わらず、おかしいなと思いながら終了後確認してみると1時間計算がずれててなんと上映時間178分!! この前BADLANDSでなげーなーと文句を言っていたのですが、そこからさらに35分も長い映画です。やば。

hougatarou.hatenablog.com

なんとこれ、長いことで有名なインド映画と大差ありません。昨今話題になった『RRR』が179分。ほとんど一緒。あっちはアクション主体なので、長さを感じることは少なく、楽しく最後まで鑑賞することができたんですが、映画のスタイル的に静かなシーンはとことん静かなので、やっぱつれえよ(長時間視聴)。30分アニメ6話分、すなわち半クールですよ、冷静に考えなくても長すぎる。

 

もう少し短くするならば、過去のシーンはちょっと削ってもよかったんじゃないかなと思います。そちらだけでも映画として十分成立するくらいの描写量なのですが、そこまで現在と密接に話が関わってきているかというと、うーんそこまでって感じなので。

 

ただ、一つだけ恐ろしい豆知識としては同監督作品の「リップヴァンウィンクルの花嫁」は180分なんですよね・・・。毎回長いわけではないんですけど、黒木華さんが出てると長くなる法則でもあるのかもしれません。

 

◉とりあえずバレエ躍らせとけの精神

 

さて、肝心の映画内容ですが、もうまさに岩井俊二監督作品って感じの映画です。冒頭のシーンでキリエとイッコが小汚い中華料理屋で会話するんですけど、台詞の空気感とか間とかがすっごい独特で。少しくさいというか、わざとらしい表現が多いんですけど、それを全体に馴染ませているから自然とリアルに見えるというか。ああ、岩井俊二劇場が始まったな、と実感させられます。

 

それでいうと、映像面もごりごりに個性が出てましたね。特に雪のシーンとか本領発揮って感じで、固定して切り取った背景の中、登場人物たちが動くみたいなカットが多く、あくまで架空の人物ではなく、実際の風景の中でキャラクターが生きているような撮り方です。あとは表現がこれで合ってるか分からないんですけど、スモーキーな感じの映像が多い。もやもやっとしてて幻想的な。言語化するのが難しいんですけど、そんな感じです。

 

忘れてはいけないのが、岩井俊二作品と言えばやっぱりバレエですよねバレエ! とりあえずシリアスなシーンでバレエ躍らせるみたいなの、それこそ『リリィシュシュ』からあったんですけど、今作でもきっちりとありました。監督のフェチズムというか、嗜好が透けて見えてすっごい好きです。もうそのシーンがあるだけで、「あ、岩井俊二監督だ」ってわかりますから。

 

で、まだまだ監督愛を語るとするならば、映像とか音楽とかは芸術的な仕上がりとして評価されることが多いんですけど、内容は俗っぽさをしっかり出しているっていうのも好きなんです。今回だと、キリエが逃げたイッコの代わりに中年男に襲われるシーンとか。全然たたねえよ、って諦めるところまで含めて、下世話だけど緊張感があってなおかつ美しいみたいな。『リップヴァンウィンクル』ほど前面に出しているわけではないですけど、そういう垣間見える俗っぽさもこの監督の味だと個人的に思っています。

 

色々書いてきましたけど、結局何が言いたいかというと、ストーリー展開とかキャスティングとかで個性を出す監督っていうのは結構いると思うんですけど、映画全体として自分の色を出している監督って、邦画界では中々いない貴重な存在だと思います。人気の原作があって、それをいかに面白く作れるか、みたいな作品が多い中、なりふり構わず我が道を行く姿勢。そりゃあ好きになるでしょうって話です。

 

◉ストーリーとキャスティング

 

ストーリー展開についてですが、これは最初にも言ったように、もう少しコンパクトにしてもよかったと思います。今作の売りって、なんといってもアイナ・ジ・エンドさんの歌じゃないですか。だから、現在のキリエを中心にしたストーリーの割合をもう少し増やしてもよかったんじゃないかなと。過去編も面白いんですけど、黒木華さん演じる先生の存在は果たして映画上に必要だったのかなと疑問は残ります。小学生時代はもういっそのことバッサリ切っても映画全体のストーリーに影響は少なそうだと思いました。

 

