邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】北極百貨店のコンシェルジュさん

北極百貨店のコンシェルジュさん

ポスター画像

映画情報

監督 板津匡覧

脚本 大島里美

原作 西村ツチカ 『北極百貨店のコンシェルジュさん』

主演 川井田夏海 大塚剛央 飛田展男

2023年/70分/G

 


www.youtube.com

 

あらすじ(公式HPより)

新人コンシェルジュとして秋乃が働き始めた「北極百貨店」は、来店されるお客様が全て動物という不思議な百貨店。一人前のコンシェルジュとなるべく、フロアマネージャーや先輩コンシェルジュに見守られながら日々奮闘する秋乃の前には、あらゆるお悩みを抱えたお客様が現れます。中でも<絶滅種>である“V.I.A”(ベリー・インポータント・アニマル)のお客様は一癖も二癖もある個性派ぞろい。長年連れ添う妻を喜ばせたいワライフクロウ。父親に贈るプレゼントを探すウミベミンク。恋人へのプロポーズに思い悩むニホンオオカミ・・・。自分のため、誰かのため、様々な理由で「北極百貨店」を訪れるお客様の想いに寄り添うために、秋乃は今日も元気に店内を駆け回ります。

 

私的評価

★★★★★★★★☆☆  8/10

 

感想

 

◉疲れた体に染み渡る癒し系ムービー

 

最近はクソ重い映画とかクソ長い映画ばかり見ていたので、コメディアニメかつ上映時間がたった70分という今作は、本当に癒しでした。例えるなら、サウナの後の外気浴。なので、自己採点に関してはかなり甘めになっているような気がしないでもないです。とはいっても、相当クオリティが高い上、コンパクトにまとまっていて客観的に見ても完成度が高いアニメ作品となっていると思います。

 

個人的にはもっと上映館を増やしてもいいくらい力作だと思うんですが、時間の短さから見ても、どっちというとレンタルとかサブスクメインでターゲティングされてるのかなあと思ったり。やっぱネトフリとかアマプラが出来てから、映画の形は複雑になっていますね。

 

そんなことはさておき、本作の話に戻りますが、キャラクターデザインもすごく癒し系ですよね。原作はちょっと読んだ程度なんですけど、柔らかい画風がしっかり再現されていると思います。動物の擬人化メインなので相当デフォルメされているんですが、そういうのにありがちな野暮ったさはなく、シンプルながらも動きが洗練されています。特に、主人公がパタパタ動く様子は爽快で、見ていて気持ちよさも感じる程でした。ウミベミンクの親子に商品を勧めるシーンとか、ずっと見てたくなる。

 

ポップな表現と特徴のある動きと言えば、湯浅政明監督を思い出しますが、そちらと違って目に優しいというか、あくまで『パタパタ』なんですよ。伝わりにくいかもしれませんが、細部までことごとくこだわり抜いた動画表現というわけではなく、漫画的な描写のまま動くというか。もう何回言ってるか分かりませんが癒し系です。はい。

 

監督の板津匡覧さんはなんか名前みたことあるな程度の認識だったんですけど、wikiで調べてみたら、『電脳コイル』や『妄想代理人』の作画監督だとか。どっちも知っていたらアニメ通っぽさのある隠れた名作です。原画として参加している作品も数多く、当ブログで感想を書いた『バースデー・ワンダーランド』や、ジブリ系列も沢山。

 

今作での漫画的なデフォルメとキレのある動きの両立は、毛色が違う多くの作品を経験してきたことによる産物のような気がします。唯一無二の特色でした。

 

◉ストーリーはコッテリバリカタ

 

本作の構成ですが、4つのエピソードを詰め込んだ連作短編みたいな形となっています。単純計算で一つのエピソードが15.6分くらい? とてつもなく短く感じてしまいますが、中身が薄いのかというとその逆で、一つ一つ丁寧に描写されていたと思います。

 

