邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】BAD LANDS

BAD LANDS

ポスター画像

映画情報

監督 原田眞人

脚本 原田眞人

主演 安藤サクラ 山田涼介 生瀬勝久

 

2023年/143分/PG12

 


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あらすじ(公式HPより)

大阪で特殊詐欺に手を染める橋岡煉梨(ネリ)と弟の矢代穣(ジョー)。ある夜、思いがけず3億円もの大金を手にしたことから、2人はさまざまな巨悪から狙われることとなる。

幼い頃からネリのことをよく知る元ヤクザ・曼荼羅を宇崎竜童、特殊詐欺グループの名簿屋という裏の顔を持つNPO法人理事長・高城を生瀬勝久大阪府警で特殊詐欺の捜査をする刑事・佐竹を吉原光夫、特殊詐欺合同特別捜査班の班長・日野を江口のりこが演じる。

 

私的評価

★★★★★☆☆☆☆☆  5/10

 

感想

 

◉「見せたいもの」の渋滞

 

本作ですが、要所要所を切り取って見てみると、非常にクオリティが高くエンターテイメント性にも富んでおり、映画として楽しめる一作になっているはずなんです。ただ、どうしても自分にはハマらなかった。

 

一番の要因として、とにかく内容を詰め込みすぎだった気がします。話の都合上、必要だったか? と首を捻るようなシーンも多く、監督の自己満足になってしまっているような。とにかく「見せたい!」っていう気持ちは伝わってくるんですが、それを果たして観客が「見たい!」と思っているかは別なわけでして。代表的なところで行くと、主人公のネリをつけ狙う暗黒金持ち男がいるんですが、もう最後に殺されるためにそれまで出てきてただけなんじゃないかというくらい本筋に絡まない。最初っから最後まで勝手になんかしてるだけ。この映画を好きな人でもその部分はバッサリカットしてよかったんじゃないかと思ってそう。

 

その他もろもろ余分なシーンがあるんですが、色々やりまくった結果、上映時間がなんと143分に。もう一息でインド映画じゃん。近年の邦画では稀にみる長さです。その長い分退屈なのかというと、決してそういうわけではなく、それぞれのシーンに対する熱量も高く演出も濃厚なので飽きることはないんですが、なんかこう、胸焼けしちゃいました。

 

あとは僕の個人的な好みの問題だけでなく、最近では何かと時短が持てはやされている風潮もある中で、さすがに逆張りしすぎたんじゃないかなとも思います。一時期話題になったファスト映画とかね。あれは流石にやりすぎだと思うけど、これだけエンタメが溢れている世の中にあって、そんな長い上映時間を使うのであれば、もう少し取捨選択による洗練が必要だったのかなと思います。

 

いや、面白いところはホント面白いんですよ。例えば、物語序盤にネリが「三塁コーチ」として特殊詐欺の指揮を執るところとか、詐欺のリアリティもあるし緊迫感もあるしですごく見ごたえがあった。そんで意味深に「月曜日」みたいな字幕が出たもんだからすごい緻密なクライムサスペンスが始まるもんだと期待したら、そこからだらだらしちゃったもんですごく残念。ホント期待値が高かった裏返しってのもあるんですが。

 

◉人物を描くのか、感情を描くのか

 

あとは見た人が結構思ってそうなのが、山田涼介さん演じるジョーの感情と行動があまりにも理解不能すぎるっていう点。殺しの依頼を受けていくんだけど、ビビって引き金を引けずに帰ってきて、でもその足で強盗しに行って、そんで仲間を平然と撃ち殺す。堂々と全くビビらずに。本人はサイコパスだからって言ってんだけど、いやいや最初あんなビビってたじゃんって言いたくなる。特に精神的に成長するような描写もなく、そんな感じになってるもんだからこちら側としては混乱しちゃいます。

 

