邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】唄う六人の女

唄う六人の女

ポスター画像

映画情報

監督 石橋義正

脚本 石橋義正 大谷洋介

主演 竹野内豊 山田孝之 水川あさみ

2023年/112分/PG12

 


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あらすじ(公式HPより)

ある日突然、40年以上も会っていない父親の訃報が入り、父が遺した山を売るために生家に戻った萱島(竹野内豊)と、その土地を買いに来た開発業者の下請けの宇和島 (山田孝之) 。契約の手続きを終え、人里離れた山道を車で帰っている途中に、二人は事故に遭い気を失ってしまう……。目を覚ますと、男たちは体を縄で縛られ身動きができない。そんな彼らの前に現われたのは、この森に暮らす美しい六人の女たち。何を聞いても一切答えのない彼女たちは、彼らの前で奇妙な振る舞いを続ける。異様な地に迷い込んでしまった男たちは、この場所からの脱走を図るが……。

美しく奇妙な女たちに隠された”秘密”とは―

 

私的評価

★★★★★☆☆☆☆☆  5/10

 

感想

 

◉尻切れトンボとはまさにこのこと

 

この映画、序盤から中盤にかけては非常によくできていた印象でした。登場する6人の女たちは蠱惑的でミステリアス、まさに予告編でみたとおり、上質なサイコスリラーを期待させる立ち上がりです。原生林という舞台も非常にマッチしており、幻想的な映像とともにこちらまで村に迷い込んだかのような没入感でした。

 

提示される謎もすごく魅力的で、こちらをぐいぐいと惹きつけます。

彼女たちが男二人を拉致したのにはどんなわけがあるんだ?

吊り下げられたり、かと思えば食事を用意されたり、果たして目的は?

そして、謎の儀式のときに突き刺さった矢はどうして竹野内豊の乳毛になったのか?

 

私が単純に読解力不足なのかもしれませんが、これらの謎に対し、映画内では一切説明はありませんでした。後半にかけて色々畳もうと駆け足気味に伏線を拾っていくのですが、はっきり言って尺が足りていなかったような気がします。普通の映画では会話で説明するものですが、今回の『女たち』は喋ることができないので、もっと観客に伝える工夫が必要だったのにもかかわらず、それをしなかった。結果として後半に詰め込みまくったような感じになったのだと思います。

 

特に、ラストシーンがかなり酷い。山田孝之の罪を暴くため、一度竹野内豊が村の外に出るという選択肢をとったにもかかわらず、うやむやな理由でもう一度村に戻ることを決意する。おそらく、物語のしまりが悪いのと、彼女たちの正体がこうですよ、っていうのを観客に知らしめる必要があったからだと思うんですけど、結局主人公は何もできずに無駄死にするんですよね。

 

主人公が最後に何も果たせず死ぬ、っていうこと自体が悪いって言ってるわけじゃなく、わざわざ死地に再突入しておいて無駄に死ぬ、っていうのがストーリー上の必然性を感じられなかった。なんかグダグダしちまったから主人公殺しとくか、みたいな。

 

前半戦でやりたい放題した結果、映画の終わらせ方が見えなくなってしまい、雑な感じで締めてしまったような気がします。とにかく構成の粗さが目立つ作品でした。

 

◉唄う女たちだけでも見る価値あり

 

とまあ、ストーリーにかんしては結構酷い感想になってるんですけど、唄う女たちのビジュアルとキャラクター性に関しては満点に近い出来になっていると思います。6人とも会話はできないのにそれぞれ個性があってキャラが立っており、スッと頭に入ってきました。メインとなる登場人物が割と多い映画なので、すぐ覚えられるというのは非常に重要なポイントだと僕は思っています。

 

女たちの撮り方も非常に芸術点が高く、見終わった後も印象に残っているシーンが結構ありました。特に濡れる女の水中映像は光のさし方とか泡の動きとか、めちゃくちゃこだわって作っているなあと感じました。

 

あと、見つめる女役の桃果さん、抜群にかわいくないですか? キービジュアルだとそんなにピンとはこなかったんですけど、実際に映像を見てみると小動物っぽい可愛らしさが全開で、庇護欲をそそられます。今まで知らなかったですけど、演技力も高く、鬼畜山田孝之に自分の子供=卵を割られて絶叫するシーンとか、悲愴さがこちらまで伝わってくる非常に良い演技だったと思いました。

 

6人の女たちに関して、僕が一番気に入っているポイントがあります。ネタバレになるんですけど、結局6人の女たちって動物が化けてるみたいな感じになっていて、その種明かしが一部を除いてスタッフロールでされるんですよ。この仕掛けはまじでめちゃくちゃいいなと思いました。

 

途中で彼女たちは動物だよっていうのは明かされるんですけど、えーじゃあなんの動物だろって考えながら見ていたのにエンディングを迎えて、「あれ映画終わっちゃうの、答え合わせは?」って焦っていたところに、スタッフロールで役名がどん。オサレポイントくっそ高いです。ストーリーおもんねえなって思いながら見てたので、そこで少しだけ救われました。

 

◉メッセージ性と主演二人の今後について考える

 

女たちをほめたところで、もう一つこの映画の嫌いなポイントをお伝えすると、メッセージの伝え方が安直すぎるだろと思いました。自然を守ろう、開発反対! みたいな。作風がミステリーとかサスペンスよりなのに、メッセージがでかでかと出ているので、すごくアンマッチだなと感じました。別に僕は自然破壊大好き人間ではないので、環境保護自体に文句を言うつもりはないんですけど、あまりにも映画全体の雰囲気に馴染んでおらず悪目立ちしていたなという印象です。

 

残された婚約者が縁もゆかりも義理もないのに、なんか環境を守ろうとしているところとか、すっごい無理やりキャラクターに喋らせているような感じがして一気に冷めてしまいました。前半にも書きましたが、本当に映画の終わらせ方がひど過ぎる。

 

最後に主演の二人について。竹野内豊さんって、昔はもっと演技に幅を持っていたような気がするんですけど、なんか最近は、丁寧な喋り方をする黒幕っぽいおじさんみたいな演技しか見てない気がします。序盤からもっと驚いていいはずのシーンで落ち着いているような感じで、やっぱり黒幕っぽさがありました。「キムタクは何をやってもキムタク」という有名な格言(?)がありますが、それに近い領域に入ってきました。

 

脚本も特に当て書きという感じはないので、ぴったりハマっているという印象も受けず、どんなシリアスなシーンでも「竹野内豊」が邪魔してくるような違和感がありました。

 

んで、山田孝之さん。皆さんお気づきかもしれませんが、彼は髭の濃さによって役どころの悪人レベルが判断できます。ウシジマくんとか、すごいでしょ? 今回はおひげがちょいもじゃくらいなので小悪党かなと思っていたら大当たりでした。最初は取り繕っていた化けの皮が剥がれて、粗野な人格をどんどんむき出しにしていく感じがすごく良くて、上記の竹ノ内さんと比較しても色々演じ分けが出来ているなぁと思いました。

 

シンボル性が高い固定の演技か、キャラクターを使い分ける変化の演技か。両者の演技を見比べる、という鑑賞の仕方も本作に関しては面白いかもしれません。なんせ、話自体が面白くないので。

 

◉まとめ

 

・ストーリーは破綻寸前でバランスが悪い

・6人の女たちはビジュアル・キャラクターともに◎

・何をやっても竹野内 髭の濃度で悪さが変わる山田孝之

・乳毛の謎だけはだれか解説お願いします

 

まとめると、大衆向けと芸術路線、二兎を追うもの一兎も得ず、な映画でした。