北極百貨店でのお仕事という部分だけにフォーカスを当てており、無駄なものは一切合切、切り捨てる。普通の映画なら間を持たせるために入れがちな日常描写とか本筋と関係ない会話シーンとか、そんなものは全くありません。駆け足というわけではないんだけど、絶え間なく濃密なストーリーとアニメーションに飲み込まれるような感じでした。

 

ストーリー展開は王道な、いわゆる『お仕事系』。新人の秋乃が仕事で失敗しながらも成長していき、周りの人々(動物たち?)にも影響を与えて、最後には大団円のハッピーエンド、みたいな感じです。目新しい驚きはないベタなストーリーではあるんですが、とにかくテンポがいいので集中して見られる。社会人として見習いたい時間の使い方だと思いました。

 

お気に入りのエピソードで言うと、意中の子に告白するために、とある香水を探しているライオンの話。ライオン自体めっちゃ可愛いし、あとはお客さんが一緒になって助けてくれるシーンとか、何でもないはずなのに思わず目頭が熱くなりました。

 

というか、書いてて思ったんですけど、このシーンみたいに、あれ、何でこんなに感動してるんだろうって驚くくらいに、感情が静かに揺さぶられることが多かったです。動物に置き換わってますが、本質的には『お仕事系』ムービーなので、人の生き死にとかではなく、思いやりや助け合いでしっとりと感動させてくれます。それが波状攻撃としてくるもんだから、メチャクチャ効いてるんでしょう。

 

表題にもありますが、ストーリーを総じて言うならば、短い時間で出されたのに芯がしっかりしていて味は濃厚、つまり博多豚骨ラーメンみたいな味付けでした。例えが上手い! 自画自賛

 

◉ちょい役のキャストが豪華すぎる

 

ついで声優関連。メインキャストももちろん申し分ないんですけど、各エピソードに出てくるサブキャラクターたちなんですが、もうそこで予算使い果たしてるんじゃないかってくらい豪華です。福山潤さんとか中村悠一さんとか入野自由さんとか花澤香菜さんとか。ベテラン勢で言うと島本須美さんまで出てる。

 

日本アニメ界を代表する一線級の声優陣がそろい踏みです。アニオタ大歓喜ですね。賛否両論あるとは思いますが、昨今の劇場版アニメってTV版の続きものとかでもない限り、普通の俳優さんをメインに据えることが多いと思います。話題性って大事ですし、一般層を取り込めるし。そんな中、ここまで振り切ったキャスティングは逆に見事というほかありません。

 

実力派の声優が集まっているので、安心感をもって見られるってのが一番大きかったです。当ブログで何度も引き合いに出してる割には感想を書いていないあの『映画大好きポンポさん』とか、内容はくっそ面白いのに声の演技で引っかかる部分があったりしましたし。もっと話題作で言うと『君たちはどう生きるか』でも、ぶっちゃけあいみょんの演技、気にならないって言ってる人は強がりですよね。

 

もちろん、普段は声優なんてしない俳優さんであっても素晴らしい演技をされる方はたくさんいます。それでもやっぱりギャンブルみたいなところは否めないので、今作みたいにがっつり有名声優大集合してくれた方が、変なところで映画に入り込めないなんていう事態が少なくて、個人的にはこっちの方が好きです。

 

最後に声優的お気に入りナンバーワンで言うと、マンモスのウーリー役で出ていた津田健次郎さん。いつもはクールだったりエネルギッシュだったりするキャラクターを演じられていることが多いですが、今回は真逆でのんびりおっとり優しい感じ。それがビックリするほどキャラクターに声があっていてすごく意外なんですけど良かったです。

 

◉まとめ

 

・癒し系お仕事ムービーの傑作

・漫画的表現と動きの面白さ

・上映時間の短さを感じさせない密度のストーリー

古今東西豪華声優大集結

 

まとめると、2023年はしんどい映画が多かったのでホントに沁みました、な映画でした。