邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-

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ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-

2018年公開

監督 米林宏昌 百瀬 義行 山下 明彦

 

 

◉あらすじ(公式サイトより)

兄と弟の勇気、母と子の絆、
そして、たったひとりの闘い。
小さな涙と優しさは、3つの物語を通して、
やがて大きな強さとなっていく──。

 

愛と感動のエンターテインメント、
ポノック短編劇場
ちいさな英雄
カニとタマゴと透明人間-

 

◉私的評価

 

★★★★★☆☆☆☆☆  5/10

 

 

◉総評

 

メアリと魔女の花」を作成したスタジオポノックが送る、短編3本。

以前レビューした「詩季織々」と企画の方向性は同じだが、作品の内容では大きく違う。向こうがリアル志向だとしたら、こちらはジブリ的なファンタジー。ずっしり書き込まれた風景の美しさを見せた「詩季織々」に対し、「小さな英雄」は躍動感溢れる動きで楽しませる。

 

というわけで、以下3本のレビュー。

 

カニーニカニーノ

 

説明なく独自の世界観にブッ込まれるが、何となく理解できるように作りこまれているのが凄かった。あと、映像ではこれが文句なしに一番だろう。清らかな流れから濁流まで、小川の表現は群を抜いていたし、恐ろしく描かれた巨大魚は見た子供にトラウマを植え付けること間違いなし。ただ、カニを擬人化している突飛な設定の割には、それを生かしきれておらず、物語に起伏が少ない。まあ、短い時間なので多少は仕方ないのかもしれないが。

 

◉サムライエッグ

 

はい、問題作。ファンタジー二作に挟まれたアレルギーを抱える子どもとその母親の話。そこはファンタジーで統一して欲しかったよ。

それは置いておくとしても、こいつは酷かった。

話の内容もありきたりで珍しさもない。というか、アニメでする意味が全くないよね。タイトルの意味も分からないし。独特なタッチで描かれてはいるけど、かといって別段、絵に面白みはない。親子の絆?  親のミスで子供を殺しかけただけなのに、どうして美談になるのか分からない。

 

ぶっちゃけこの時点で、残り一作にも期待してなかった。メインの米林監督は終わっちゃったし。

 

◉透明人間

 

ところがどっこい。

めちゃくちゃおもしれーんだよ、こいつ。

 

冒頭からしてやられたね。主人公の透明人間が外に出るとき、肩から消火器を担いで行くんだけど、普通は「粉をぶっかけて姿が見えるようにするのか」って思うじゃん?  でも違うんだよ。透明人間は質量もほとんどないから、風で飛ばされるの。だから、飛ばされないように重りとして持ってるわけ。ミスリードもすげえと思ったけど、後の展開にも繋がるんだからもひとつすげえ。

世界観も謎だらけなんだけど、そこがまたいい。短編なんだから、全部説明する必要なんてないんだ。

おまけに映像も凄まじいよ。ラストのスピード感溢れるシーンは鳥肌もんで、瞬きを忘れるってまさにあのことだよ。

 

いやー、これを最後にしたのは英断だなぁ。全く子供向けではない内容だけど。

 

 

というわけで3本の感想でした。こう見るとやっぱりサムライエッグが足を引っ張ってるよね。短編集の不利なところは、やっぱりどれだけ面白い作品があったとしても総合的に一本の映画として見られちゃうってところ。同じように埋もれてしまった作品も数多くあるのかもしれない。

 

一つ言えることは、サムライエッグさえ我慢すればくっそ面白い透明人間が待ってるから、是非見てください。3本で1時間もないから、サクッと見れるよ。

 

あと、木村カエラのテーマソング、めちゃくちゃだっさい歌詞なんだけど、耳から離れない。こちらも必聴です。

 

 

【感想】アラーニェの虫籠

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アラーニェの虫籠

2018年公開

監督  坂本サク

 

 

◉あらすじ

郊外の工場跡地に建つ巨大集合住宅。

最近では、女子高生の変死体が発見され、不可解な心霊現象が目撃されるなど、いわくつきの噂が絶えない場所だった。

ここに引っ越してきた、気弱な女子大生りんは、ある夜、救急車で搬送される老婆の腕から大きな虫が飛び出るのを目撃する。

不思議なオーラを放つ中学生、奈澄葉や、呪術師の斉恩らとの出会いを通して、蟲や怪異の正体に迫っていくりん。 

しかし、それはりん自身が、封印された過去と向き合うことを意味していた……。  

果たして、りんを待ち受ける運命とは!? そして建物に隠された驚愕の真実とは!?