というのも、本作は現代・キリエ小学生時代・キリエ高校時代の3つの時間軸が行き来して展開されるんですが、その中でも小学生時代では『キリエと黒木華先生の交流』と『キリエの姉と夏彦の恋愛』の2軸があってかなりボリュームいっぱいなんです。恋愛編はラストも含めて、キリエという人物形成に多大な影響を与えているので必要だと思うのですが、先生のところってその恋愛の過去話を聞くためだけにあるようなパートで、それにしては尺が長いんですよね。他のキャラは現代でも出てきたりするんですけど、先生だけは一切出てこないし。

 

シーンとしては別につまらないわけではないと思うんですけど、やっぱり映画って連ドラとかと違って限られた時間で勝負する、っていうのが一つの醍醐味だと個人的に思ってはいるので、もっとスリムにしてもよかったんじゃないかなと思います。

 

あとはキャスティングについてですが、かなり挑戦的な部分が多かったと感じました。主役のアイナ・ジ・エンドさんからそうですけど、霜降り明星粗品さんとか出てきたときには思わず笑ってしまいました。アイナさんですが、演技が上手いかと言われると、本当に絶妙なんですよね。言葉が喋れないっていうキャラ付けはしっかり表現できてるのかと思えば、過去編で普通にしゃべるシーンとか見ると、現代編の演技とあんまり大差なくて、元からそんな声なのかよ、って思っちゃいました。

 

キャスト面で言うと一番はやっぱり広瀬すずさんなのかなあと思います。高校時代の演技とかめっちゃ可愛いし、現代ではエキセントリックな岩井俊二ワールドのキャラクターを見事に演じ切っていると感心しました。少女らしい純真さと、結婚詐欺師としてのあざとさの使い分けも素晴らしく、本作のMVPだと思います。

 

◉映画における音楽のパワー

 

最後はやっぱり、音楽について少しだけ触れます。あんまり詳しくないのでもう直感的に少しだけ。

 

音楽は『リリィシュシュ』でもタッグを組んでいた小林武史さん。作中で何度も流れる『キリエ・憐れみの讃歌』はめちゃくちゃ耳に残るし、曲調も映画の内容とマッチしていて素晴らしい。この耳に残るっていうのも僕はかなり重要な要素だと思っていて、過去の名作を頭の中で思い出すときって、何かしらのBGMがセットになっていますよね。代表的なところで行くと『ジュラシックパーク』とか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか。音楽と映画ってセットで記憶に残るものなんです。

 

映画音楽って最近だとちょっと軽視されている部分があって、BGM流さないほうがカッコいいみたいな風潮もあるような気がするんだけど、やっぱりいい映画にはいい音楽なんですよ。岩井俊二監督のスモーキーな映像にはクラシック風な音楽が似合う。ベストマッチ!

 

また映画を作る際には是非タッグを組んでよい作品を作ってほしいと思います。できれば90分くらいで!

 

◉まとめ

 

・約3時間の戦い、キャスト目当てで見る人とかにはきついかも

・なんと素晴らしき岩井俊二ワールド

・天真爛漫な悪女、広瀬すず

・映画にとって、音楽は超重要だと個人的に思います

 

まとめると、岩井俊二作品からしか得られない栄養素がある、な映画でした。

 

【感想】リゾートバイト

リゾートバイト

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映画情報

監督 長江二郎

脚本 宮本武史

主演 伊原六花 藤原大祐 秋田汐梨 松浦祐也

2023年製作/86分/G

 


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あらすじ(公式HPより)

大学に通う内田桜(伊原六花)は引っ込み思案の性格でなかなか周りに溶けこめない生活を送っていた。幼馴染で同じ大学に通う真中聡(藤原大祐)は、そんな桜を気分転換のために同じく幼馴染の華村希美(秋田汐梨)と共に、旅行を兼ねてとある島にある旅館のリゾートバイトに誘う。

桜たちが働くことになった旅館は夫婦とフリーターの岩崎で営んでいたが、旅館の主人・健介(坪内守)が足を怪我したことで急遽桜たちをバイトとして雇ったのだった。本格的なシーズン前でもあり、十分な休憩時間があった桜たちはリゾート地を楽しむことができ、その中で桜も自然と笑顔を取り戻してゆく。そんなある日、桜は女将の真樹子(佐伯日菜子)が毎晩、深夜にひっそりと廊下を歩き、食事を運んでいる姿を目撃し、言い知れぬ不安を抱く。それから数日後、朝食時に岩崎(松浦裕也)から桜たちは"この旅館にある秘密の扉"を探る肝試しを提案される。

