【感想】水曜日が消えた
水曜日が消えた
監督 吉野 耕平
2020年公開
https://m.youtube.com/watch?v=5zZjH3HVLlY
◉あらすじ(公式サイトより)
幼い頃の交通事故をきっかけに、ひとつの身体の中で曜日ごとに入れ替わる“7人の僕”。性格も個性も異なる7人は、不便ではあるが、平穏に暮らしていた。各曜日の名前で呼び合う彼らの中でも、“火曜日”は一番地味で退屈な存在。家の掃除、荷物の受け取り、通院、、、他の曜日に何かと押し付けられて、いつも損な役回り。今日も“火曜日”はいつも通り単調な一日を終えると、また一週間後に備えて、ベッドに入る。
それは突然やってきた。“火曜日”が朝目を覚ますと、周囲の様子がいつもと違うことに気付く。見慣れないTV番組、初めて聞く緑道の音楽…そう、“水曜日”が消えたのだ。
水曜日を謳歌する“火曜日”だったが、その日常は徐々に驚きと恐怖に変わっていく。残された“火曜日”はどうなってしまうのか―。
◉私的評価
★★★★★★☆☆☆☆ 6/10
◉総評
久々の劇場で観た映画です。色々あったからね。
さて、まずこの映画の素晴らしいところ。巷の評判だと1番は映像面をよく聞きますね。あの「君の名は」のCGで名前を知られている監督ですから、当然の評判だし、みんなそこに目がいく。確かに抽象的に差し込まれる事故のシーンなんかは幻想的かつ仄かな意図が隠されていて素晴らしい出来だと思います。でもそこじゃない。
僕が思うこの映画の長所はリーダビリティです。分かりやすい、読みやすい。
多重人格ものという設定で映画を撮ろうと思ったら、普通は序盤からそれを見せますよね(某格闘倶楽部みたいにそれがオチなのは除いて)。1人の人間が豹変するのはもちろん演出的には面白いのですが、観客サイドからするとこれって実は大変なんです。何故なら情報量が多いから頭を使わないといけない。多重人格ものに限らず、重厚なサスペンスってだから好き嫌いが分かれるんだと思います。
今作はその点非常にシンプル。中盤を過ぎるまではずっと同じ人格だから、視点も移動しません。あくまで小道具だけで多重人格を見せることで、メインストーリーを非常に飲み込みやすくしています。これって結構斬新な手法だと思うんですよ。
複雑そうな主題なのに分かりやすい。ストーリーやネタに真新しさはないけど、自然と物語に没入していく。ありそうでないタイプの映画です。
だいたい僕って映画を見終わった後に、ネットの感想をしこたま漁るんですけど、その中で多かった意見に、ミステリーとして弱いやらサスペンスとしては微妙だけどヒューマンドラマとしては面白いやら、そういう系のがありました。これって失礼を承知で言いますけど、すっごい的外れだと思います。だってそもそも、謎について考えるのもそれを解くのもあくまで劇中の主人公であって、我々は頭を使う必要がない。観客に謎を解かせるつもりなら、もっと複雑な構成になってるはずです。
まぁ、そういう感想が多いのって広告が悪いですよね。いかにも謎を解いてくれ、みたいな感じですもん。『中村倫也が七変化!』なんてほとんど詐欺ですよ。
さて、ここまではシンプルさについて褒めてきまして、それはそれで素晴らしいというのも事実なのですが、やはり同時にそこが欠点にもなっているかと思われます。だっていくら観客に答えを導かせる気がなくとも、映画のオチには多少なりとも驚きが必要なはずです。それがない。
厳密に言うとどんでん返し的なものはあるのですが、弱過ぎる。想像の範疇を超えないんです。最初から最後まで『こうなるんだろうな』と予想した観客の脳内レールからほぼ動きません。伝わりやすさを重視したばかりに、ストーリーが平凡になり過ぎた感が否めない。
もう一つ突き抜けてくれれば佳作になれた凡作って感じ。ただまぁ、好きか嫌いかで言うと好き。でも人には勧めにくい。そんな映画でした。