【感想】福田村事件
福田村事件
映画情報
監督 森達也
2023年/137分/PG12
あらすじ(公式HPより)
1923年9月1日11時58分、関東大地震が発生した。そのわずか5日後の9月6日のこと。千葉県東葛飾郡福田村に住む自警団を含む100人以上の村人たちにより、利根川沿いで香川から訪れた薬売りの行商団15人の内、幼児や妊婦を含む9人が殺された。
行商団は、讃岐弁で話していたことで朝鮮人と疑われ殺害されたのだ。逮捕されたのは自警団員8人。逮捕者は実刑になったものの、大正天皇の死去に関連する恩赦ですぐに釈放された…。
これが100年の間、歴史の闇に葬られていた『福田村事件』だ。行き交う情報に惑わされ生存への不安や恐怖に煽られたとき、集団心理は加速し、群衆は暴走する。これは単なる過去の事件では終われない、今を生きる私たちの物語。
私的評価
★★★★★☆☆☆☆☆ 5/10
感想
◉説明的なセリフが多い
監督の森達也さんはオウム真理教を取材した「A」など、ドキュメンタリー作品で有名な方で、僕も「A」は映画と書籍両方見たくらいには好きです。今作は映画監督初挑戦ということで、かなり未知数な状態からの鑑賞でしたが、うん、まあ、面白いことは面白いんだけど、気になる点がちらほらありました。
一番うーんとなったポイントとしては、説明口調が多すぎたことでした。題材としている福田村事件は、当時の情勢が深く絡んだ結果として起こったものなのですが、それをキャラクターに説明させるものだから映画として不自然な感じになっていました。主人公が「〇〇というところで起きた〇〇という事件だが、これはあれこれどういう事件で、その時私はそこにいたのだが・・・」的なセリフを言ったり、「〇〇? それってあれだろ、どうたらこうたらがどうたらこうたら・・・」みたいにわざわざ解説が入ったり。
扱っている題材からして知名度が低いので、何かしら説明を入れるべきなのは分かりますが、キャラクターが無理やり喋らされている感がすごくありました。当時の暮らしや人々の言動なんかはとても高いクオリティで再現されていて、リアルな生活感があるシーンが多いんですが、そんな中でそういう風な説明を入れられるととても冷めてしまうというか、わざとらしいなと感じてしまいました。
これがドキュメンタリー作品であれば、観客はその映画で取り上げられているテーマについて知りたいという欲求があるので別にいいんですが、今作の場合、あくまで普通の物語映画として見に来ている観客が大半なので、そこに制作側とこちら側とで温度差があったような気がします。
まあそもそもがノンフィクションっぽさもある映画なので、ある程度は許容すべきなのかとは思うんですけど、僕みたいにただエンタメに浸りたい人間からするとイマイチ映画に没頭できないポイントになっていました。
◉主張がくっそ強い
もう一つの残念だったポイントとして、監督の政治的な主張が色濃く出すぎていたように感じました。別に映画でそういうのを主張しても構わないとは思うんですが、あからさまにやりすぎだと感じます。
朝鮮人は本当はいい人なのに、差別していた日本人は駄目だ。
村社会は陰湿で、軍人は悪者。
そういう考えがあって映画を作ること自体はいいんですけど、キャラクターたちがその考えをお人形みたいに喋らされているような気がして、はっきり言って気持ちの良い映画ではありませんでした。特に主人公に関しては、監督の考えを伝えるためだけに村にいるかのような存在で、物語上の必要性を感じられませんでした。
こんな風に主義・主張が大きく絡むような映画ってバランス感覚が大切だと思っていて、以前鑑賞した「マイスモールランド」なんかはその部分が非常に上手だったので、政治的な話でもこちらは違和感なく見ることができました。
肯定的なところも否定的なところも、フェアに映画に取り入れることで観客側が受け取り方を取捨選択できるのがよかったんですけど、今作は監督の一面的な意見ばかりが押し出されていて、見る側に選択の余地がありませんでした。
あとは、殺された人たちって被差別部落出身者で朝鮮人ではないのですが、それにしては朝鮮絡みの話が映画の大半を占めていた辺り、すごく恣意的な感じもして。別に僕自身そういう主張があるわけじゃないんですけどね。韓国映画も好きだし。
◉マイナスポイントを除けば映画としては高品質
とまあ、否定的な意見ばかり言っていますが、肝心のストーリーはというと、普通に面白かったんですよね。村側と殺された商人側とで話が進んでいくんですが、キャラごとの描写が丁寧で、どちらに対しても感情移入ができる。特に商人たちが貧しいながらも明るく仲良く旅をしている様子はとてもよかった。村側と違って、あんまり変な主張みたいなことも言わないので、見ていて気楽だったというのもあるかもしれませんが。
その分、ラストの虐殺シーンはかなり胸に来るものがありました。血のりとかもだいぶ怪しくて、決してクオリティが高いシーンというわけではないんですが、和太鼓の不穏なBGMも相まって、すごく緊張感のある映像だったと思います。
村側の描写も悪くはなかったと思います。基本的にはほとんど浮気の話なんですけど、まあ狭い村なんでそれくらいしか楽しみがないよね、と。後半になり、デマに踊らされて自警団を結成するシーンなんかは、前半ののほほんとした村の空気が変わっていく緊張感がとてもよかったです。集団心理の怖さがよく表現されていて、すごくドキドキさせられました。
少しわき道にそれすぎて話が取っ散らかってしまった感は否めないですが、群像劇としてまとまっていて、シーンがちぐはぐになったりするようなことはなかったので、楽しんでみることができました。
◉メインも脇役もキャストはいい感じ
最後にキャストについてですが、柄本明さん、よかったですよね。死にかけのおじいちゃん役なんですが、本当にいつポックリ逝ってしまってもおかしくないような演技が素晴らしい。それと田中麗奈さんですが、とにかくエロかったですね、ええ。この人ってこんなインモラルな感じでしたっけ。お風呂場のシーンとかマジでやばいですよ。
あとは、メインキャストだけでなく、サブの人たちも全体的に時代背景に沿った演技とキャスティングが徹底されていたなと感じました。コムアイさんなんか絶対浮くだろと思ってましたけど、溶け込んでましたし。軍人たちの堅物っぷりというか、融通が利かない感じは、誇張されている感はありましたけど、フィクションとしてみれば楽しめる仕上がりになっていたんじゃないかと。
あとは、この映画で初めて向里佑香さんを知ったんですけど、演技も顔もめっちゃ好みでした。どのキャラクターにも一定以上のセリフや見せ場があるので、そういう新しい発見をできたという意味ではいい映画だったのかもしれません。
◉まとめ
・史実がマイナーなだけに説明的なセリフが目立った。
・監督の意見・主張が強すぎて、映画に入り込めない。
・虐殺シーンの絶望感はやばい。
・田中麗奈さんがエロい
まとめると、主義主張は抜きにしても、これだけインパクトの強い事件を知ることができたのは良かったのかな、な映画でした。まじめです。