【感想】きみの鳥はうたえる
2018年公開
監督 三宅唱
◉あらすじ(公式サイトより)
函館郊外の書店で働く「僕」(柄本佑)は、失業中の静雄(染谷将太)と小さなアパートで共同生活を送っていた。ある日、「僕」は同じ書店で働く佐知子(石橋静河)とふとしたきっかけで関係をもつ。彼女は店長の島田(萩原聖人)とも抜き差しならない関係にあるようだが、その日から、毎晩のようにアパートへ遊びに来るようになる。こうして、「僕」、佐知子、静雄の気ままな生活が始まった。夏の間、3 人は、毎晩のように酒を飲み、クラブへ出かけ、ビリヤードをする。佐知子と恋人同士のようにふるまいながら、お互いを束縛せず、静雄とふたりで出かけることを勧める「僕」。
そんなひと夏が終わろうとしている頃、みんなでキャンプに行くことを提案する静雄。しかし「僕」は、その誘いを断り、キャンプには静雄と佐知子のふたりで行くことになる。次第に気持ちが近づく静雄と佐知子。函館でじっと暑さに耐える「僕」。3 人の幸福な日々も終わりの気配を見せていた……。
◉私的評価
★★★★★★★☆☆☆ 7/10
◉総評
映画の題材としては本作、かなり向いていなかったんじゃないかと思う。山場・見せ場もあまりないし、多分脚本を見ただけだと退屈そうだな、と感じただろう。
本編のストーリーって、簡単に言ってしまえば男2女1の冗長な三角関係なわけで、その中で誰かが死んだりとか大喧嘩したりだとか、そんなドラマチックな展開は一切ないんです。ただ適当にバイトをして、毎晩呑んだくれて、本当に『漫然と』という形容詞が似合うような生活を主人公たちは送っている。
ダメな監督が撮れば眠っちまいそうな内容なんだけど、それを見れる映画にしてるってところに監督の技量が現れてるんじゃなかろうかと思うわけで。最初はこれ面白いのー?って不満げに僕は見ていたわけですけど、気付けばもう無我の境地というか、批評とか全く考えずにどっぷりと映画にトリップしていた。
何だろう、例えるならぬるま湯? 安心感とは違うんだけど、なんか自然体で見られる映画でした。
全編通して青みがかった暗い描写は、鼻に付かずにすんなり魅せられたし、カットの長さもシーンごとに特徴があってテンポが一辺倒になってない。そして何よりモラトリアム特有の結論が出ない雰囲気を醸し出してる人物描写。往年の名監督が撮ってるんじゃないかってくらいこう、渋さを感じました。
文学的すぎてリアリティはないんだけど、極限まで角を削って丸くして、ポンと現実の函館にキャラ達を配置したみたいな。輝きを消すことであえてより際立った魅力があるみたいな。
いや、僕の語彙力では説明しきれないんですけど、本当に不思議な雰囲気があるんですよ。登場人物たちとその舞台。演技力の高さってのもあるのだろうけど、やっぱり何よりも監督の見せ方が上手いんだと思う。
聖地巡礼ってあんまりしたことないんだけど、函館には行ってみたくなったなぁ。ブラブラ歩いて夜通し飲んで、港でタバコを吸っていたい。そんなことを思わせる映画でした。