この誘いが後戻りできない恐怖体験の始まりだった。

 

私的評価

★★★★★★★★☆☆  8/10

 

感想

 

ヒッチハイクのリベンジなるか

まずは前回までのおさらいで、関連作品を紹介。

 

ヒッチハイク

監督は違いますが、脚本家が同じで、いわゆる2chホラー系映画。凡作

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『きさらぎ駅』

監督・脚本が同じの前作。ぶっ飛んだ異色作かつ良作

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まず、『きさらぎ駅』を見て超おもしれえじゃんとなったんですけど、同じテイストと話題だった『ヒッチハイク』が期待外れで物足りなかったというのが前提としてあって。今作を見るにあたってはまさに鬼が出るか蛇が出るかといった心境でした。なんか毎回映画を見るたびに似たようなことを言ってるな、俺。

 

そんなわけで公開初日に映画館へと足を運んだのですが、これがくっそ面白かった。相変わらずカメラワークとかBGMの使い方はお世辞にも上手とは言えないんですけど、キレッキレでしたね。こうくるかー、と。感想を言ってしまえば完全にネタバレになるんですが、これはレビューとか見ないで見たほうがいいタイプの映画だと思いますので、まだ未視聴の方はこれ以降見ないほうがいいです。一言だけ言うならば、ットホラーファンへのファンサービスがやばい。

 

◉序盤はフツーのB級ホラー

 

とまあ絶賛から入りましたが、すべてが面白くて完璧な映画かと言われるとそうではなくて。

 

こんなところまで踏襲しなくてもいいとは思うんですけど、『きさらぎ駅』同様、本作も前半パートは退屈でした。なんか当たり障りのないB級ホラー映画って感じで。フェリーに乗って謎の島へ向かうところからスタートするんですけど、もう何回見たんだってくらい既視感があるオープニングですよね。最近で言うと『忌怪島』とかを彷彿とさせます。ちなみにそっちは感想書いてませんけど、あんまり面白くなかったので見なくていいと思います。

 

一応前作に比べると予算が上がったのか、映像とかセットとかはすごくきれいになってはいたので、酷い映像で見るに堪えないということはありませんでした。ただ、ホラー映画の肝となる恐怖を煽るシーンは、急な大音量とか映像とかで驚かせる安っぽいジャンプスケアが中心で、残念な感じ。よくある怪異自体ははっきり見せないタイプなんですけど、あまりに直接見せなさすぎて美術面で予算が足りてないのかなと勘繰ったり。

 

あとは主人公たちのキャラもあんまり好きになれませんでした。特に聡くんですが、お刺身勧められても嫌いだからとガン無視したり、ぎっくり腰になった人に対して大丈夫ですかの一声もかけずに水を掛けたり。でも女子二人からはいい人、みたいな扱いなので違和感しかありません。フリーターのおっさんも気持ち悪いし、旅館の夫婦も愛想が悪いしで、はっきり言って好きになれそうなキャラクターが見当たらない。唯一、ギャルの希美ちゃんだけが癒しでした。

 

ストーリー展開も特にひねりがなく、原作準拠。好奇心で入った場所で呪われて、化け物たちに追いかけられて、霊障を受けまくり。ほんで、「お前らあそこに入ったんか」のお決まりフレーズが決まったと思ったら、何故か訳知り顔の強キャラっぽい寺の住職が現れて伝承がどうたらと解説が入る。主人公の桜ちゃんはまだ無事だけど危ないから除霊しようとお寺のお堂に隔離されちゃう。絶対に出たらだめだと言われるんだけど、友達の声で「もう出てきて大丈夫だよ」って声を掛けられる。はい、ここまでテンプレです。

 

いわゆる2ch系ホラーの王道的展開で、いよいよラストなのかなーと思ったとき、ふとある違和感に気づきました。あれ、まだ50分くらいしか経ってなくね? 展開が早すぎる。まさか、ここから何か巻き返しがあるのか?

 

困惑する僕を置き去りにして、映画は無常に進みます。スクリーンでは、あからさまに騙されてるのに、桜ちゃんがふすまを開けてしまうシーンが流れる。いよいよ、怪異とご対面です。するとそこにいたのは・・・。

 

◉あの孤独なシルエット(身の丈八尺)は・・・?

