邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】鯨の骨

鯨の骨

ポスター画像

映画情報

監督 大江崇允

脚本 大江崇允 菊池開人

主演 落合モトキ あの

2023年/88分/G

 


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あらすじ(公式HPより 長かったので一部省略)

結婚式を間近に控えたサラリーマンの間宮(落合モトキ)は、ある日突然、婚約者の由香理(大西礼芳)から浮気しているとカミングアウトされて破局してしまう。なかば自暴自棄になった間宮は、マッチングアプリに登録し、唯一返信をくれた若い女性(あの)と喫茶店で待ち合わせる。 車で自宅のマンションに向かいながら、間宮は相手がまだ女子高生であることに気づく。一瞬躊躇するも、どこか挑発的な少女の誘いについ乗ってしまう。しかし先にシャワーを浴びている間に、少女は大量の薬を飲んで自殺してしまっていた。うろたえながらも証拠隠滅をはかり、死体を山中に運んで埋めようとするが、穴を掘っているうちに、車のトランクに入れていたはずの死体は消えてしまっていた。 間宮は罪の意識と死んだ少女の幻影に怯えるようになり、仕事にも身が入らなくなってしまう。

ある夜、ネットアイドルの凛(横田真悠)と彼女のファンたちに話しかけられる。彼女たちは「王様の耳はロバの耳(通称ミミ)」というARアプリにハマっているという。誰かが「ミミ」を使って映像を投稿すると、ユーザーはその映像を撮影された場所でだけ再生できる。 凛から「ミミ」ユーザーたちのカリスマ、“明日香”の存在を知った間宮は、その姿を見て驚く。自宅のマンションで自殺した少女と瓜二つだったのだ。

間宮は、消えた“明日香”の行方を知ろうと、新しく投稿された映像を探し始める。間宮は“明日香”が投稿した映像を探しながら、ときに寂しく、ときに優しく、場所ごとにガラリと印象を変える“明日香”に魅了されていく。 “明日香”の痕跡を追いかけるうちに、現実と幻想の境界が曖昧になっていく間宮。いったい“明日香”とは何者か? 彼女は死んだ少女と同一人物なのか? そして本当に存在するのだろうか?

 

私的評価

★★★★★★☆☆☆☆  6/10

 

感想

 

◉あのちゃん!?

 

あのちゃんの存在を知ることになったのは水曜日のダウンタウンでした。ラヴィットに出演して大喜利で遠隔操作されてボケまくる、あの企画です。多分、そのきっかけであのちゃんのことを知った人も多いと思うんですけど、いやいや、そのキャラクターで演技なんてできんの!? と気になったのが一番の鑑賞理由でした。

 

結果としてみれば、普通に演技してて驚き。特段、めちゃくちゃ上手いわけではなく、特有の舌足らずな喋り方はそのままなんですが、表情の作り方とかは割と上手で、見ていて不快感なく楽しめました。調べてみると、ちょっと映画は出ていたみたいで、邦画好きを名乗っているにも関わらず、知識不足で反省です。

 

生死不明の状態で主人公を揺さぶるヒロイン役なわけですが、これはおそらく当て書きな気がするくらいにはぴったりな配役でしたね。独特な空気感と間が唯一無二。バラエティでしか彼女を知らない人は、是非見てほしい。とても驚くと思います。

 

あとはいきなりネタバレっぽくなるんですけど、そもそも女子高生役は年齢的に無理があるんじゃないの? と思っていたんですが、その疑問を完全に逆手に取られましたね。参考書とか伏線の貼り方もよかったと思います。あのちゃんみたいな見た目の女子高生が勉強とかするわけないしね(偏見)

 

今作はなんとエンディング曲もあのちゃんが担当していて、まさにあのちゃん尽くしの一作となっております。僕は特別ファンというわけではないですが、ファンの方には聖典となるような内容なのではないでしょうか。

 

◉技術の進歩と承認欲求

 

本作の大きなテーマとしては「SNS」になるのかと思います。「mimi」という架空の動画投稿型SNSアプリを中心にしてストーリーが回っていくんですが、その設定がとてもよかったと思いました。AR機能を使って、実際の町に動画を埋め込み、その場所に行かなければ投稿した動画を再生することができない、という現実にあれば絶対流行らなさそうなSNSなんですけど、現実と空想のはざまで精神的におかしくなっていく主人公を惑わせるツールとして、非常に効果的な使われ方をしていました。目の前に出てきたあのちゃんは現実なのか、はたまたその場所に残された動画なのか、みたいな。

