邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】リゾートバイト

リゾートバイト

ポスター画像

映画情報

監督 長江二郎

脚本 宮本武史

主演 伊原六花 藤原大祐 秋田汐梨 松浦祐也

2023年製作/86分/G

 


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あらすじ(公式HPより)

大学に通う内田桜(伊原六花)は引っ込み思案の性格でなかなか周りに溶けこめない生活を送っていた。幼馴染で同じ大学に通う真中聡(藤原大祐)は、そんな桜を気分転換のために同じく幼馴染の華村希美(秋田汐梨)と共に、旅行を兼ねてとある島にある旅館のリゾートバイトに誘う。

桜たちが働くことになった旅館は夫婦とフリーターの岩崎で営んでいたが、旅館の主人・健介(坪内守)が足を怪我したことで急遽桜たちをバイトとして雇ったのだった。本格的なシーズン前でもあり、十分な休憩時間があった桜たちはリゾート地を楽しむことができ、その中で桜も自然と笑顔を取り戻してゆく。そんなある日、桜は女将の真樹子(佐伯日菜子)が毎晩、深夜にひっそりと廊下を歩き、食事を運んでいる姿を目撃し、言い知れぬ不安を抱く。それから数日後、朝食時に岩崎(松浦裕也)から桜たちは"この旅館にある秘密の扉"を探る肝試しを提案される。

この誘いが後戻りできない恐怖体験の始まりだった。

 

私的評価

★★★★★★★★☆☆  8/10

 

感想

 

ヒッチハイクのリベンジなるか

まずは前回までのおさらいで、関連作品を紹介。

 

ヒッチハイク

監督は違いますが、脚本家が同じで、いわゆる2chホラー系映画。凡作

hougatarou.hatenablog.com

『きさらぎ駅』

監督・脚本が同じの前作。ぶっ飛んだ異色作かつ良作

hougatarou.hatenablog.com

 

まず、『きさらぎ駅』を見て超おもしれえじゃんとなったんですけど、同じテイストと話題だった『ヒッチハイク』が期待外れで物足りなかったというのが前提としてあって。今作を見るにあたってはまさに鬼が出るか蛇が出るかといった心境でした。なんか毎回映画を見るたびに似たようなことを言ってるな、俺。

 

そんなわけで公開初日に映画館へと足を運んだのですが、これがくっそ面白かった。相変わらずカメラワークとかBGMの使い方はお世辞にも上手とは言えないんですけど、キレッキレでしたね。こうくるかー、と。感想を言ってしまえば完全にネタバレになるんですが、これはレビューとか見ないで見たほうがいいタイプの映画だと思いますので、まだ未視聴の方はこれ以降見ないほうがいいです。一言だけ言うならば、ットホラーファンへのファンサービスがやばい。

 

◉序盤はフツーのB級ホラー

 

とまあ絶賛から入りましたが、すべてが面白くて完璧な映画かと言われるとそうではなくて。

 

こんなところまで踏襲しなくてもいいとは思うんですけど、『きさらぎ駅』同様、本作も前半パートは退屈でした。なんか当たり障りのないB級ホラー映画って感じで。フェリーに乗って謎の島へ向かうところからスタートするんですけど、もう何回見たんだってくらい既視感があるオープニングですよね。最近で言うと『忌怪島』とかを彷彿とさせます。ちなみにそっちは感想書いてませんけど、あんまり面白くなかったので見なくていいと思います。

 

一応前作に比べると予算が上がったのか、映像とかセットとかはすごくきれいになってはいたので、酷い映像で見るに堪えないということはありませんでした。ただ、ホラー映画の肝となる恐怖を煽るシーンは、急な大音量とか映像とかで驚かせる安っぽいジャンプスケアが中心で、残念な感じ。よくある怪異自体ははっきり見せないタイプなんですけど、あまりに直接見せなさすぎて美術面で予算が足りてないのかなと勘繰ったり。

 

あとは主人公たちのキャラもあんまり好きになれませんでした。特に聡くんですが、お刺身勧められても嫌いだからとガン無視したり、ぎっくり腰になった人に対して大丈夫ですかの一声もかけずに水を掛けたり。でも女子二人からはいい人、みたいな扱いなので違和感しかありません。フリーターのおっさんも気持ち悪いし、旅館の夫婦も愛想が悪いしで、はっきり言って好きになれそうなキャラクターが見当たらない。唯一、ギャルの希美ちゃんだけが癒しでした。

 

ストーリー展開も特にひねりがなく、原作準拠。好奇心で入った場所で呪われて、化け物たちに追いかけられて、霊障を受けまくり。ほんで、「お前らあそこに入ったんか」のお決まりフレーズが決まったと思ったら、何故か訳知り顔の強キャラっぽい寺の住職が現れて伝承がどうたらと解説が入る。主人公の桜ちゃんはまだ無事だけど危ないから除霊しようとお寺のお堂に隔離されちゃう。絶対に出たらだめだと言われるんだけど、友達の声で「もう出てきて大丈夫だよ」って声を掛けられる。はい、ここまでテンプレです。

 

いわゆる2ch系ホラーの王道的展開で、いよいよラストなのかなーと思ったとき、ふとある違和感に気づきました。あれ、まだ50分くらいしか経ってなくね? 展開が早すぎる。まさか、ここから何か巻き返しがあるのか?

 

困惑する僕を置き去りにして、映画は無常に進みます。スクリーンでは、あからさまに騙されてるのに、桜ちゃんがふすまを開けてしまうシーンが流れる。いよいよ、怪異とご対面です。するとそこにいたのは・・・。

 

◉あの孤独なシルエット(身の丈八尺)は・・・?

