【感想】響 -HIBIKI-
響 -HIBIKI-
2018年公開
監督 月川翔
◉あらすじ(公式サイトより)
スマートフォン・SNSの普及により、活字離れは急速に進み、出版不況の文学界。そこに現れた一人の天才少女、彼女の名は『響』。15歳の彼女の小説は、圧倒的で絶対的な才能を感じさせるもので、文学の世界に革命を及ぼす力を持っていた。響は、普通じゃない。彼女は自分の信じる生き方を絶対曲げない。世間の常識と慣習に囚われた、建前をかざして生きる人々の誤魔化しを許すことができない。響がとる行動は過去の栄光にすがる有名作家、スクープの欲だけで動く記者、生きることに挫折した売れない小説家など、様々な人に計り知れない影響を与え、彼らの価値観をも変えていく―。
◉私的評価
★★★★★★★★☆☆ 8/10
◉総評
本作は非常に荒い作品となっている。カメラワークはぶっちゃけ微妙なシーンが多いし(アップと引きのタイミングがシーンの雰囲気と合ってなくてしっちゃかめっちゃかな絵面)、時たま挟まれるクドい演出も苦手な人は苦手だろう。
賛否両論多いに分かれる作品となっているが、それでも全体を通して見ればかなり面白かった。演出の不備を取り返すくらいに他の要素が良かったと思う。
まずはキャスティングだけど、これは満点に近いんじゃないだろうか。
主演の平手友梨奈はまさにハマり役。アイドル主演にありがちなイライラする滑舌の悪さもなかったし、ぶっ飛んだ天才という難しい役所を見事に演じきっていた。あとは、とにかく目力が凄い。眼鏡の奥からギロリと睨むシーンが多いのだけど、もはやもう怖いぐらいに迫力があった。
そして、やっぱり小栗旬。僕はカッコいい役よりも『キサラギ』とか『キツツキと雨』みたいにオタクだったり内向的だったりな変わったキャラを演じている時の彼が好みで。才能溢れる響とは対照的に、才能の無さにもがき苦しむ裏主人公的な役柄だったんだけど、もう最高よ! 暗くてジメジメしてて、うだつが上がらない。不幸なイケメンを演じさせたら日本で一番かもしれない。
アヤカ・ウィルソンは見ている時は知らなかったけど、『パコと魔法の絵本』に出てた子役だったんだね。いやぁ、綺麗に成長しちゃってまぁ。響とは違って感情の上下が激しいキャラだったんだけど、上手く演じられていました。常人離れした主役に変わって、彼女に感情移入した人も多いはず。
とまあ、台本を当て書きしたんじゃないかと思うほどぴったりな配役ばかりなんです。だから漫画原作でそれなりに無理のある設定にもすんなり馴染むことができて。没入感マックス。
あとは、なんといってもやはり、響という主人公の魅せ方が見事。
原作からラブコメ的な要素を排除してより尖ったキャラクターになってるんですけど、だから感情移入が全くできない。何を考えてるか、理解できないんですよね。でもそこがいい。
響って言ってみればなろう系小説の主人公に近いんです。天才の中の天才で、他のキャラ達に賞賛されて、でも本人はクールで、「あれ、またなにかやっちゃいました?」みたいに自分を曲げない。けれど、決定的に違う部分があって、それは手放しに褒められているわけじゃないという点。人を殴れば当然非難されるし、他人の気持ちを考えないストレートな暴言は受けたキャラの心を傷つける。彼女を全面的に認めている人物は劇中には一人も存在しないんです。
唯一それが存在するのは画面の向こう側、つまり視聴している僕たち。映画内での行動が虚構の代物だと理解している僕らだからこそ、響の暴挙をただ楽しんでみることができる。ときおり見せる可愛い仕草にもやられちゃうわけですよ。
そして映画で大切な要素とされる 『葛藤』は響に影響された他のキャラ達が十二分に見せてくれるから、ストーリーとしてのバランスも保たれている。ともすれば、独りよがりな作品になってしまいがちな構成のバランスを凡人たちの苦悩によって見事に調整してるわけなんです。
響に蹴られた作家である鬼島仁(北村有起哉)が、響の人間性を批判しながらも、それでも直木賞・芥川賞を選ぶなら彼女の作品であると言い切るシーン。一番好きなシーンなんだけど、まさにこの映画を象徴しているシーンだ。
はい、長めに語ってしまったけど、これ、本当に良い映画でした。
