【感想】怪物
怪物
2023年公開
監督 是枝裕和
◉あらすじ(公式HPより)
大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―。
◉私的評価
★★★★★★★★☆☆ 8/10
◉総評
完成度が高くてビビる映画。
是枝監督って、作品によっては僕の中で好き嫌い分かれることが多いんですけど、今作は本当に映画としての作り方の『巧さ』を感じる一作でした。
本作の構成は、起こった内容を3つの視点から順番に見せることで真相が分かってくる、みたいな内容で、割とよく見る構成なんだけど、伏線の貼り方やミスリードのさせ方が本当に上手いと感じた。そういうのって、複雑にやり過ぎると大衆受けしないし、単純過ぎると期待外れってなるから、匙加減が死ぬほど難しいんですけど、これがまあ見事。分かりやすいけど単純じゃない。
映画に対して使う表現なのかは怪しいけど、リーダビリティがすごく高いんですよね。大衆映画として完成してる。
そんで、そういう理詰めの構成かと思えば、ラストシーンに代表されるような幻想的な表現も入れてきているのが素晴らしい。変化球の使い方とタイミングも技術の高さを感じます。
キャストも安定の演技派を集めているので、物語を壊すことなく、映画としての質を高めていると思います。やっぱり中村獅童さんは『ヴィレッジ』の時みたいに良いやつじゃなく、今回みたいなクズが似合ってますよね。クズの獅童からしか得られない栄養素があるんですよ、ええ。
それぞれのパートでの演じ分けも、かなり指導が入っているように感じました。最初は不穏で何考えているか分からない人が、次のパートでは人間味溢れる感情的な演技になってたりとか。キャストに甘えないこだわりを感じます。
音楽は……わざわざいうまでもないと思います。良かった。
とまあ、いたせり尽せりな大作ではあるんですが、不満点も少しだけあって。映画の上映時間なんですけど、2時間と少しなので、普通に考えればそこまで長くないはずです。でも、映画の構成が同じ時間の繰り返しになってるので、なんとなく長く感じてしまった。端的に言っちゃえば、テンポが悪い。もう少し削っても良かったんじゃないかと思ったり思わなかったり。
はい、そんなとって付けたような欠点しか指摘できないくらいに素晴らしい完成度の映画です。僕みたいな人間だと話題作ってだけで警戒しがちですが、見て損は無い一作だと思うので是非ご鑑賞を。