 

見上げるほどの長身。

つば広帽子にワンピースという佇まい。

ぽぽぽぽ、という奇声。

 

俺は知っている。まだ、名前すら1ミリも映画に登場していないのに、何故か俺はコイツの存在を知っている!!!

 

リゾートバイトだと思った? 残念、八尺様ちゃんでした。

 

はい、爆笑です。怖いシーンであるはずなのに、笑いが止まりませんでした。

 

やられた。思い返してみれば伏線はありました。聡くんがやられちゃったのも、子供に襲われてたはずなのにめちゃくちゃでかい相手だったし、そもそもシルエットとして出てきた時も怪しかった。あとは、リゾートバイトなのに「禁后(パンドラ)」という他の洒落怖(2chの怖い話まとめみたいなの)要素も出てきていて、なんかごった煮だなあ、と思ってはいたんだけど、そんなレベルじゃなかった。あと、今気づいたんですけど、ポスターの影!

 

というか、これ八尺様もリゾートバイトも知らない人が見れば、マジで意味が分かんない映画ですよね。僕みたいなネット怪談好きで、そもそも原作を知っている人間を狙い撃ちにしたかとしか思えない。「絶対に先が読めない86分」とポスターには銘打たれていますが、そりゃそうですよ。劇場版「リゾートバイト」を見ていたはずが、本当は劇場版「八尺様」だったんだから。いかれてる(誉め言葉)

 

そこからの展開ですか? あーもうめちゃくちゃだよ。

 

◉やりすぎなくらいがちょうどいい

 

後半戦は完全にコメディとなっております。いろいろあって、桜ちゃんの体に寺の住職、聡君の体に中年フリーターが入る(!?)ことになるんですけど、そこからは八尺様とのドキドキハチャメチャ大乱闘が始まります。

 

まず、カーチェイスからはじまるんですけど、めっちゃキモイ走り方をしている八尺様と峠で公道バトルです。一応、『八尺様』の元になった2chの怖い話にも車で追いかけられるシーンがあるので原作準拠だと言われればそうなんですけど、リゾートバイト要素はどこへ行ったんだ・・・。スピードを上げたら振り切られそうになる八尺様の姿とか、あとは物語序盤にギャルがスマホで車のゲームしてるのが実は伏線だったというあまりに馬鹿らしい伏線回収が悶絶するほど面白かった。

 

そんで次は謎の霊力バトル。袖からお札をナイフみたいにしゃきんと出して戦うシーンなんて、前半戦からは絶対に予想できませんよね。バトルしだしたらもうどのシーンを切り取っても意味が分からないんですけど、伊原六花ちゃんの口調が中身住職な影響で「のじゃロリ」キャラみたいになっててめちゃくちゃ可愛いと思いました。

 

もう本当にここらへんのパートはホラーから逸脱していてジャンルが変わってしまってるんですけど、まあ中途半端にもじもじするよりかはアクセル踏み抜いてくれた方が映画は面白いから、良し! てな感じです。

 

最後のオチはそれまでの伏線を回収しつつ、ジャパニーズホラーらしい苦い後味を残すものになっていて、結局ホラーじゃんと感心しました。まさか生魚嫌い設定を最後にそう持ってくるとは。絶対無駄な設定でしょと侮っていました、ごめんなさい。

 

◉続編に期待するけどネタが、ね

 

というわけで、『きさらぎ駅』に続きぶっ飛んだ名作だったわけなんですけど、監督曰く2chホラー作品はいったんこれで作り納めとのこと。僕としてはもっといろんなのを見たい気持ちはあるんですが、結局2chホラーが流行ったのって一昔前で、最近ではめぼしい怪談は生まれてないんですよね。もちろん、怖い話は投稿され続けてると思うんですけど、『八尺様』とか『くねくね』とか『コトリバコ』とか、そういう分かりやすいキャラクターが誕生していない。

 

偉そうにちょっとだけ分析すると、実話系ホラーって、長文の体験談を投稿するっていうのが基本の形になるわけです。なので、掲示板方式の2chが最盛期だった10~15年前くらいにたくさんの作品が生まれました。しかし、今では短文投稿のSNS隆盛期になっていて、そういう実話怪談が誕生しにくい土壌になってしまっているのかなと。小説サイトとか個人ブログで書くっていう手もありますけど、実話系怪談の魅力って「投稿者の匿名性」っていうのも大きくあると思うんですよね。そういったサイトだとどうしても書いている人の個人性ってのが見えてしまって、魅力が半減してしまうんじゃないかなと思います。

 

何が言いたいかと言えば、もうそろそろ2ch系ホラーも潮時なのかなあと。一時期は本当にひどい作品が乱立していたところに、こういった面白い作品が出てきてくれて嬉しいんですけど、ネタがない。もういっそのこと、クソ映画になった怪談たちを作り直してほしいと思うんですけど、利権がややこしそうで難しい気がします。

 

ただまあ、今作はそんな2chホラーの終焉を彩るにふさわしい、お祭り作品になっていますので、最後の花火としてはふさわしい映画だったんじゃないかなと。そんな通ぶった感想を夏の終わりにしみじみ思うわけです。おしゃれ。

 

◉まとめ

 

・『きさらぎ駅』タッグが贈る渾身の快(怪)作

・前半部分→Bいや、C級? くらいのホラー映画ですよね

・後半部分→タイトル詐欺(直球) ジャンル詐欺(歓喜)

・実話ホラーに光あれ

 

まとめると、八尺様とリゾートバイトを超融合、な映画でした。