漫画原作、アイドル主演と地雷要素満載の本作。避けている人は偏見を捨てて、ぜひご鑑賞を。
9月公開映画見たいリスト
まだ8月公開映画も観終わっちゃいないが、それでも新作は続々やってくる。ペース配分がやべえけど、それでも出来る限りは劇場で見たい映画たち
◎絶対に見に行くであろう作品
飢えたライオン
全部あ行じゃないか……。
愛しのアイリーンは吉田恵輔監督の最新作ということでとりあえずチェック。当たり外れはあるものの、『さんかく』や『麦子さんと』とか、ズッパシ嵌るときはすっげえ自分にドンピシャな映画を作ってくれるので期待大。
飢えたライオンは予告編を見て。ネット社会の恐怖って今じゃありきたりなテーマになりつつあるけど、これはその中でもスッゲェ見た後に暗くなりそうな映画。
いつも月夜に米の飯はフィーリングです、はい。
○多分見に行くであろう映画
響 -HIBIKI-
君の鳥は歌える
まずはメジャー枠で響。原作はチョロっと読んだことあるけど、雰囲気全然違うくないですか? もっとフワフワしてた印象あるけど、予告見る限りキレッキレだし。
君の鳥は歌える、あちこちで聞いてて気になってます。
純平はリストに入れたものの微妙かも。奥田英朗原作で、読んではないけどまあ見てみようかな、くらいの気持ち。
そして、関東に住んでいないので大半の映画は10月に見ることになりそうです。そして10月になるとまた新作が出てきて、のループ。そうこうしているうちに年末、お正月ですよ。消化しきれないな、これ。
【感想】泣き虫しょったんの奇跡
2018年公開
監督 豊田利晃
◉あらすじ(公式サイトより)
小学生のころから将棋一筋で生きてきた“しょったん”こと瀬川晶司の夢は、
年齢制限の壁にぶつかりあっけなく断たれた。
奨励会退会後、将棋とはしばらく縁を切り
平凡な生活を送っていたしょったんに突然訪れた父親の死…。
親友・悠野ゆうやら周囲の人々に支えられ様々な困難を乗り越え、再び駒を手に取ることに。
しかし、プロを目指すという重圧から解放され、その面白さ、楽しさを改めて痛感する。
「やっぱり、プロになりたい――」。
35歳、しょったんの人生をかけた二度目の挑戦が始まる。
◉私的評価
★★★★☆☆☆☆☆☆ 4/10
◉総評
『青い春』の豊田利晃・松田龍平コンビが送る感動実話ストーリーという触れ込みの今作。妻夫木聡や松たか子など、主役を張れるだけの大物がちょい役でバンバン出てきて、そこは見ていてすごく楽しかった。通りすがりの一般人で藤原竜也が出てきた時も劇場がざわついたし。(喋り方のクセがまんまですぐに分かるのがすごい)
将棋のシーンではセリフやBGMが控えめで、パチリパチリ、という駒の音だけが響くような演出。これがめちゃくちゃ良かったと思う。緊張感が画面から滲み出しているというか、本当に対局を見ているようなリアリティがあった。
ただ、肝心の内容はというと、ちょっとバランスが悪いかなと。物語は少年時代・奨励会時代・大人時代の三部に分かれてるんだけど、どれも同じくらいの濃度で書かれている。少年時代・奨励会時代のエピソードも丁寧に書かれていて、なおかつ後半への伏線にもなっているから面白いことには面白いんです。でも、その分大人時代がかなり駆け足気味でした。
物語の肝となるのは、主人公のしょったんが一度絶たれたプロへの夢をもう一度叶えようとする大人時代にこそあると思うんです。けれども、前半に時間を取っていたせいで尺が足りない。だから、詰め込みすぎてて説明不足になっているシーンが多かった。
例えば、しょったんがプロになるのを棋士たちが反対しているシーンがあるんだけど、そのちょっと後に賛成多数でプロ編入試験を受けさせることに決まるシーンが来る。プロたちの改心とかは全く描かれていないので、どうしてそうなったのか見ている側としては困惑した。
「夢を諦めない」というテーマもうまく表現できていないなと思った。年齢制限で奨励会を去った後、特に努力することなくトントン拍子でプロへの道が拓かれるからだ。本当はもっとエピソードがあったんだろうけど、どうしても時間との兼ね合い上、描くことが出来なくて、結果としてご都合主義で葛藤のない展開になってしまったような気がします。