 

見上げるほどの長身。

つば広帽子にワンピースという佇まい。

ぽぽぽぽ、という奇声。

 

俺は知っている。まだ、名前すら1ミリも映画に登場していないのに、何故か俺はコイツの存在を知っている!!!

 

リゾートバイトだと思った? 残念、八尺様ちゃんでした。

 

はい、爆笑です。怖いシーンであるはずなのに、笑いが止まりませんでした。

 

やられた。思い返してみれば伏線はありました。聡くんがやられちゃったのも、子供に襲われてたはずなのにめちゃくちゃでかい相手だったし、そもそもシルエットとして出てきた時も怪しかった。あとは、リゾートバイトなのに「禁后(パンドラ)」という他の洒落怖(2chの怖い話まとめみたいなの)要素も出てきていて、なんかごった煮だなあ、と思ってはいたんだけど、そんなレベルじゃなかった。あと、今気づいたんですけど、ポスターの影!

 

というか、これ八尺様もリゾートバイトも知らない人が見れば、マジで意味が分かんない映画ですよね。僕みたいなネット怪談好きで、そもそも原作を知っている人間を狙い撃ちにしたかとしか思えない。「絶対に先が読めない86分」とポスターには銘打たれていますが、そりゃそうですよ。劇場版「リゾートバイト」を見ていたはずが、本当は劇場版「八尺様」だったんだから。いかれてる(誉め言葉)

 

そこからの展開ですか? あーもうめちゃくちゃだよ。

 

◉やりすぎなくらいがちょうどいい

 

後半戦は完全にコメディとなっております。いろいろあって、桜ちゃんの体に寺の住職、聡君の体に中年フリーターが入る(!?)ことになるんですけど、そこからは八尺様とのドキドキハチャメチャ大乱闘が始まります。

 

まず、カーチェイスからはじまるんですけど、めっちゃキモイ走り方をしている八尺様と峠で公道バトルです。一応、『八尺様』の元になった2chの怖い話にも車で追いかけられるシーンがあるので原作準拠だと言われればそうなんですけど、リゾートバイト要素はどこへ行ったんだ・・・。スピードを上げたら振り切られそうになる八尺様の姿とか、あとは物語序盤にギャルがスマホで車のゲームしてるのが実は伏線だったというあまりに馬鹿らしい伏線回収が悶絶するほど面白かった。

 

そんで次は謎の霊力バトル。袖からお札をナイフみたいにしゃきんと出して戦うシーンなんて、前半戦からは絶対に予想できませんよね。バトルしだしたらもうどのシーンを切り取っても意味が分からないんですけど、伊原六花ちゃんの口調が中身住職な影響で「のじゃロリ」キャラみたいになっててめちゃくちゃ可愛いと思いました。

 

もう本当にここらへんのパートはホラーから逸脱していてジャンルが変わってしまってるんですけど、まあ中途半端にもじもじするよりかはアクセル踏み抜いてくれた方が映画は面白いから、良し! てな感じです。

 

最後のオチはそれまでの伏線を回収しつつ、ジャパニーズホラーらしい苦い後味を残すものになっていて、結局ホラーじゃんと感心しました。まさか生魚嫌い設定を最後にそう持ってくるとは。絶対無駄な設定でしょと侮っていました、ごめんなさい。

 

◉続編に期待するけどネタが、ね

 

というわけで、『きさらぎ駅』に続きぶっ飛んだ名作だったわけなんですけど、監督曰く2chホラー作品はいったんこれで作り納めとのこと。僕としてはもっといろんなのを見たい気持ちはあるんですが、結局2chホラーが流行ったのって一昔前で、最近ではめぼしい怪談は生まれてないんですよね。もちろん、怖い話は投稿され続けてると思うんですけど、『八尺様』とか『くねくね』とか『コトリバコ』とか、そういう分かりやすいキャラクターが誕生していない。

 

偉そうにちょっとだけ分析すると、実話系ホラーって、長文の体験談を投稿するっていうのが基本の形になるわけです。なので、掲示板方式の2chが最盛期だった10~15年前くらいにたくさんの作品が生まれました。しかし、今では短文投稿のSNS隆盛期になっていて、そういう実話怪談が誕生しにくい土壌になってしまっているのかなと。小説サイトとか個人ブログで書くっていう手もありますけど、実話系怪談の魅力って「投稿者の匿名性」っていうのも大きくあると思うんですよね。そういったサイトだとどうしても書いている人の個人性ってのが見えてしまって、魅力が半減してしまうんじゃないかなと思います。