 

◉私的評価

 

★★★★☆☆☆☆☆☆  4/10

 

 

◉総評

 

監督、原作、脚本、作画、音楽の全てを1人でこなしたという本作。肩書きは確かにすごい。これまで類を見ない程に。

 

ただ、これは映画なのだ。面白くなくてはならない。

 

今作は、ホラー映画として見れば悪くはない。ジワジワと鬼気迫る恐怖から、アメリカンホラー的なびっくりシーンまで、選り取り見取りだ。ジメジメした映像効果もjホラーっぽくて実に良かった。

 

目玉である“虫”の不気味さも個人的には好き。特に脳みそに蟹みたいな足が生えてるやつ。「パペラキュウ」っていうweb漫画思い出した。

 

独特な世界観は本当に唯一無二の作品だなぁ、って感心したんだけど、イマイチな点が2つ。

 

1つ目は難解すぎるストーリー。僕も完璧には理解できなくて、それで批評はマズイかなとパンフレットも買ったんだけど、それでもよく分からなかった。「あとは視聴者の想像に任せます」にしても、情報の少なさや整合性のなさで想像が膨らむまでには至らない。

 

ガチガチのホラーかと思えば金髪のパリピみたいな奴がいきなりバトルを始めるし、とにかく監督のやりたい事を詰め込んだんだなってのは分かるけど、娯楽の大切な姿勢である観客を楽しませるってのにもう少し配慮すべきだったのではないだろうか。

 

2つ目はアニメーションの粗さ。ある意味そこが売りにはなっているのだが、やっぱり動くシーンには違和感が所々あった。作品の方向性として、そこは求める部分ではないというのも理解しているが、それならそれでもっと工夫をすべきだったと思う。

 

演出面に関しては本当に良かったので、出来れば今度はモリモリ予算を注ぎ込んで作って欲しい。エログロ系は昨今廃れてきてるから、貴重なんだ。

 

【感想】ペンギン・ハイウェイ

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ペンギン・ハイウェイ

2018年公開

監督  石田 祐康

 

◉あらすじ(wikiより)

 研究者肌でおっぱいに多大な関心を持つ小学四年生のアオヤマ君の住む街で、ある日突然、ペンギンの群れが出現する怪事が起こり始めた。ペンギンの正体と彼らの目指す先についての研究「ペンギン・ハイウェイ研究」を始めたアオヤマ君は、顔なじみの歯科医院のお姉さんがペンギンを出現させる瞬間を目撃する。だが、なぜペンギンを出せるのかは、お姉さん自身にも分かっていなかった。

 ペンギンの出現法則を解明しようとお姉さんと実験をする一方で、アオヤマ君は、友人のウチダ君、同じクラスのハマモトさんとの三人で、ハマモトさんが発見した森の奥の草原に浮かぶ謎の球体〈海〉についての研究を始める。やがてアオヤマ君は、〈海〉とペンギンとお姉さんの奇妙な関連性に気づくのだった。

 

 

◉私的評価

 

★★★★★★★★★☆  9/10

 

 

◉総評

 

最高のおねショタアニメだったよ!

 

何よりキャラがいい。俳優2人が演じる主役は不安だったけど、めちゃくちゃ演技上手かったし。

 

クールで大人びていて、だけど天然っぽい少年アオヤマ君と、自由奔放なお姉さんの絡み、最高に尊かったです、はい。「僕は多忙なんだ」とか言っちゃう癖についついおっぱいに目がくらんで、「胸ばっかり見ない」とお姉さんに注意されるとか、もうさいきょうですよね。

 

夜のカフェでお姉さんとふたり、チェスをするとか、そんな少年時代送りたかったよ!  それでお姉さんが船を漕ぎ出して、「今日はお姉さんが眠いんですね」とか言ってみたかったよ!

