邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】キリエのうた

キリエのうた

ポスター画像

映画情報

監督 岩井俊二

脚本 岩井俊二

主演 アイナ・ジ・エンド 松村北斗 黒木華 広瀬すず

2023年/178分/G

 


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あらすじ(公式HPより)

スワロウテイル』(96)『リリイ・シュシュのすべて』(01)――。時代を震わせてきた監督:岩井俊二×音楽:小林武史による新作映画が、遂に誕生した。
ふたりの心を射止めたのは、伝説的グループ「BiSH」を経て、現在はソロとして活動するアイナ・ジ・エンド。歌うことでしか“声”が出せない路上ミュージシャン・キリエ役で映画初主演を果たし、本作のために6曲を制作。スクリーン越しに圧巻の歌声を響かせる。

アイナと共に“運命の4人”を演じたのは、次代を担う面々。姿を消したフィアンセを捜し続ける青年・夏彦役に、松村北斗SixTONES)。過去にとらわれた青年の複雑な心情表現を細やかな演技で魅せる。傷ついた人々に寄り添う教師・フミ役は、黒木華。清らかな慈愛を体現し、物語に奥行きを与える。過去を捨て、名前を捨て、キリエのマネージャーを買って出る謎めいた女性・イッコ役には、広瀬すず。今回は従来のイメージを覆す役どころに挑み、新境地を拓いた。

石巻、大阪、帯広、東京――。岩井監督のゆかりある地を舞台に紡がれる、出逢いと別れを繰り返す4人の壮大な旅路。儚い命と彷徨う心、そこに寄り添う音楽。 “あなた”がここにいるから――。13年に及ぶ魂の救済を見つめたこの物語は、スクリーンを越えて“貴方”の心と共振し、かけがえのない質量を遺す。

 

私的評価

★★★★★★★☆☆☆  7/10

 

感想

 

◉『リリィ・シュシュのすべて』は146分でした

 

岩井俊二×音楽映画と言われれば、どうしても僕は「リリィ・シュシュのすべて」を思い出します。まだ思春期だったころに見たんですが、あの衝撃は今でも忘れられません。どん底に暗い内容と透き通った音楽、繊細で幻想的な映像美。おそらく、邦画というジャンルを愛するようになる一因となった映画の一つであります。

 

というわけで期待度マックスで鑑賞したわけですが、普通に面白かったけど少し不満もあるというのが正直な感想です。

 

不満点から先に言っちゃいますと、この映画、半端なく長いです。

 

最初上映時間を見ずに、時刻だけみて映画館に入ったので、大体2時間くらいかーと勘違いしてました。ところが中々映画が終わらず、おかしいなと思いながら終了後確認してみると1時間計算がずれててなんと上映時間178分!! この前BADLANDSでなげーなーと文句を言っていたのですが、そこからさらに35分も長い映画です。やば。

hougatarou.hatenablog.com

なんとこれ、長いことで有名なインド映画と大差ありません。昨今話題になった『RRR』が179分。ほとんど一緒。あっちはアクション主体なので、長さを感じることは少なく、楽しく最後まで鑑賞することができたんですが、映画のスタイル的に静かなシーンはとことん静かなので、やっぱつれえよ(長時間視聴)。30分アニメ6話分、すなわち半クールですよ、冷静に考えなくても長すぎる。

 

もう少し短くするならば、過去のシーンはちょっと削ってもよかったんじゃないかなと思います。そちらだけでも映画として十分成立するくらいの描写量なのですが、そこまで現在と密接に話が関わってきているかというと、うーんそこまでって感じなので。

 

ただ、一つだけ恐ろしい豆知識としては同監督作品の「リップヴァンウィンクルの花嫁」は180分なんですよね・・・。毎回長いわけではないんですけど、黒木華さんが出てると長くなる法則でもあるのかもしれません。

 

◉とりあえずバレエ躍らせとけの精神

 

さて、肝心の映画内容ですが、もうまさに岩井俊二監督作品って感じの映画です。冒頭のシーンでキリエとイッコが小汚い中華料理屋で会話するんですけど、台詞の空気感とか間とかがすっごい独特で。少しくさいというか、わざとらしい表現が多いんですけど、それを全体に馴染ませているから自然とリアルに見えるというか。ああ、岩井俊二劇場が始まったな、と実感させられます。

 

それでいうと、映像面もごりごりに個性が出てましたね。特に雪のシーンとか本領発揮って感じで、固定して切り取った背景の中、登場人物たちが動くみたいなカットが多く、あくまで架空の人物ではなく、実際の風景の中でキャラクターが生きているような撮り方です。あとは表現がこれで合ってるか分からないんですけど、スモーキーな感じの映像が多い。もやもやっとしてて幻想的な。言語化するのが難しいんですけど、そんな感じです。

 

忘れてはいけないのが、岩井俊二作品と言えばやっぱりバレエですよねバレエ! とりあえずシリアスなシーンでバレエ躍らせるみたいなの、それこそ『リリィシュシュ』からあったんですけど、今作でもきっちりとありました。監督のフェチズムというか、嗜好が透けて見えてすっごい好きです。もうそのシーンがあるだけで、「あ、岩井俊二監督だ」ってわかりますから。