 

何が言いたいかと言えば、もうそろそろ2ch系ホラーも潮時なのかなあと。一時期は本当にひどい作品が乱立していたところに、こういった面白い作品が出てきてくれて嬉しいんですけど、ネタがない。もういっそのこと、クソ映画になった怪談たちを作り直してほしいと思うんですけど、利権がややこしそうで難しい気がします。

 

ただまあ、今作はそんな2chホラーの終焉を彩るにふさわしい、お祭り作品になっていますので、最後の花火としてはふさわしい映画だったんじゃないかなと。そんな通ぶった感想を夏の終わりにしみじみ思うわけです。おしゃれ。

 

◉まとめ

 

・『きさらぎ駅』タッグが贈る渾身の快(怪)作

・前半部分→Bいや、C級? くらいのホラー映画ですよね

・後半部分→タイトル詐欺(直球) ジャンル詐欺(歓喜)

・実話ホラーに光あれ

 

まとめると、八尺様とリゾートバイトを超融合、な映画でした。

【感想】鯨の骨

鯨の骨

ポスター画像

映画情報

監督 大江崇允

脚本 大江崇允 菊池開人

主演 落合モトキ あの

2023年/88分/G

 


www.youtube.com

 

あらすじ(公式HPより 長かったので一部省略)

結婚式を間近に控えたサラリーマンの間宮(落合モトキ)は、ある日突然、婚約者の由香理(大西礼芳)から浮気しているとカミングアウトされて破局してしまう。なかば自暴自棄になった間宮は、マッチングアプリに登録し、唯一返信をくれた若い女性(あの)と喫茶店で待ち合わせる。 車で自宅のマンションに向かいながら、間宮は相手がまだ女子高生であることに気づく。一瞬躊躇するも、どこか挑発的な少女の誘いについ乗ってしまう。しかし先にシャワーを浴びている間に、少女は大量の薬を飲んで自殺してしまっていた。うろたえながらも証拠隠滅をはかり、死体を山中に運んで埋めようとするが、穴を掘っているうちに、車のトランクに入れていたはずの死体は消えてしまっていた。 間宮は罪の意識と死んだ少女の幻影に怯えるようになり、仕事にも身が入らなくなってしまう。

ある夜、ネットアイドルの凛(横田真悠)と彼女のファンたちに話しかけられる。彼女たちは「王様の耳はロバの耳(通称ミミ)」というARアプリにハマっているという。誰かが「ミミ」を使って映像を投稿すると、ユーザーはその映像を撮影された場所でだけ再生できる。 凛から「ミミ」ユーザーたちのカリスマ、“明日香”の存在を知った間宮は、その姿を見て驚く。自宅のマンションで自殺した少女と瓜二つだったのだ。

間宮は、消えた“明日香”の行方を知ろうと、新しく投稿された映像を探し始める。間宮は“明日香”が投稿した映像を探しながら、ときに寂しく、ときに優しく、場所ごとにガラリと印象を変える“明日香”に魅了されていく。 “明日香”の痕跡を追いかけるうちに、現実と幻想の境界が曖昧になっていく間宮。いったい“明日香”とは何者か? 彼女は死んだ少女と同一人物なのか? そして本当に存在するのだろうか?

 

私的評価

★★★★★★☆☆☆☆  6/10

 

感想

 

◉あのちゃん!?

 

あのちゃんの存在を知ることになったのは水曜日のダウンタウンでした。ラヴィットに出演して大喜利で遠隔操作されてボケまくる、あの企画です。多分、そのきっかけであのちゃんのことを知った人も多いと思うんですけど、いやいや、そのキャラクターで演技なんてできんの!? と気になったのが一番の鑑賞理由でした。

 

結果としてみれば、普通に演技してて驚き。特段、めちゃくちゃ上手いわけではなく、特有の舌足らずな喋り方はそのままなんですが、表情の作り方とかは割と上手で、見ていて不快感なく楽しめました。調べてみると、ちょっと映画は出ていたみたいで、邦画好きを名乗っているにも関わらず、知識不足で反省です。

 

生死不明の状態で主人公を揺さぶるヒロイン役なわけですが、これはおそらく当て書きな気がするくらいにはぴったりな配役でしたね。独特な空気感と間が唯一無二。バラエティでしか彼女を知らない人は、是非見てほしい。とても驚くと思います。

