邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】ほつれる

ほつれる

ポスター画像

映画情報

監督 加藤拓也

脚本 加藤拓也

主演 門脇麦 田村健太郎 染谷将太 黒木華

 

2023年製作/84分/G

 


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あらすじ(公式HPより)

綿子と夫・文則の関係は冷め切っていた。綿子は友人の紹介で知り合った木村とも頻繁に会うようになっていたが、あるとき木村は綿子の目の前で事故に遭い、帰らぬ人となってしまう。心の支えとなっていた木村の死を受け入れることができないまま変わらぬ日常を過ごす綿子は、木村との思い出の地をたどっていく…。

 

私的評価

★★★★★★☆☆☆☆  6/10

 

感想

 

門脇麦を味わう84分間

 

普段あまり進んでみない映画のジャンルなんですが、ぶっちゃけ門脇麦目当てで見に行きました、すみません。そんでもって、その目論見通り今作は彼女のポテンシャルが最大限発揮された映画となっておりました。

 

冒頭のシーン、夫に対するそっけない態度から、不倫相手に会った瞬間の微笑み。決して台詞は多くないのだけど、たったそれだけで両者に対する関係と気持ちがこちらに伝わってくる。初っ端から演技力の高さを見せつけられて、そこからは門脇麦という女優に観客は目をくぎ付けにされます。

 

監督へのインタビュー曰く、情報量の多い演技ということですが、言いえて妙だなと。セリフだけでなく、表情やしぐさ、目線などでこちらへと感情をビシビシ訴えてくるんです。そんなに感情的になるようなシーンは少ないはずなのに、こちら側への揺さぶり方が半端ない。門脇さんを初めてみたのは「太陽」という映画だったんですが、年を重ねるごとにどんどん演技力オバケな女優になってきている気がします。ちなみに「太陽」はあんまし面白くないので見なくてもいいと思います。

 

門脇さんの演技で特に好きなのは、死んだ染谷君から貰った指輪をなくしたシーン。夫と記念日のプレゼント交換で、ちょっとは気を許してやるか、みたいなムードから一転、ふとした拍子で指輪がないことに気づき、動揺しまくりの目が泳ぎまくり。さっきまでいい感じだったはずの夫に構う余裕もなくなる。このシーン、感情の切り替えのリアリティがヤバすぎるんです。これから見る人には是非注目してほしいシーンです。

 

◉気まずい雰囲気を楽しめるかどうか

 

門脇さんを褒めるのはこれくらいにしておいて、いよいよ本筋ですが、これは非常に評価が難しい。最初っから最後までひたすら夫との気まずい会話の繰り返しがメインストーリーとなっており、これを退屈だと感じるか面白いと鑑賞できるかが分水嶺となっております。

 

不倫相手が初っ端に死んでからは、物語に大きな動きって特にないんです。いやらしいほど理論っぽく話す夫と、感情ぐらぐらな妻とのかみ合わない冷めた関係が徐々に壊れはじめて、(そりゃ黙って不倫相手の墓参りに行ったりしたらそうなる)特にどんでん返しもなく崩壊して終わり。音楽もほとんど無音で、割とぼそぼそした感じの会話しか聞こえてきません。僕的には、そのじめじめした感じが好きで入り込むことができたんですが、人を選ぶのは確かです。

 

ハマってしまえば、会話の絶妙な間とか、かなりいい感じに内臓にダメージを与えてくれるような気がして癖になるんですけどね。染谷さんとの会話がデレデレな分、そのギャップもきつくて気持ちいい(?)ですし。

 

ただ、正直なところ門脇さんの演技力で十分見られる会話劇になっているだけではないか、と思っちゃったりもします。おそらく、これで演技がいまいちな女優さんが演じていたりすると、いよいよ僕でさえ面白く感じられなくなるんじゃないか、みたいな。セリフ回しは自然でスムーズですけど、別段独自性やキレッキレな部分があるわけでもないので。

 