ただ、大人になるまでを濃密に描いていたおかげで、これまで出会ってきた人たちが再登場してしょったんを応援するというラストシーンは説得力があり、ベタではあるが感動できた。だから一概に構成が悪い、とは批判できないんだけど……。
うーん、やっぱ全体的に時間不足が否めない。連ドラにしたら面白いかも。ただ、ドラマでやるには題材が地味だしなぁ。難しい。
最後になるが主演の松田龍平はクールな役が多いので、こういうちょっと気弱な感じのキャラは新鮮で良かった。彼のファンなら今作は必見だ。
【感想】少女ピカレスク
2018年公開
監督 井口昇
◉あらすじ
トップアイドルになることを夢見る新人アイドル・ヒカリ。一人でも多くのファンに“自分”を届けるため、自撮り生配信で濃密なコミュニケーションをとる毎日を過ごしていた。
そんなある日、新曲のPV撮影をすることに。ダンサーとして参加していた新人アイドル日菜子と亜依の2人と親しくなり、撮影も順調に進んでいた。しかし、“ちーちゃん”と呼ばれる少女が収録現場に現れ、撮影中止せざるを得ない混乱を引き起こしてしまう。
「いつも、ちーちゃんは大事な時に邪魔してくるんだ」
生配信中に心情を吐露するヒカリ。そして、日菜子や亜依の近くでも不可解な出来事が起こり始める。
嫉妬、憎悪、憧れ。生配信を通して映し出される、少女たちの想いとは……。
◉私的評価
★★★☆☆☆☆☆☆☆ 3/10
◉私的評価
序盤の展開は本当に良かった。登場人物の一人一人にスポットライトを当てて、じわじわと物語の全貌が明かされていく感じ。配信画面に映る静かな恐怖の表現もツボをついてた。
映画としての完成度は、むしろ高かったと思うんです。低予算だけど、監督が表現したかったメッセージ性は感じられて、なおかつストーリーも単調じゃない。出演者の演技も、まあ流石に完璧とは言えないけど、そこそこ見れるものにはなっている。
でもさ、井口昇監督だぜ? あの『ロボゲイシャ』とか『片腕マシンガール』の! B級邦画が好きなら一度は目にしたことのある鬼才の!
だから、期待していたものと出されたものの乖離があったんですよ。おとなし過ぎる、とまでは言わないけど、全体的にメリハリがなかった。
この映画、起承転結の起と承まではいいんです。ぐいぐいと引き寄せられる感じで、ストーリーの先が気になる。ただ、そこからがイマイチなんですよね。物語の真相が明かされてから、変化がないんですよ。
同じ時間帯に起きたことを視点を変えて追っていく、というスタイルだから、「あー、そこはそうなってたのか」ってなるシーンはあることにはあるんです。だけど少ない。もっと観客の予想を裏切るような驚きを用意して欲しかった。
あと、映画的には見せ場になる残虐的な表現も、ちょっとダラダラしていた。犯人はやりたい放題好き勝手して、被害者は全く抵抗もしないんです。ミキサーに手を入れられそうになるシーンがあるんだけど、確かに迫力もあって良い絵面なんです。だけど、『ちょっと力入れたらミキサー倒せるだろ!』『いや、自分から指を閉じてミキサーに入れていくのか……』とか、とにかくツッコミどころが多くて。
一番アレだったのは、ラスト。これだけは擁護できない。ネタバレになるので詳しくは書かないけど、完全に蛇足だった。今までの展開はなんだったのか、と問いたくなる。友情出演を入れるためだけにねじ込んだシーンなんじゃないかと邪推したくなるほど酷かった。
とまあ、散々言ったんだけど、本作はいわゆるクソ映画というわけではなく、随所に見所がある分、途中でぶん投げて帰りたくなるようなことはなかった。エンディングが『ちーちゃんが編集したPV』という演出も最後の最後に感心させてくれたし。
だけど、ただただ物足りない。この映画はその一言に尽きると思います、以上。
【感想】ファミリー☆ウォーズ
ファミリー☆ウォーズ
2018年公開
監督 阪元裕吾
◉あらすじ(公式サイトより)
誰の目にも幸せそうな、祖父、父親、母親、長女、次女、長男、次男の7人家族の福島家。
ある日、祖父の伸介が認知症を発症し、ドライブ中に子供を轢き殺し、その死体を福島家に持ち込んだ事から福島家の崩壊が始まる。周りの関係がない善意の人々を巻き込み、福島家の殺し合いが始まる!