 

とまあ、主役2人の会話シーンが一番好きなんだけど、こいつら妙にウェットに富んだ会話をしやがるから、文章に起こすと冗長になりそうなんだ。でもそれをテンポ良く演じているから非常に面白いシーンになってるんだと思う。

 

脚本はヨーロッパ企画上田誠氏。「四畳半神話大系」もこの人だったけど、もう森見作品のエキスパートだと思う。あっちは原作も読んでたけど、原作シーンの取捨選択が上手いんだよ。魅力を殺さず、さらに飾り付ける職人芸だね。

 

話の大筋は謎解きのSFなんだけど、もう1つの筋としてアオヤマ君のお姉さんへの淡い恋心を描いたラブストーリーもある。2つの本筋がバランス良くて、どちらも殺しあってない。そこに脚本の妙を感じます。

 

映像的には基本「静」のシーンが多いんだけど、ラスト間際ペンギンと町を駆け巡るシーンは躍動感あふれてて今までとのギャップも含めて非常に印象的だ。その前のペンギンを整列させるお姉さんのシーンも好き。

 

てか、ペンギンの動作一つ一つが可愛くてそこも良かった。

 

あとは、お姉さんの「おっぱい」に並々ならぬこだわりを感じました。いえ、ヤラシイ意味ではありません。やっぱりそこは原作に忠実にしないと。とても良いお椀型でした。

 

とまぁ、グダグダと書きましたが総合的にみて非常に出来の良いアニメ映画でした。大人にも子供にもおススメできるアニメは貴重です。

 

夏の終わりにこの映画に出会えて、本当に良かったと思います。少年時代の「風景画」を描いたという原作者の言葉通り、あの頃に抱いていた好奇心や恋心が蘇ってくるような、そんな「ひと夏の物語」を描いた作品でした。

 

おねショタは、いいものだ。

 

追記

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パンフレットもめちゃくちゃいいので買いです。

各種インタビュー他、作中で出てきた「アオヤマくんのノート」がまとめられていて、映画鑑賞後に見直すと二度美味しい感じ。

 

 

 

8月公開映画見たいリスト

八月も残り半分となりましたが、見たい作品はてんこ盛りです。夏と映画館って相性実は抜群な気がするんだよね。新しい季語として使ってもいいくらい。

 

◎絶対見に行くであろう作品

アラーニェの虫籠

ちいさな英雄ーカニとタマゴと透明人間ー

『夏のホラー秘宝祭り』

 

まずはアニメ2作。エログロっぽいのとジブリっぽいの。正反対な毛色だけど何故か客層は被りそう。というか8月は夏休みだからなのかアニメ映画めっちゃ多いよね。1人で見に行くのは辛い。

『夏のホラー秘宝祭り』は企画です。詳しくはこちらを。http://horror-hiho.com

特に見たいのは『ファミリー☆ウォーズ』。

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ポスターが最高にイカしてるので期待大。

 

 

○多分見に行く作品

高崎グラフィティ。

ペンギン・ハイウェイ

検察側の罪人

 

高崎グラフィティは予告編めっちゃ良さそうなので是非見に行きたいが、上映館少ないんだ。合う人と合わない人両極端っぽい作品ですね。

次はペンギン。森見作品はホントに良くアニメ化される。『四畳半神話大系』はめちゃんこ面白かったのでこれも期待。原作未読なので読むかどうかは気分次第。

話題作も見とこ、ってことで検察側の罪人入れました。題材が地味なので花のある主演2人をどう料理するのか見ものです。

 

以上、個人的な見たい邦画リストでした。暇があれば、いいなあ。

【感想】カメラを止めるな!

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カメラを止めるな!

2018年公開

監督 上田慎一郎

 

 

◉あらすじ(公式サイトより)

とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。​本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に 本物のゾンビが襲いかかる!​大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。
”37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”

 

 

◉私的評価

 

★★★★★★★★★☆  9/10

 

 

◉総評

 

いやぁ、面白い。今年見た邦画の中ではダントツだわ。さすが話題作。

 

何が上手いってストーリーの構成だよね。あれ、これ本当に面白いの?  って観客を不安にさせてから後半で一気に爆発させる。ジェットコースターみたいに。それでもって無駄な描写がほとんどないんだから退屈もしない。低予算映画特有の野暮ったさも感じさせないのは、監督や俳優の力量だろう。

 

DVDレンタルを待っている人は無理してでも劇場で見たほうが絶対にいいよ。アトラクションに乗っているかのような一体感は劇場でしか味わえないから。

 