あとは、男は左脳で話して、女は右脳で話すみたいな決めつけ論、どこかで聞いたことあるかと思いますが、ある意味徹底的に男女を区別して描かれているので、そこに少し抵抗はありました。夫側の話し方にしろ態度にしろ、露骨に嫌悪感を覚えるような描き方にしすぎなような。女性が主人公なので視点的に仕方ない部分があるにしろ、不自然な感じはしました。

 

そもそもなんでそんな相手と結婚したんだよ、という疑問もありますよね。昔はよかったのかもしれないけど。最後のほうに明かされるんだけど、主人公たちも実は不倫からの略奪婚だったみたいで、不倫時代の恋愛と結婚生活とでは違うんだよという話かもしれませんが、なにぶん結婚前の話が全く出てこないので、想像で補うしかありません。

 

そんな不満点もありますが、気まずい雰囲気を楽しめる僕みたいなマゾ気質の人間は基本的にはずっと楽しめる映画だと思います。一番のお気に入り気まずさシーンは、何といっても不倫相手の妻と対面するところ。思わずうわぁと声が漏れそうになるくらいヤバいです。門脇さんの胃が痛そうな演技もいいですが、相手側のセリフも悔しさと怒りが静かににじみ出ている感じで、ここはかなり尖ってて面白かった。

 

門脇麦特化の演出面

 

カメラワークについてなんですけど、基本的に門脇さんを正面に捉えて他を脇に映すような演出が多いです。非常に割り切った撮り方だと思うんですけど、本作に関してはとても効果的だったなあと感じました。やっぱり彼女の演技力をアピールしたいし、見る側もそれを見たい。需要と供給を理解している演出だなと感じました。

 

黒木華さんや染谷将太さんなど、一線級の俳優さんも出ているんですけど、あくまで門脇さんメイン。初監督作品ということなのにここまで振り切った演出ができるのは胆力があるなあ、と。普通はもっと使いたいよね。

 

ただ、あまりにも門脇さんが映りすぎるせいで、他のキャラが何を考えているかの感情描写がほとんどありません。キャラクター的にも決して善い人間というわけではないので、綿子という主人公が合わない人にはかなり苦痛な映像になると思います。僕は門脇さんが大好きなので大好きでしたけど。

 

そんな僕でも一つだけうーんと思うのは、あれだけ好き勝手不倫しておいて最後は何事もなかったかのように家を出ていくのは、さすがに贔屓しすぎじゃないかなとモヤモヤしちゃいました。別に不倫を肯定するような描き方ではないんですが、何かしらの罰を受けてほしいと感じてしまうのは男性目線が過ぎるからなのかもしれません。

 

◉その他雑感

 

さて、色々グダグダ書きましたが、これって男性である僕の意見であるわけで、おそらく女性が見れば全く違う方向性の意見が出てくるんだと思います。別に男女差別というわけではなく、それほどまでに男と女の考え方の違いについて描かれた映画だと思うので。間違いなく言えることは、カップルでこの映画を見に行った暁には、映画同様の気まずい雰囲気が味わえるということでしょうか。絶対にデートで見るべきではありません。

 

あとついでに思ったことなんですけど、今作は演劇用の戯曲として始まった作品ということで、全体としてスケールの小さなお話なわけですが、実はこういう会話劇って最近増えてる?ような気がします。もっともメジャー路線ではないですけど。火付け役は「アルプススタンドのはしのほう」とかになるんでしょうか。基本あんまり予算がかからないスタイルですが監督の技術とセンスがもろに出る映画だと思うので、今後もジャンルとして定着していけば面白い作品に出合えるかもしれません。

 

◉まとめ

 

門脇麦ファンにとっては必ず抑えておくべき作品。

・アクションもサスペンスもない、あるのは気まずさだけ。

・今回はあくまで男の僕目線の意見です。

・世の中のカップルは全員この映画を見に行くべき。

 

まとめると、門脇麦ってやっぱすげえな、な映画でした。