◉私的評価
★★★★★★★☆☆☆ 7/10
◉総評
学生映画界を賑やかせた坂元監督の商業映画デビュー作。
個人的にはドンピシャでツボにはまりましたね。開幕でいらすとやの餅つきの画像が出た瞬間に、あ、これ絶対ハマるやつだわって思いましたもん。
邦画のいわゆるB級ホラーって、型にきっちりはまっちゃってるテンプレタイプか、型からデロデロにはみ出してる異物感マックスか、どっちかだと思うんですよ。『ファミリー☆ウォーズ』は断然後者で、振り切ってるんですね、色々と。
そうすると当然人を選ぶ作品、ってことになるんだけど、そもそもコレを見に来てる時点で映画に求める方向性は決まってるわけで。その欲望をきっちり満たしてくれる良い作品でした。
内容に触れていくと、後半のドタバタスプラッタももちろん好きなんだけど、前半のブラックユーモア溢れるコメディがすっげぇ面白かった。爺さんに餅を食わしても全然死ななくて、「砂糖醤油付けて」とか言っちゃうシーンは思わず吹き出しちゃったくらい。
というか、全体的に会話が面白いよね。割と俳優さんのアドリブらしいけど、作風にあった微妙にズレた台詞が笑いを誘う。ヤベェ性格のキャラしか出てこないんですよ、この作品。
映像的にはまぁ、低予算なのでそれほど良くないです。監督自ら、自主制作で撮った前作の方が映像が綺麗だ、なんて自虐するくらい。特に動きのあるシーンは普段シネコンでしか見ない人には耐えがたいでしょうね。それでも止まったカットは工夫を凝らしてるところが多くて、轢いた子供が車に張り付いてるシーンなんか、不謹慎なんだけどめちゃくちゃ面白い撮り方をしてた。
血みどろ描写もB級感丸出しなんだけど、耐性があれば非常に心地よい面白さがある。スプラッタお決まりの表現をこれでもか、というぐらい詰め込んでいて、ああ、そうだよこれが見たかったんだよ、なんて思ったり。
とまあ、万人にはオススメできないジャンルの映画になっております。こういうスプラッタ映画って清潔な国民性の日本ではあんまり市民権ないんだよね。園子温監督の『地獄でなぜ悪い』なんて、キャストが二階堂ふみに星野源、堤真一と全員が予測変換で出るくらい豪華なのに絶対地上波じゃ上映されないし。
それでも娯楽の一ジャンルとして確立している魅力があるわけでして、なんでか分からないけどたまに見たくなるんだよね、スプラッタもの。というわけで、坂元監督にも商業用映画できっちり稼いでもらって、その金で極上のスプラッタを撮影して欲しい。
話題になるほどの才能をヒシヒシと感じられる本作、グロが苦手な人も得意な人も是非劇場に足を運んでください。後悔は……するかもしれないなぁ、エロシーン見て途中で帰ってた客がいたし。
◉追記
あとこの映画で一番面白かったのは撮影に使われた家が借り物で、あまりにも散らかし過ぎて家主さんにマジギレされたっていう制作秘話。ついでにその怒られた翌日にラストのスプラッタシーンを撮影したっていう監督の懲りてなさ。ロックすぎる。
【感想】ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-
ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-
2018年公開
監督 米林宏昌 百瀬 義行 山下 明彦
◉あらすじ(公式サイトより)
兄と弟の勇気、母と子の絆、
そして、たったひとりの闘い。
小さな涙と優しさは、3つの物語を通して、
やがて大きな強さとなっていく──。
愛と感動のエンターテインメント、
ポノック短編劇場
ちいさな英雄
-カニとタマゴと透明人間-
◉私的評価
★★★★★☆☆☆☆☆ 5/10
◉総評
「メアリと魔女の花」を作成したスタジオポノックが送る、短編3本。
以前レビューした「詩季織々」と企画の方向性は同じだが、作品の内容では大きく違う。向こうがリアル志向だとしたら、こちらはジブリ的なファンタジー。ずっしり書き込まれた風景の美しさを見せた「詩季織々」に対し、「小さな英雄」は躍動感溢れる動きで楽しませる。
というわけで、以下3本のレビュー。
説明なく独自の世界観にブッ込まれるが、何となく理解できるように作りこまれているのが凄かった。あと、映像ではこれが文句なしに一番だろう。清らかな流れから濁流まで、小川の表現は群を抜いていたし、恐ろしく描かれた巨大魚は見た子供にトラウマを植え付けること間違いなし。ただ、カニを擬人化している突飛な設定の割には、それを生かしきれておらず、物語に起伏が少ない。まあ、短い時間なので多少は仕方ないのかもしれないが。
