邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】先生! 口裂け女です!

映画「先生!口裂け女です!」口裂け女役の屋敷紘子「ロンドンから帰国の際にバックパッカー」 - 記事詳細|Infoseekニュース

 

先生! 口裂け女です!

2023年公開

監督 ナカモト ユウ

 


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◉あらすじ(公式HPより)

 

悲劇と復讐のヒロインは、伝説の最凶魔女だった。

70年代後半「口裂け女」都市伝説が日本列島を駆け巡り、 子どもたちは恐怖におびえて社会問題にまで発展した・・・。 あれから半世紀、コロナ禍を経て、多くの人々が今もマスクで顔を隠す中、 あの伝説がまったく新しい姿でスクリーンに蘇る―。

 

◉私的評価

★★★★★☆☆☆☆☆   5/10

◉総評

 

やってることは面白いはずなのに、どこか今一つな映画。

 

予告編すら見ずに劇場に行ったのだが、正解だったと思う。まさか、コメディとは思わなんだ。ホラーからコメディに変わる展開って、ぶっちゃけ今となっては使い古されてはいるんだけど、めちゃ好物なんですよね。前半のホラー描写がいまいちで、映像も暗くてよくわかんなくて、これダメかもしれないと思った矢先の出来事だったので、こりゃあ面白くなるぞとすごく興奮しました。

 

そこからのストーリーも唯一無二だと思います。口裂け女と仲良くなって、「チャリで来た」みたいな感じで一緒に写真撮ったりする映画なんて、古今東西これしか存在しないでしょ。作者がインタビューで「地獄先生ぬ~べ~」を意識したって言ってたんですけど、なるほどなと思いました。あれも最初はガチホラーだったけど、妖怪が仲間になったりコメディ色がどんどん強くなったり、似通っている部分が多かったです。

 

見せ場であるラストの大乱闘シーンも、最高の出来でした。それまでのうっ憤を晴らすカタルシス満載な展開だし、鎌やらハサミやら敵の腸やらで大立ち回りする屋敷さんのアクションも見事。ここだけ明らかに金と力の入り具合が違います。必見。

 

そう、客観的に分析すれば僕の好みドストライクな作品であるはずなんです。でも、そこまで評価は高くない。その理由として一番にあげられるのが「雑さ」にあると思います。

 

特に適当に作ってるなあと感じたのは、主人公周りのキャラクターや感情表現でした。口裂け女に諫められて、悪事から一度は手を引く主人公なんですが、金を用意しないといけないからまた盗みに手を染める。それで仲間たちと仲違いするんですが、次のシーンでは特に理由もなくすぐに仲直り。キャラクター描写が薄い上にブレブレなんですよね。

 

口裂け女に関しては、あのビジュアルで可愛いと思わせるくらいに作りこんでいるだけにもったいなさを感じた。多分、一番撮りたいところはしっかり作るんだけど他はないがしろにしちゃうタイプなのかと偉そうに推測してみたりします。

 

あとはストーリーもやっつけで、整合性のなさが目立ちました。それも一つの味ではあるんだろうけど、終盤が強引&強引。物語上、連続誘拐事件と反グレ集団に金をせびられるのと、二つの問題を解決しないといけなくなるんだけど、それを同時進行でやってるもんだから、もうなんか滅茶苦茶になってました。時間軸をちゃんと分けるか、もしくは誘拐事件のほうはバッサリ切っちゃってもよかったような気がします。

 

個人的傑作になるくらいの要素はあった映画だけに、細部やら構成やらをしっかり詰めて作ってくれていればなぁとすごく残念な気持ちになってます。キャストもいい感じだったのに。いきり散らかしてからぼこぼこにされる大迫さんとかすっごく解釈一致で見てて楽しかったし、あとは上野凱さんの演技も好きで今後が楽しみだなと思ったり。ホント惜しい。

 

でもまあ、見てて楽しい映画には間違いありませんから、最近プチバズしてた『きさらぎ駅』みたいにコイツも配信されたらある程度話題になるかもしれないので、そういうB級界隈に敏感な方は先に劇場で視聴することをお勧めします。以上!

 

【感想】リバー、流れないでよ

リバー、流れないでよ - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

リバー、流れないでよ

2023年公開

監督 山口純


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◉あらすじ(公式HPより)

 

舞台は、京都・貴船の老舗料理旅館「ふじや」。
静かな冬の貴船。ふじやで働く仲居のミコトは、別館裏の貴船川のほとりに佇んでいたところを女将に呼ばれ仕事へと戻る。
だが2分後、なぜか再び先ほどと同じく貴船川を前にしている。
「・・・・?」

ミコトだけではない、番頭や仲居、料理人、宿泊客たちはみな異変を感じ始めた。
ずっと熱くならない熱燗。なくならない〆の雑炊。永遠に出られない風呂場。自分たちが「ループ」しているのだ。しかもちょうど2分間!