 

で、まだまだ監督愛を語るとするならば、映像とか音楽とかは芸術的な仕上がりとして評価されることが多いんですけど、内容は俗っぽさをしっかり出しているっていうのも好きなんです。今回だと、キリエが逃げたイッコの代わりに中年男に襲われるシーンとか。全然たたねえよ、って諦めるところまで含めて、下世話だけど緊張感があってなおかつ美しいみたいな。『リップヴァンウィンクル』ほど前面に出しているわけではないですけど、そういう垣間見える俗っぽさもこの監督の味だと個人的に思っています。

 

色々書いてきましたけど、結局何が言いたいかというと、ストーリー展開とかキャスティングとかで個性を出す監督っていうのは結構いると思うんですけど、映画全体として自分の色を出している監督って、邦画界では中々いない貴重な存在だと思います。人気の原作があって、それをいかに面白く作れるか、みたいな作品が多い中、なりふり構わず我が道を行く姿勢。そりゃあ好きになるでしょうって話です。

 

◉ストーリーとキャスティング

 

ストーリー展開についてですが、これは最初にも言ったように、もう少しコンパクトにしてもよかったと思います。今作の売りって、なんといってもアイナ・ジ・エンドさんの歌じゃないですか。だから、現在のキリエを中心にしたストーリーの割合をもう少し増やしてもよかったんじゃないかなと。過去編も面白いんですけど、黒木華さん演じる先生の存在は果たして映画上に必要だったのかなと疑問は残ります。小学生時代はもういっそのことバッサリ切っても映画全体のストーリーに影響は少なそうだと思いました。

 

というのも、本作は現代・キリエ小学生時代・キリエ高校時代の3つの時間軸が行き来して展開されるんですが、その中でも小学生時代では『キリエと黒木華先生の交流』と『キリエの姉と夏彦の恋愛』の2軸があってかなりボリュームいっぱいなんです。恋愛編はラストも含めて、キリエという人物形成に多大な影響を与えているので必要だと思うのですが、先生のところってその恋愛の過去話を聞くためだけにあるようなパートで、それにしては尺が長いんですよね。他のキャラは現代でも出てきたりするんですけど、先生だけは一切出てこないし。

 

シーンとしては別につまらないわけではないと思うんですけど、やっぱり映画って連ドラとかと違って限られた時間で勝負する、っていうのが一つの醍醐味だと個人的に思ってはいるので、もっとスリムにしてもよかったんじゃないかなと思います。

 

あとはキャスティングについてですが、かなり挑戦的な部分が多かったと感じました。主役のアイナ・ジ・エンドさんからそうですけど、霜降り明星粗品さんとか出てきたときには思わず笑ってしまいました。アイナさんですが、演技が上手いかと言われると、本当に絶妙なんですよね。言葉が喋れないっていうキャラ付けはしっかり表現できてるのかと思えば、過去編で普通にしゃべるシーンとか見ると、現代編の演技とあんまり大差なくて、元からそんな声なのかよ、って思っちゃいました。

 

キャスト面で言うと一番はやっぱり広瀬すずさんなのかなあと思います。高校時代の演技とかめっちゃ可愛いし、現代ではエキセントリックな岩井俊二ワールドのキャラクターを見事に演じ切っていると感心しました。少女らしい純真さと、結婚詐欺師としてのあざとさの使い分けも素晴らしく、本作のMVPだと思います。

 

◉映画における音楽のパワー

 

最後はやっぱり、音楽について少しだけ触れます。あんまり詳しくないのでもう直感的に少しだけ。

 

音楽は『リリィシュシュ』でもタッグを組んでいた小林武史さん。作中で何度も流れる『キリエ・憐れみの讃歌』はめちゃくちゃ耳に残るし、曲調も映画の内容とマッチしていて素晴らしい。この耳に残るっていうのも僕はかなり重要な要素だと思っていて、過去の名作を頭の中で思い出すときって、何かしらのBGMがセットになっていますよね。代表的なところで行くと『ジュラシックパーク』とか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか。音楽と映画ってセットで記憶に残るものなんです。

 

映画音楽って最近だとちょっと軽視されている部分があって、BGM流さないほうがカッコいいみたいな風潮もあるような気がするんだけど、やっぱりいい映画にはいい音楽なんですよ。岩井俊二監督のスモーキーな映像にはクラシック風な音楽が似合う。ベストマッチ!

 

また映画を作る際には是非タッグを組んでよい作品を作ってほしいと思います。できれば90分くらいで!

 

◉まとめ

 

・約3時間の戦い、キャスト目当てで見る人とかにはきついかも

・なんと素晴らしき岩井俊二ワールド

・天真爛漫な悪女、広瀬すず

・映画にとって、音楽は超重要だと個人的に思います

 

まとめると、岩井俊二作品からしか得られない栄養素がある、な映画でした。