 

あとはいきなりネタバレっぽくなるんですけど、そもそも女子高生役は年齢的に無理があるんじゃないの? と思っていたんですが、その疑問を完全に逆手に取られましたね。参考書とか伏線の貼り方もよかったと思います。あのちゃんみたいな見た目の女子高生が勉強とかするわけないしね(偏見)

 

今作はなんとエンディング曲もあのちゃんが担当していて、まさにあのちゃん尽くしの一作となっております。僕は特別ファンというわけではないですが、ファンの方には聖典となるような内容なのではないでしょうか。

 

◉技術の進歩と承認欲求

 

本作の大きなテーマとしては「SNS」になるのかと思います。「mimi」という架空の動画投稿型SNSアプリを中心にしてストーリーが回っていくんですが、その設定がとてもよかったと思いました。AR機能を使って、実際の町に動画を埋め込み、その場所に行かなければ投稿した動画を再生することができない、という現実にあれば絶対流行らなさそうなSNSなんですけど、現実と空想のはざまで精神的におかしくなっていく主人公を惑わせるツールとして、非常に効果的な使われ方をしていました。目の前に出てきたあのちゃんは現実なのか、はたまたその場所に残された動画なのか、みたいな。

 

あとは、終盤にあのちゃんが主人公の家に動画を残していたことが分かるんですけど、それを求めてファンが暴走していくのも、サイコスリラー感があってよかったです。SNS上でよく目にする厄介ファンたちの目に余る言動が、現実と連動したアプリではこうなるのかと説得力のある表現になっていました。

 

少し脱線しますが、厄介ファン役の宇野祥平さん、良かったです。彼は映画に出ると9割越えの確率でヤバいおっさん役をしているんですけど、今回もご多分に漏れずやばいおっさんでした。何気ない話しながらしれっと主人公携帯のGPS調べたり、何もしないから動かないでくださいね、っていいながらナイフで刺して来たり、もう本領発揮って感じでサイコパス味が溢れてて。宇野君はやっぱ最高やな!!

 

はい、話を戻します。SNSと対になるテーマとして「承認欲求」というのもありました。結局のところ、人間がSNSをするのって誰かに認められたいからというのが大きいと思うのですが、今作ではその部分もかなーり嫌な感じに描いていました。公園で動画撮影とかしてるシーンとか、自分たちを無理やり正当化している感じとかが、すごく気持ち悪くてとてもよかったです。

 

とまあ、社会派なメッセージ性はすごく感じられる映画だったとは思うんですけど、それが面白かったかと言われれば、そこそこだったんですよね。扱っているテーマが抽象的だからか、全体的にぼんやりとした展開が続いて中弛みしちゃってる気がしました。かと思えばラストは急に現実に戻されたような感じでパッとしないし。(まあ、ラストシーンが本当に現実なのか、という伏線が序盤に貼られてたりするんですけど、そこまで言及しないので一見そんな感じで終わります)

 

ミステリー路線で行くならもっと伏線回収とか謎解き要素とか増やしてもよかったし、幻想的にいくならあのちゃんの生死とか最後まではっきりさせないほうがよかった。どっちつかずな中途半端な脚本になっていた印象です。

 

◉映像に関して

 

次に映像に関してなんですけど、多分低予算だったと思うんですが、その割には色々工夫して撮ってるなあというのが感じられる出来になっていました。静止画の間の取り方とかがすっごい好み。基本的に夜のシーンが多いんですが、明暗がくっきりと分かれていることが多く、見やすい上に印象的な映像になっていたんじゃないでしょうか。予告編にもありましたけど、公園のシーンとか工場跡のシーンとかはそれが顕著にみられます。

 

あのちゃんに対する撮り方もこだわりを感じました。おそらく動画っぽいところはカメラ目線で、それ以外は横からだったり遠くからだったりと意図的に分けていて、視聴者が判別しやすいような工夫がされています。地味な部分ですが、そういう積み重ねが見やすい映画を作るうえで大事なことだと思いました。

 

あとは結構、みんなが一斉に自分の方を見ている、みたいな映像が多かったです。苦手な人は苦手かも。僕的には、SNS上で炎上しているのを表現しているのかなと思って、そこそこ好きでした。

 