2分経つと時間が巻き戻り、全員元にいた場所に戻ってしまう。
そして、それぞれの“記憶”だけは引き継がれ、連続している。
そのループから抜け出したい人、とどまりたい人、それぞれの感情は乱れ始め、
それに合わせるように雪が降ったりやんだり、貴船世界線が少しずつバグを起こす。
力を合わせ原因究明に臨む皆を見つつ、ミコトは一人複雑な思いを抱えていた。

 

◉私的評価

★★★★★★★☆☆☆   7/10

◉総評

 

前作の感想はこちら。

hougatarou.hatenablog.com

 

前作『ドロステのはてで僕ら』が絶妙にハマらず、なんだか偉そうな講釈を垂れ流している感想ですね。

 

というわけで、今作もあまり期待せずに見に行ったんですが、すごく面白くて驚きました(失礼)。タイムリープとループの違いはあれど、同じ「2分間の時間跳躍」というテーマ。それなのに、ここまで前作とは違う仕上がりになっているとは素直に驚きました。

 

前作の感想で偉そうに言ってた言葉をあえて使うとするならば、映画というスケールにしっかり合わせてきたな、という感じです。前作にはあまりなかったキャラクターの内面描写をきちんとすることで物語に厚みが出ていたし、ループするたびにころころ変わる貴船の風景も映画ならではといった感じですごく印象に残った。

 

あとは2分間の長回しを繰り返すという手法は凄く独特でよかったと思います。聞くだけだと単調そうですが、話のテンポがめちゃくちゃ速いので飽きさせない。同じような物語を普通に作ろうと思ったら、多分何ループかさせてから、あれ、もしかしてループしてる? みたいな感じの流れにするんだろうけど、今作では最序盤のうちに登場人物全員がループを理解するというフルスロットルさ。

クッソ早いテンポのまま、ループするごとに何かしらの進展が起きるので、同じことの繰り返しでも全然飽きない。何十回も同じ階段を上るヒロインの姿を見せられているのに、次に何が起こるかワクワクしながら見れるというのは中々できる体験ではないと思う。

 

そんな感じに、映像作品でしかできない表現をしつつも、前作でも評価部分であった2分間という短い時間を上手く活用する脚本の巧さと、台詞センスの高さはしっかりと引き継がれており、純粋に前作プラスアルファの出来となっているのがすごい。

特に台詞は「初期位置」とか「このループは捨てる」とか、よくこんなの出てくるなと感心するものばかりで、そこも2分間の繰り返しという単純な流れを面白くしている一因だと思いました。

 

と、ここまでべた褒めですが、一つだけ、気になる部分というか明らかにあれ?となるところがありまして。中盤辺りで主人公が意中の男と逃亡するみたいな展開があるんですけど、ここだけは尺稼ぎじゃねえのってくらい中途半端に長くてつまらなかったです。主人公の行動が全く共感できないし、それに付き合う男も男だし、しばらく同じような画が続くし。あー、2分間の繰り返しだとさすがにネタ切れしちゃうのかと思う反面、あれを続けるくらいだったら脇役たちのサイドストーリーにもうちょっと触れてもよかったんじゃないかなって思いました。

 

まあ、ケチをつけるのはそこぐらいで、オチもいつものお約束な感じですごく好きだったので、最後まで楽しんでみることができました。次作も期待大ですが、裏切られると怖いので(ドロステはまさにそれ)そこそこという感じで待っておきたいと思います。

 

あと、この映画で一番エモいのは、舞台となった「貴船ふじや」が主演の藤谷理子さんのモノホンの実家だということ。ドキュメンタリーとかじゃなく、実家を舞台に映画を撮るなんてマジで世界で一人の経験なんじゃないだろうか。

【感想】怪物

是枝裕和監督の新作『怪物』キャスト発表!音楽は坂本龍一|シネマトゥデイ

 

怪物

2023年公開

監督 是枝裕和

 


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◉あらすじ(公式HPより)

 

大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―。

 

 

◉私的評価

★★★★★★★★☆☆   8/10

◉総評

 

完成度が高くてビビる映画。

 

是枝監督って、作品によっては僕の中で好き嫌い分かれることが多いんですけど、今作は本当に映画としての作り方の『巧さ』を感じる一作でした。

 