 

あとは、終盤にあのちゃんが主人公の家に動画を残していたことが分かるんですけど、それを求めてファンが暴走していくのも、サイコスリラー感があってよかったです。SNS上でよく目にする厄介ファンたちの目に余る言動が、現実と連動したアプリではこうなるのかと説得力のある表現になっていました。

 

少し脱線しますが、厄介ファン役の宇野祥平さん、良かったです。彼は映画に出ると9割越えの確率でヤバいおっさん役をしているんですけど、今回もご多分に漏れずやばいおっさんでした。何気ない話しながらしれっと主人公携帯のGPS調べたり、何もしないから動かないでくださいね、っていいながらナイフで刺して来たり、もう本領発揮って感じでサイコパス味が溢れてて。宇野君はやっぱ最高やな!!

 

はい、話を戻します。SNSと対になるテーマとして「承認欲求」というのもありました。結局のところ、人間がSNSをするのって誰かに認められたいからというのが大きいと思うのですが、今作ではその部分もかなーり嫌な感じに描いていました。公園で動画撮影とかしてるシーンとか、自分たちを無理やり正当化している感じとかが、すごく気持ち悪くてとてもよかったです。

 

とまあ、社会派なメッセージ性はすごく感じられる映画だったとは思うんですけど、それが面白かったかと言われれば、そこそこだったんですよね。扱っているテーマが抽象的だからか、全体的にぼんやりとした展開が続いて中弛みしちゃってる気がしました。かと思えばラストは急に現実に戻されたような感じでパッとしないし。(まあ、ラストシーンが本当に現実なのか、という伏線が序盤に貼られてたりするんですけど、そこまで言及しないので一見そんな感じで終わります)

 

ミステリー路線で行くならもっと伏線回収とか謎解き要素とか増やしてもよかったし、幻想的にいくならあのちゃんの生死とか最後まではっきりさせないほうがよかった。どっちつかずな中途半端な脚本になっていた印象です。

 

◉映像に関して

 

次に映像に関してなんですけど、多分低予算だったと思うんですが、その割には色々工夫して撮ってるなあというのが感じられる出来になっていました。静止画の間の取り方とかがすっごい好み。基本的に夜のシーンが多いんですが、明暗がくっきりと分かれていることが多く、見やすい上に印象的な映像になっていたんじゃないでしょうか。予告編にもありましたけど、公園のシーンとか工場跡のシーンとかはそれが顕著にみられます。

 

あのちゃんに対する撮り方もこだわりを感じました。おそらく動画っぽいところはカメラ目線で、それ以外は横からだったり遠くからだったりと意図的に分けていて、視聴者が判別しやすいような工夫がされています。地味な部分ですが、そういう積み重ねが見やすい映画を作るうえで大事なことだと思いました。

 

あとは結構、みんなが一斉に自分の方を見ている、みたいな映像が多かったです。苦手な人は苦手かも。僕的には、SNS上で炎上しているのを表現しているのかなと思って、そこそこ好きでした。

 

全体的に動きは少ないカメラワークなんですけど、そこも静かなBGMとマッチしていて、タイトル通り深海の底にいるかのような映像にこだわってるなあと感じる作品でした。

 

◉突き抜けが足りない

 

とまあ、割と映画自体は褒めてるんですけど、イマイチ物足りなさを感じることが多かったのが正直なところです。退屈ではないんですけどね。AR技術とSNSという、現在進行形で発展を続けているものを取り上げておきながら、テーマ的にもストーリー展開的にも、既視感が強い。まとまってはいるんだけど目新しさが少ない映画だと感じました。

 

せっかく主演=あのちゃんでかなり奇をてらって(?)るんだから、もう一歩はじけてほしかった。

 

主人公も無気力な会社員っていうあんまり特徴のないキャラ付けだったし。個性が少ないほうが感情移入はしやすいんだけど、もう少しの味付けは欲しかったです。特に今作では序盤から終盤までほとんど主人公が映った状態で映画が進んでいくので、そこが薄味だったから平凡な映画だなと感じてしまった要因になったんじゃないかなと。

 

最初パンツ一丁で現れたときは何かしてくれそうなオーラは感じたんですけどね。

 

◉まとめ

 

あのちゃん、意外とすごい

SNS怖い

・信者も怖い

・全体的に平均点な感想

 

まとめると、「あのちゃん」と「うのちゃん」の夢の競演、な映画でした。