全体的に動きは少ないカメラワークなんですけど、そこも静かなBGMとマッチしていて、タイトル通り深海の底にいるかのような映像にこだわってるなあと感じる作品でした。

 

◉突き抜けが足りない

 

とまあ、割と映画自体は褒めてるんですけど、イマイチ物足りなさを感じることが多かったのが正直なところです。退屈ではないんですけどね。AR技術とSNSという、現在進行形で発展を続けているものを取り上げておきながら、テーマ的にもストーリー展開的にも、既視感が強い。まとまってはいるんだけど目新しさが少ない映画だと感じました。

 

せっかく主演=あのちゃんでかなり奇をてらって(?)るんだから、もう一歩はじけてほしかった。

 

主人公も無気力な会社員っていうあんまり特徴のないキャラ付けだったし。個性が少ないほうが感情移入はしやすいんだけど、もう少しの味付けは欲しかったです。特に今作では序盤から終盤までほとんど主人公が映った状態で映画が進んでいくので、そこが薄味だったから平凡な映画だなと感じてしまった要因になったんじゃないかなと。

 

最初パンツ一丁で現れたときは何かしてくれそうなオーラは感じたんですけどね。

 

◉まとめ

 

あのちゃん、意外とすごい

SNS怖い

・信者も怖い

・全体的に平均点な感想

 

まとめると、「あのちゃん」と「うのちゃん」の夢の競演、な映画でした。

 

【感想】福田村事件

福田村事件

ポスター画像

映画情報

監督 森達也

脚本 佐伯俊井上淳一 荒井晴彦

主演 井浦新 田中麗奈 永山瑛太 東出昌大

 

2023年/137分/PG12

 


www.youtube.com

 

あらすじ(公式HPより)

1923年9月1日11時58分、関東大地震が発生した。そのわずか5日後の9月6日のこと。千葉県東葛飾郡福田村に住む自警団を含む100人以上の村人たちにより、利根川沿いで香川から訪れた薬売りの行商団15人の内、幼児や妊婦を含む9人が殺された。

行商団は、讃岐弁で話していたことで朝鮮人と疑われ殺害されたのだ。逮捕されたのは自警団員8人。逮捕者は実刑になったものの、大正天皇の死去に関連する恩赦ですぐに釈放された…。

これが100年の間、歴史の闇に葬られていた『福田村事件』だ。行き交う情報に惑わされ生存への不安や恐怖に煽られたとき、集団心理は加速し、群衆は暴走する。これは単なる過去の事件では終われない、今を生きる私たちの物語。

 

私的評価

★★★★★☆☆☆☆☆  5/10

 

感想

 

◉説明的なセリフが多い

 

監督の森達也さんはオウム真理教を取材した「A」など、ドキュメンタリー作品で有名な方で、僕も「A」は映画と書籍両方見たくらいには好きです。今作は映画監督初挑戦ということで、かなり未知数な状態からの鑑賞でしたが、うん、まあ、面白いことは面白いんだけど、気になる点がちらほらありました。

 

一番うーんとなったポイントとしては、説明口調が多すぎたことでした。題材としている福田村事件は、当時の情勢が深く絡んだ結果として起こったものなのですが、それをキャラクターに説明させるものだから映画として不自然な感じになっていました。主人公が「〇〇というところで起きた〇〇という事件だが、これはあれこれどういう事件で、その時私はそこにいたのだが・・・」的なセリフを言ったり、「〇〇? それってあれだろ、どうたらこうたらがどうたらこうたら・・・」みたいにわざわざ解説が入ったり。

 

扱っている題材からし知名度が低いので、何かしら説明を入れるべきなのは分かりますが、キャラクターが無理やり喋らされている感がすごくありました。当時の暮らしや人々の言動なんかはとても高いクオリティで再現されていて、リアルな生活感があるシーンが多いんですが、そんな中でそういう風な説明を入れられるととても冷めてしまうというか、わざとらしいなと感じてしまいました。

 

これがドキュメンタリー作品であれば、観客はその映画で取り上げられているテーマについて知りたいという欲求があるので別にいいんですが、今作の場合、あくまで普通の物語映画として見に来ている観客が大半なので、そこに制作側とこちら側とで温度差があったような気がします。

 

まあそもそもがノンフィクションっぽさもある映画なので、ある程度は許容すべきなのかとは思うんですけど、僕みたいにただエンタメに浸りたい人間からするとイマイチ映画に没頭できないポイントになっていました。