おそらくですが、これは先に描きたいシーンが頭にあってそこに人物を割り振ったものだから、登場人物の感情描写が上手く連続したものになっていないんじゃないかと思います。悪い言い方をすると、完成度の高い人形劇みたいな。

 

これってこのシーンだけじゃなく、割と顕著に映画中感じた内容でして、だからシーン自体は面白くても感情移入が出来なかったんだと思います。そもそも映画の主題としては、クライムサスペンスっていうよりかはどちらかというと、ネリとジョーの関係性の方に重きを置いているはずなので、もっと感情の揺れを丁寧に描写するべきだったような気がします、と偉そうなことを言ってみたり。

 

感情描写の点で言うと、一番不満なのがネリが高城を殺してしまうシーン。いやいや、あんなに仲良さそうにしてたのにクズの弟を救うために殺すのかよ、と納得がいっていなかったのですが、後付けのように高城のことを実は憎んでいたみたいなエピソードが後半に出てくるんです。ここだけは絶対に順番逆の方がよかったでしょと思いました。主人公が命の選択をするという葛藤なんて、最高の感情移入ポイントであるはずなのに、終わったあとで実はこんなこと思ってたんだよね、なんて言われたらすごく消化不良に感じてしまいました。

 

◉行ってみたいな、西成へ

 

この映画で唯一満点が付けられるポイントがあるとするならば、犯罪者の生活描写が非常に面白かったところです。ネリが潜伏場所を何個も持っていたり、割と緩い雰囲気の掛け子集団だったり、西成で人を集めて出し子をさせてたり。リアリティとフィクションがいい感じのバランスで描写されていて、すごくワクワクさせられました。

 

西成の世紀末感もいいですよね。集合住宅の廊下のど真ん中で賭け事をしていて、掛け金は10円20円。どん底感が半端ない。

 

同じ理由で賭場のシーンもすごい好みでした。わざわざ別の場所に集めてから車で移動して薄暗い旅館みたいなところで半丁博打をするんですけど、雰囲気がすごくよかったです。サリngROCKさんが演じてた胴元の姐さんも、ぜってえ現実にはいないくらい脚色されまくったキャラが逆にアクセントとして利いていて面白いので、ここだけは見てほしいと思います。

 

そんな感じで、物語の舞台を作り上げる演出力は素晴らしく高く、映画に入り込めるパワーはあったので、最後まで楽しく鑑賞することはできました。ただ、上にうだうだ書いている引っかかりポイントのせいで、喉元に小骨が突き刺さったような、モヤモヤした余韻が残る感じに。

 

ラストシーンの伏線回収は気持ちよく、なんやかんや主人公は救われるので、それだけに惜しいと感じる作品でした。

 

安藤サクラという女

 

最後になりますが、本映画のキャストについて。

 

天童よしみだったり、某サプライズ出演のイケメンだったり、お祭り的なキャスティングですごく楽しめました。主演陣も実力派揃いなので、全編ほほ関西弁ながら、関西人の僕でも違和感がほとんどなく受け入れられるような演技です。

 

その中でも特筆すべきなのは安藤サクラさん。僕は『百円の恋』を見たとき、あまりの体当たりっぷりに衝撃を受けたのですが、今作でも異質な存在感を放っていました。ボソボソと関西弁で喋るシーンが結構多いんですけど、ちゃんと聞き取れるんですよね。でも陰気な感じはしっかり出しているので、その両立が出来るのがザ・演技力って感じで驚きました。

 

『怪物』でも主演でしたが、今年はとんでもなくブレイクしてますよね。容姿や話題性偏重のキャスティングが多い中、彼女が注目されているのは邦画自体のレベル底上げになっているような気がして、一邦画好きとしては嬉しい限りです。

 

◉まとめ

・長い。

・人間ドラマとしてもクライムものとしても中途半端。

・情景描写やキャスティングは高得点。

土手焼き食べたい

 

まとめると、せめて120分以内に纏まっていれば好きだったかも、な映画でした。