さて、これ以上の感想は何を書いてもネタバレになるので書けない。それぐらい予備知識なしで見てほしい作品だ。近い作品でいうと『サマータイムマシン・ブルース』になるだろうか。『キツツキと雨』は逆に遠いかも?とにかく、仕掛けの面白さに特化した映画である。

 

何はともあれ、言えることはただ黙って見なさいということだけなので、次は著者の低脳な頭なりに、どうしてこの映画がここまでヒットしたのか、について考えたい。

 

予期せぬヒットということで、よく『バーフバリ』や『この世界の片隅に』等と比較される今作であるが、これらとは決定的に違う点が存在する。それは、10年前に公開されていたら、上記二作は変わらず評価されていただろうが、本作は一部の映画ファンにしか評価されないコアな作品となっていただろう、という点だ。だからこそ、映画をよく見る人ほど『カメラを止めるな!』がヒットしたことに驚いているはずだ。

 

一因としては、もちろんSNSに代表される口コミの進化もあるだろうけど、僕は映画を楽しむ一般大衆の目が“肥えて”きているのが大きな要因だったのではないか、なんて推察する。インターネットの普及によって以前よりも遥かに多くの映画と出会う機会が増えてきているのだ。駄作も名作も等しく。

 

一昔前なんてゾンビ映画といえばキワモノ中のキワモノ、それこそマニア向けと捉えられていた。だが、今の観客はロメロこそ知らなくとも、『バイオハザード』や『ゾンビランド』は知っている。あれだけ異色扱いだったPOVももはや1ジャンルとして市民権を得ているのだ。

 

だからこそ、『カメラを止めるな!』の特殊性にも怯むことなく、真正面から評価できる。大作も珍品も受け入れられる“目”が養われてきているのだ。

 

大げさに言ってしまえば、邦画は今作のヒットを機に、新しい時代の幕を開けようとしているのかもしれない。金を掛けなくても儲かる、観客は映画の面白さを理解してくれると証明されたからだ。日本映画黄金期、来ちゃうかも知んないね。

 

【感想】詩季織々

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詩季織々

2018年公開

監督 ジョシュア・イ・シャオシン、 リ・ハオリン、 竹内良貴

 

◉あらすじ(公式サイトより)

中国の3都市を舞台に、失いたくない思い出を胸に、大人になった若者たちの、過去と今を紡いだ〈珠玉の青春アンソロジー

 

 

◉私的評価

 

★★★★★☆☆☆☆☆  5/10

 

 

◉総評

かの「君の名は。」を制作したコミックス・ウェーブ・フィルムが日中合作で挑んだ意欲作。

 

なのだが、全体としては薄味。これに尽きる。

 

短編3本を通して、映像のクオリティはさすがと言わざるを得ない完成度だ。中国の田舎から都会まで、景観美とそこに差し込む光の表現は昨今のアニメ映画の中でも群を抜いているし、人物の造形も適度なデフォルメが「オタクっぽさ」を感じさせない絶妙なデザインとなっている。

 

映像作品としては100点だが、これは映画。大切なのはストーリーだ。決して支離滅裂な脚本で面白くない、というわけではない。ただ、3本とも驚きが少なかった。これは自論になるが、アンソロジーというのは如何に少ない時間で見るものの度肝を抜いて心を奪うか。これにかかっているように思う。その点では少し肩透かしを食らってしまった。

 

以下、短編3本の感想。

 

◉陽だまりの朝食

 

飯テロ。ビーフンがめちゃくちゃ美味そう。個人的には二店舗目の野菜炒めを乗せたやつ。あれ絶対に美味い。

 

映像的にはこれが一番。ナレーション的にビーフンの説明をしながら調理するシーンなんて、見ているだけで涎が出そうだった。

 

肝心のストーリーは、ビーフンの添え物でした。ただひたすらにビーフンの魅力に酔え。

 

◉小さなファッションショー

 

3本中では最もまとまっていたんじゃないでしょうか。起承転結はっきりした脚本で分かりやすい。日本人監督らしい優等生な作り。

 

ただまとまり過ぎてて、「どこかで見たようなストーリー」の枠を超えられなかった。つまらなくはないんだけど、もう一押し欲しい。

 

ピンク髪の後輩ちゃんはアニメっぽ過ぎる見た目で雰囲気ぶち壊しだったけど、小悪魔キャラはたまらなかった。

 