 

◉主張がくっそ強い

 

もう一つの残念だったポイントとして、監督の政治的な主張が色濃く出すぎていたように感じました。別に映画でそういうのを主張しても構わないとは思うんですが、あからさまにやりすぎだと感じます。

 

朝鮮人は本当はいい人なのに、差別していた日本人は駄目だ。

村社会は陰湿で、軍人は悪者。

 

そういう考えがあって映画を作ること自体はいいんですけど、キャラクターたちがその考えをお人形みたいに喋らされているような気がして、はっきり言って気持ちの良い映画ではありませんでした。特に主人公に関しては、監督の考えを伝えるためだけに村にいるかのような存在で、物語上の必要性を感じられませんでした。

 

こんな風に主義・主張が大きく絡むような映画ってバランス感覚が大切だと思っていて、以前鑑賞した「マイスモールランド」なんかはその部分が非常に上手だったので、政治的な話でもこちらは違和感なく見ることができました。

 

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肯定的なところも否定的なところも、フェアに映画に取り入れることで観客側が受け取り方を取捨選択できるのがよかったんですけど、今作は監督の一面的な意見ばかりが押し出されていて、見る側に選択の余地がありませんでした。

 

あとは、殺された人たちって被差別部落出身者で朝鮮人ではないのですが、それにしては朝鮮絡みの話が映画の大半を占めていた辺り、すごく恣意的な感じもして。別に僕自身そういう主張があるわけじゃないんですけどね。韓国映画も好きだし。

 

◉マイナスポイントを除けば映画としては高品質

 

とまあ、否定的な意見ばかり言っていますが、肝心のストーリーはというと、普通に面白かったんですよね。村側と殺された商人側とで話が進んでいくんですが、キャラごとの描写が丁寧で、どちらに対しても感情移入ができる。特に商人たちが貧しいながらも明るく仲良く旅をしている様子はとてもよかった。村側と違って、あんまり変な主張みたいなことも言わないので、見ていて気楽だったというのもあるかもしれませんが。

 

その分、ラストの虐殺シーンはかなり胸に来るものがありました。血のりとかもだいぶ怪しくて、決してクオリティが高いシーンというわけではないんですが、和太鼓の不穏なBGMも相まって、すごく緊張感のある映像だったと思います。

 

村側の描写も悪くはなかったと思います。基本的にはほとんど浮気の話なんですけど、まあ狭い村なんでそれくらいしか楽しみがないよね、と。後半になり、デマに踊らされて自警団を結成するシーンなんかは、前半ののほほんとした村の空気が変わっていく緊張感がとてもよかったです。集団心理の怖さがよく表現されていて、すごくドキドキさせられました。

 

少しわき道にそれすぎて話が取っ散らかってしまった感は否めないですが、群像劇としてまとまっていて、シーンがちぐはぐになったりするようなことはなかったので、楽しんでみることができました。

 

◉メインも脇役もキャストはいい感じ

 

最後にキャストについてですが、柄本明さん、よかったですよね。死にかけのおじいちゃん役なんですが、本当にいつポックリ逝ってしまってもおかしくないような演技が素晴らしい。それと田中麗奈さんですが、とにかくエロかったですね、ええ。この人ってこんなインモラルな感じでしたっけ。お風呂場のシーンとかマジでやばいですよ。

 

あとは、メインキャストだけでなく、サブの人たちも全体的に時代背景に沿った演技とキャスティングが徹底されていたなと感じました。コムアイさんなんか絶対浮くだろと思ってましたけど、溶け込んでましたし。軍人たちの堅物っぷりというか、融通が利かない感じは、誇張されている感はありましたけど、フィクションとしてみれば楽しめる仕上がりになっていたんじゃないかと。

 

あとは、この映画で初めて向里佑香さんを知ったんですけど、演技も顔もめっちゃ好みでした。どのキャラクターにも一定以上のセリフや見せ場があるので、そういう新しい発見をできたという意味ではいい映画だったのかもしれません。

 

◉まとめ

 

・史実がマイナーなだけに説明的なセリフが目立った。

・監督の意見・主張が強すぎて、映画に入り込めない。

・虐殺シーンの絶望感はやばい。

田中麗奈さんがエロい

 

まとめると、主義主張は抜きにしても、これだけインパクトの強い事件を知ることができたのは良かったのかな、な映画でした。まじめです。