邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】神回

神回

ポスター画像

 

映画情報

監督 中村貴一郎

脚本 中村喜一郎

主演 青木袖 坂ノ上茜

 

2023年製作/88分/G

 


www.youtube.com

 

あらすじ(公式HPより)

逃げることも死ぬことも叶わない 

イムループの果てに待つ切ない真実 17歳の夏休み。文化祭の実行委員となった樹と恵那は、教室で待ち合わせていた。 13時になり打合せを始めることに。しかし、しばらくすると、13時に戻ってしまうことに樹だけが気付く。 タイムループに陥った樹はなんとかその状況から抜け出そうともがくが、なかなか脱出することができない。 数えきれないほど同じ時間を繰り返していくうちに樹の精神は混乱を極め、物語はあらぬ方向へ加速していく。 果たして樹は無事に”時の監獄”から抜け出すことができるのだろうか。

 

 

私的評価

★★★★★★★★☆☆  8/10

 

感想

 

◉「タイムループ×青春」というド定番への挑戦

 

いまや当たり前のように使われている「タイムリープ」という言葉ですが、実はこれが「時をかける少女」で登場した造語であるということを知っている人は割と少ない。

 

はい、明日使える無駄知識を披露したところで本題ですが、「時をかける少女」以降、タイムリープを主題にした映画はじわじわと作品数を伸ばしてきて、2010年アニメ映画がヒットしたことで大流行に。このタイムリープという概念は日本創作界で完全に定着し、今では一大ジャンルとなっています。

 

毎年何かしらの作品は世に出ていますが、記憶に新しいのは本ブログでも感想を書かせていただいた「リバー、流れないでよ」。2分間の超絶短い時間のループという変わった切り口ながら、観客を飽きさせない作りが上手く、とても面白い映画でした。

 

hougatarou.hatenablog.com

今回の映画「神回」は5分間のループだよ、という事前情報を知っていたので、おもっくそ被ってるやんけ、と心配しながらの鑑賞となりました。

 

感想ですが、一言で表すならばエモい」

これに尽きます。正直、期待せずに見ていた反動もあったかもしれませんが、ぶっささりました。

 

エモさポイントについては後で述べるとして、肝心のタイムリープ作品としてはどうだったのかというと、本作は完全に異端です。

 

「タイムループ×青春(ラブコメ)」というテーマって、映画のみならずアニメや漫画で嫌というほど擦られてるんですが、大体行き着くところは同じなんですよ。過去をやり直してより良い未来にする。大好きなあの子とくっつく。本作ではそんなものはありません。何をやっても、どれだけ努力しても無駄。行き着くところは「無」=「死」

 

例えば映画の序盤、校庭で怪しい動きをしている奴がいるんですけど、5分という時間制限のため、中々そこまでたどり着けないんです。普通の作品なら、頑張ってたどり着いたらループ解決につながる謎やヒントなんかが手に入るものですが、今作では何度もループしてようやく校庭にたどり着いた結果、そいつは煙草を吸っていただけで何にも関係がないと分かるだけ。後半に繋がる伏線にもなりません。

 

ループものの定番である謎解きもなければ伏線回収もない。なんならタイムループを解決すらできない。定番をすべて無視したないない尽くしであるが、その「ない」ことが閉塞感と狂気を生み出し、徐々に主人公と我々視聴者を狂わせていく。他のループものでは味わったことのない感覚でした。

 

多分賛否が分かれると思うんですけど、主人公が我慢できずに女の子を襲ってしまう弱い人間であるという描写もリアリティがあってよかったです。普通はそうなりますよね。アニメの主人公が異常なんです。

 

というように、非常に暗ーいループ作品、といった感じになっています。それのどこが「エモい」んだよとお思いでしょうが、ご安心ください。本作はある意味2部構成のようになっていまして、このループの正体が明かされてからが本番なのです。

 

◉叶わなかった初恋という楔

 

この作品が僕にぶっ刺さった一番の要因はこれ。ずばり、叶わなかった初恋。チャンスはあったはずなのに、それを無駄にしてしまった。そんな青春時代の思い出をストレートに抉ってくるのが本作です。

 

「高校の文化祭、あの時勇気を出して実行委員に立候補していれば、あの子と仲良くなれたかも・・・」

 

物語の本質はたったこれだけなんです。自分の死の間際に、そんな気持ちの悪い「if」を妄想する。でも実際にあった出来事ではないからそこから先は想像できなくて、ループに自ら囚われてしまう。

 