◉上海恋

 

上2つと違って、非常に荒削りな構成だと感じた。だけどキャラクターの魅力的には一番。小雨ちゃん可愛い。

 

もっとキャラを掘り下げて入れば最後のシーンもより感動的になったのに、と惜しい印象だ。だけど、3本の中では一番出来がいいし、メインと言ってもいいんじゃなかろうか。

 

カセットテープでの交換日記なんて胸にキュンキュンくるし、誤解が生んだすれ違いも甘酸っぱい青春を感じさせた。長編にすれば化けるかも。

 

 

以上、感想でした。

ビッグネームに期待をして見に行った人には物足りないかもしれないが、ツボに入ればとことんのめり込めるかもしれない作品。まぁ、見て損はなし。

【感想】志乃ちゃんは自分の名前が言えない

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志乃ちゃんは自分の名前が言えない

2018年公開

監督 湯浅弘章

 

 

◉あらすじ(公式サイトより)

高校一年生の志乃は上手く言葉を話せないことで周囲と馴染めずにいた。ひとりぼっちの学生生活を送るなか、ひょんなことから同級生の加代と友達になる。
音楽好きなのに音痴な加代は、思いがけず聴いた志乃の歌声に心を奪われバンドに誘う。
文化祭へ向けて猛練習が始まった。そこに、志乃をからかった同級生の男子、菊地が参加することになり・・・。

 

 

 

◉私的評価

 

★★★★★★★☆☆☆  7/10点

 

 

◉総評

 

押見先生の原作漫画は既読。

 

一時期、一巻完結の短編漫画を集めるのにハマってて、その時に買った一冊です。

 

まずは漫画原作として気になるデリケートゾーン

「某巨人とか〇〇の奇妙な冒険みたいに、改悪されてんじゃねーの?」

であるが、ラストシーンを除いてほとんど原作通りでキャラ増減などは一切ない。押見作品の「なんとなく漂う鬱屈とした雰囲気」も映像的に程よく再現されていたのではないだろうか。

こういうのでいいんだよ、と思う反面、しかし物足りなさもあった。

 

だいたい漫画原作というと、5〜10巻くらいの内容を1時間半にギュッと押し込めているのだが、なにぶん「志乃ちゃん」は漫画一冊分しかなく、映画にするとやや間延びしてしまっている印象があった。

原作の雰囲気を壊さない程度には追加のエピソードなんかもあってよかったんじゃないだろうか。

 

そして、改変したラストシーンも微妙である。原作のラストも飛躍しすぎていてアレだったが、それと比較しても締まりが悪い。

 

あとは、主人公の友達である加代は「歌が下手くそ」という設定なのだが、あるシーンで一曲歌った時にそこまで下手というわけではなく、設定と現実が食い違っていてもやっとした。

 

 

と、ぶちぶち文句を垂れてはいるものの全体としては非常にバランスの良い青春映画。とはいっても「リンダ リンダ リンダ」や「スウィングガールズ」みたいな音楽×ガールの王道とは違い、よりキャラクターに寄り添った優しくも厳しい青春物語だ。テーマである各々のコンプレックスも、繊細に消化していて人間くさい、身近な感じを受ける作品に仕上がっている。

 

橋の上で懐メロを歌うシーンなんか特に好きで、キラキラした主役2人の思い出をバックに「あの素晴らしい愛をもう一度」が流れる。いやー、たまらん。下手に恋愛要素を入れて媚びないところもいい。そういうのを見たいんじゃないんだ。

 

そしてこの映画を語る上で外せないのが主演・南沙良さんの熱演。なんと映画初出演とのことだが、それで吃音症の少女という特殊な役柄をあそこまで演じきってしまうのだから大したものだ。

 

泣きながら感情を吐露するシーンなんて、往年の女優も顔負けの迫力だった。そんな泣き顔晒して大丈夫なの?と心配になるレベル。

 

舞台となった沼津市の情景も映画の雰囲気に非常にマッチしていた。青い空、伸びる海岸線、微妙に古臭く、懐かしさを覚える街並み。いかにも青春の香りが渦巻いていそうである。

 

 

初回なので長々と語ったが、要するにそこそこおすすめなので、暇があれば見てください。青春時代に大切なものを落っことしてきたそこの君、特におすすめだぞ。