◉サムライエッグ
はい、問題作。ファンタジー二作に挟まれたアレルギーを抱える子どもとその母親の話。そこはファンタジーで統一して欲しかったよ。
それは置いておくとしても、こいつは酷かった。
話の内容もありきたりで珍しさもない。というか、アニメでする意味が全くないよね。タイトルの意味も分からないし。独特なタッチで描かれてはいるけど、かといって別段、絵に面白みはない。親子の絆? 親のミスで子供を殺しかけただけなのに、どうして美談になるのか分からない。
ぶっちゃけこの時点で、残り一作にも期待してなかった。メインの米林監督は終わっちゃったし。
◉透明人間
ところがどっこい。
めちゃくちゃおもしれーんだよ、こいつ。
冒頭からしてやられたね。主人公の透明人間が外に出るとき、肩から消火器を担いで行くんだけど、普通は「粉をぶっかけて姿が見えるようにするのか」って思うじゃん? でも違うんだよ。透明人間は質量もほとんどないから、風で飛ばされるの。だから、飛ばされないように重りとして持ってるわけ。ミスリードもすげえと思ったけど、後の展開にも繋がるんだからもひとつすげえ。
世界観も謎だらけなんだけど、そこがまたいい。短編なんだから、全部説明する必要なんてないんだ。
おまけに映像も凄まじいよ。ラストのスピード感溢れるシーンは鳥肌もんで、瞬きを忘れるってまさにあのことだよ。
いやー、これを最後にしたのは英断だなぁ。全く子供向けではない内容だけど。
というわけで3本の感想でした。こう見るとやっぱりサムライエッグが足を引っ張ってるよね。短編集の不利なところは、やっぱりどれだけ面白い作品があったとしても総合的に一本の映画として見られちゃうってところ。同じように埋もれてしまった作品も数多くあるのかもしれない。
一つ言えることは、サムライエッグさえ我慢すればくっそ面白い透明人間が待ってるから、是非見てください。3本で1時間もないから、サクッと見れるよ。
あと、木村カエラのテーマソング、めちゃくちゃだっさい歌詞なんだけど、耳から離れない。こちらも必聴です。
【感想】アラーニェの虫籠
アラーニェの虫籠
2018年公開
監督 坂本サク
◉あらすじ
郊外の工場跡地に建つ巨大集合住宅。
最近では、女子高生の変死体が発見され、不可解な心霊現象が目撃されるなど、いわくつきの噂が絶えない場所だった。
ここに引っ越してきた、気弱な女子大生りんは、ある夜、救急車で搬送される老婆の腕から大きな虫が飛び出るのを目撃する。
不思議なオーラを放つ中学生、奈澄葉や、呪術師の斉恩らとの出会いを通して、蟲や怪異の正体に迫っていくりん。
しかし、それはりん自身が、封印された過去と向き合うことを意味していた……。
果たして、りんを待ち受ける運命とは!? そして建物に隠された驚愕の真実とは!?
◉私的評価
★★★★☆☆☆☆☆☆ 4/10
◉総評
監督、原作、脚本、作画、音楽の全てを1人でこなしたという本作。肩書きは確かにすごい。これまで類を見ない程に。
ただ、これは映画なのだ。面白くなくてはならない。
今作は、ホラー映画として見れば悪くはない。ジワジワと鬼気迫る恐怖から、アメリカンホラー的なびっくりシーンまで、選り取り見取りだ。ジメジメした映像効果もjホラーっぽくて実に良かった。
目玉である“虫”の不気味さも個人的には好き。特に脳みそに蟹みたいな足が生えてるやつ。「パペラキュウ」っていうweb漫画思い出した。
独特な世界観は本当に唯一無二の作品だなぁ、って感心したんだけど、イマイチな点が2つ。
1つ目は難解すぎるストーリー。僕も完璧には理解できなくて、それで批評はマズイかなとパンフレットも買ったんだけど、それでもよく分からなかった。「あとは視聴者の想像に任せます」にしても、情報の少なさや整合性のなさで想像が膨らむまでには至らない。
ガチガチのホラーかと思えば金髪のパリピみたいな奴がいきなりバトルを始めるし、とにかく監督のやりたい事を詰め込んだんだなってのは分かるけど、娯楽の大切な姿勢である観客を楽しませるってのにもう少し配慮すべきだったのではないだろうか。
2つ目はアニメーションの粗さ。ある意味そこが売りにはなっているのだが、やっぱり動くシーンには違和感が所々あった。作品の方向性として、そこは求める部分ではないというのも理解しているが、それならそれでもっと工夫をすべきだったと思う。
演出面に関しては本当に良かったので、出来れば今度はモリモリ予算を注ぎ込んで作って欲しい。エログロ系は昨今廃れてきてるから、貴重なんだ。