理解できない、という人もいるかもしれません。でも僕は数年に一回くらい中学の時の初恋を思い出しては、なんであの時勇気を出さなかったのかと悶々する残念な男なので、主人公の気持ちに痛いくらいに感情移入してしまいました。そもそもが「タイムリープ×青春もの」が流行った原因もそこにあると思うんですよ。あの日あの時あの場所で違う選択をしていたら。そんな欲求があるからこそ、みんな見るんです。

 

さて本編の続きですが、主人公とヒロインは脱出できないループの中で、なんとどんどん年齢を重ねていきます。制服姿のおばあさんはかなり来るものがありましたが、「茶飲友達」で耐性をつけておいてよかったです。

 

hougatarou.hatenablog.com

 

このループ内で年を取るという表現も中々斬新でした。死にかけている本来の主人公は老人なのでそこに近づくことでタイムリミットを表しているというのと、あとは初恋の相手と一緒に年老いていきたい、という欲求もあったのではないかななんて個人的に思います。

 

そんでもってラストシーン! エモエモ! 夜の校舎のあらゆるところにプロジェクションマッピングで、あの子の姿を投影です。現実にあった出来事と、妄想の中の出来事。混ざり合い、映し出されては消えていく映像は、CGを使わずにここまで幻想的な表現ができるのかと驚きました。

 

最後の最後まで、初恋の相手と妄想の中で死んでいく主人公。はっきり言って「ここまですべて妄想」の一言で片づけられてしまうストーリーですが、僕みたいに刺さる人にはとことん刺さる内容になっていました。

 

妄想で何が悪い、男の初恋は重いんだよ!!

 

◉ちょっとした不満点色々

 

ここまでべた褒めなんですが、まあいくつか不満点もありまして。

 

一つはどうしても間延びしている感じがあったことです。先にあげた「リバー、流れないでよ」はループの繰り返しでも飽きさせない工夫がされていたんですけど、本作は単調な繰り返しが続くシーンが多いです。それはもちろん、ループの閉塞感を表現するためというのもあるんですが、ちょっと流石にやりすぎだなと感じました。上映時間は88分でポンポさん的にもOKなはずですが、体感はもっと長かった。

 

あとは、現実サイドのストーリー。主人公の甥とその妻?が主人公を看病している話なんですけど、結構な尺を使う割にそこまで必要だったのかなと疑問が残りました。あれだけお世話になった叔父さんに恩返しするんだ、と言われても、僕らが見てるのは学校で好きな女子に鼻を伸ばしている主人公なわけで、全くつながりません。

 

おそらくは現実のヒロインが登場してネタ晴らしをするというシーンを描きたいがために入れたサイドストーリーだとは思いますが、中途半端。バッサリ切るかもう少し深堀するかしたほうがよかった気がしました。

 

説明不足も少し気になったポイントです。あんまり説明されすぎる映画も好きじゃないんですが、主人公の行動理由や人となりがあまりにも説明されなさ過ぎて、理解できないシーンもいくつかありました。

 

◉キャストなど雑感

 

一番驚いたのはヒロインを演じた坂ノ上茜さんがなんと26歳だということ。女子高生役に全く違和感がなく、知った時には度肝を抜かれた。御神楽を踊るシーンとかめっちゃ可愛かった。あとは、ループを知覚していないという設定上、あれやこれやあったのに5分経てばフラットな状態に戻る、という難しい演技だったと思うがそつなくこなしていて素晴らしかった。流石26歳。ありがとう、って聞いてる?のセリフはしばらく耳から離れなさそうです。

 

主人公役の青木袖さんは、んー、まあぶっちゃけ普通。会話シーンなんかはちょっと陰キャっぽい男子高校生をリアルに演じていたとは思うが、怒ったり泣いたりするところでは迫力がないというか、見ている側にあんまり感情が伝わってこなかった。あまり尖りすぎていると感情移入できないけど、もう少し露骨に表現してもよかったんじゃないかなと思ったり。

 

映像については、基本9割が教室なので変わり映えはないんだけど、主人公目線と俯瞰との切り替えが上手くて没入感があるなあとか、窓から飛び降りるところのカットなんかが印象に残りました。ただ、夜の学校になってからは、何と言うかセットっぽさ?みたいなのを感じてどこか安っぽい映像になってしまっていたなと思います。

 

◉まとめ

 

・ループものの定番をあえて外した挑戦作。

・初恋に重たい感情がある人にはぶっ刺さる。

・初監督作で粗さはあるが、没入感で気にならないレベル。

・ヒロインは26歳女子高生

 

まとめると、『神回』は無限リピートしたいよね、な映画でした。