邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】波紋

波紋 : ポスター画像 - 映画.com

 

波紋

2023年公開

監督 荻上直子

 


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◉あらすじ(公式HPより)

 

須藤依子(筒井真理子)は、今朝も庭の手入れを欠かさない。“緑命会”という新興宗教を信仰し、日々祈りと勉強会に勤しみながら、ひとり穏やかに暮らしていた。ある日、長いこと失踪したままだった夫、修(光石研)が突然帰ってくるまでは—。自分の父の介護を押し付けたまま失踪し、その上がん治療に必要な高額の費用を助けて欲しいとすがってくる夫。障害のある彼女を結婚相手として連れて帰省してきた息子・拓哉(磯村勇斗)。パート先では癇癪持ちの客に大声で怒鳴られる・・・。自分ではどうにも出来ない辛苦が降りかかる。依子は湧き起こる黒い感情を、宗教にすがり、必死に理性で押さえつけようとする。全てを押し殺した依子の感情が爆発する時、映画は絶望からエンタテインメントへと昇華する。

 

 

◉私的評価

★★★★★★★☆☆☆   7/10

 

◉総評

 

いってきのーみーずー。

 

このフレーズが耳から離れなくなる、シュールで奇妙な日常の映画。

 

何といっても素晴らしいのは主人公の感情表現だった。帰ってきた夫に対する嫌悪感を彼女目線で見せることによって、どんどん主人公に感情移入するし、かと思えば、新興宗教団体での珍妙な行動でこちらを突き放してきたり。まさに『波紋』のように寄せては返す揺さぶりを画面のこちら側に投げかけてくる。

 

そしてその描写を支える筒井真理子さんの演技力の高さも素晴らしい。特に表情。憎悪、恍惚、当惑。百面相のごとく劇中では表情を変えるんだけど、どこにもスキがなく演じ切っている感じ。彼女の表情を見ているだけでも面白い映画です。

 

脇を固める俳優陣も、どれも曲者ぞろいでよく集めたなと思います。ひっそりと混じっているムロツヨシさんとか、完全に目がイっちゃってる平岩紙さんとか、スーパーの老害柄本明さんとか。僕の一押しはスイミングサウナババアの木野花さんなんですけど、誰が一番か決められないくらいに、ちょい役の人たちの癖が強すぎる。

 

そんな癖つよな人たちがシュールな笑いを振りまきながら、スクリーンという水面にドボンドボンと『波紋』を生む。その波が次々と連鎖して波及していく様は先の読めないストーリーとなっていて、めちゃくちゃワクワクしながら見れました。

 

特に序盤から中盤にかけての夫との攻防(?)。男としてはかなり辛いというか、お腹が痛くなるような描写と展開なんですけど、とても面白い。いつ爆発するのかヒヤヒヤしながら夢中で見させてもらいました。

 

ただ、ちょっと減点要素なのが、やっぱ詰め込みすぎたところかなあと思う。風呂敷広げすぎて溢れかえったまま終わったというか。最初の東日本大震災から始まり、風評被害やら介護問題やら新興宗教団体やら障碍者との結婚やら、あれやこれやとぶち込みまくってます。

 

それぞれの切り口や見せ方は、ユーモアを含んでいたりして面白いんですけど、若干胸焼けするし、あとは消化不良だった。

 

後は、ラストのフラメンコ。これ、かなり賛否両論ポイントだと思うんですけど、僕は好きです。意味の分かんない強引なラストなんですけど、映像の圧がすごくて、もうこれでいいんじゃないかな、と納得させられてしまう。あんなラストシーン、何を食ったら思いつくんだろう。

 

まとめると、若干のマイナスポイントはあるものの、シュールな笑いと先の読めない展開で飽きることなく最後まで鑑賞することができました。監督・キャストともに実力をいかんなく発揮した良作だと思います。