本作の構成は、起こった内容を3つの視点から順番に見せることで真相が分かってくる、みたいな内容で、割とよく見る構成なんだけど、伏線の貼り方やミスリードのさせ方が本当に上手いと感じた。そういうのって、複雑にやり過ぎると大衆受けしないし、単純過ぎると期待外れってなるから、匙加減が死ぬほど難しいんですけど、これがまあ見事。分かりやすいけど単純じゃない。

 

映画に対して使う表現なのかは怪しいけど、リーダビリティがすごく高いんですよね。大衆映画として完成してる。

 

そんで、そういう理詰めの構成かと思えば、ラストシーンに代表されるような幻想的な表現も入れてきているのが素晴らしい。変化球の使い方とタイミングも技術の高さを感じます。

 

キャストも安定の演技派を集めているので、物語を壊すことなく、映画としての質を高めていると思います。やっぱり中村獅童さんは『ヴィレッジ』の時みたいに良いやつじゃなく、今回みたいなクズが似合ってますよね。クズの獅童からしか得られない栄養素があるんですよ、ええ。

 

それぞれのパートでの演じ分けも、かなり指導が入っているように感じました。最初は不穏で何考えているか分からない人が、次のパートでは人間味溢れる感情的な演技になってたりとか。キャストに甘えないこだわりを感じます。

 

音楽は……わざわざいうまでもないと思います。良かった。

 

とまあ、いたせり尽せりな大作ではあるんですが、不満点も少しだけあって。映画の上映時間なんですけど、2時間と少しなので、普通に考えればそこまで長くないはずです。でも、映画の構成が同じ時間の繰り返しになってるので、なんとなく長く感じてしまった。端的に言っちゃえば、テンポが悪い。もう少し削っても良かったんじゃないかと思ったり思わなかったり。

 

はい、そんなとって付けたような欠点しか指摘できないくらいに素晴らしい完成度の映画です。僕みたいな人間だと話題作ってだけで警戒しがちですが、見て損は無い一作だと思うので是非ご鑑賞を。

【感想】僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い

『僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い。』予告編解禁 | CINEMA FACTORY

 

僕の町はお風呂が熱くて埋蔵金が出てラーメンが美味い 

2023年公開

監督 本多繁勝

 


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◉あらすじ(公式HPより)

 

富山県射水市の「内川」沿いに住む、ちょっとドジだが憎めない高校生男子三人組、トオル(酒井大地)、アゲル(宮川元和)、ヨシキ(長徳章司)。
それぞれ家族や進学、将来に悩みながらも同級生の女子・花凛(原愛音)との会話を弾ませ、大好きなラーメンを食べ、熱いお風呂に浸かり、久しぶりの放生津曳山祭を楽しみに過ごしていた。

曳山祭りを翌日に控えた日、祭りの会長を務めるトオルの祖父・松蔵(泉谷しげる)が急死した。町の近藤医師(立川志の輔)が臨終を伝えると、家族に悲しみが広がっていく。ただ、370年続いた祭りの決まりで、総代や会長が亡くなったらその年は曳山が引けないという。松蔵が一番楽しみにしていた祭りが中止になるかもしれない。トオルはひらめいた。「じいちゃんはまだ死んどらんことにならんけ?」
一同、驚くが、祖母の佐江(丘みつ子)もトオルのアイディアに同意し、「出来んこと考えんと、出来ること考え!」と常日頃、松蔵が言っていた言葉を伝えて頭を下げた。

祭り当日、町中、多くの人で賑わっていた。父・俊也(金児憲史)の協力もあり、どうにか松蔵の会長挨拶も切り抜け、曳山祭りが始まった。「イヤサー、イヤサー」掛け声が飛び交っていく。

松蔵の葬儀の日、トオルは初めて家に借金があることを知る。アゲルやヨシキもあちらこちらでリゾート開発会社への借金の声が響いていることを耳にしているようだ。町中に不穏な空気が漂っていた。
そんな折、トオルたちは蔵で見つけた「射水埋蔵金」という巻物を開いてみた。「埋蔵金さえ見つかりゃぜんぶ解決するんや!絶対見つけるがや!」
スコップやバケツを手に、埋蔵金を探し始める三人だが・・・。

 

 

◉私的評価

★★★★★☆☆☆☆☆   5/10

◉総評

 

射水のPRとしては100点満点だけど、映画だと考えると物足りない印象の作品でした。

 

PR部分ですが、まずはこの映画の一番の見どころと言っても過言ではないラーメン。パンフレットには実際に劇中に登場したラーメン屋のミニマップが付いているという徹底っぷりで、どれもこれもめちゃんこ上手そう。定番ですが、富山ブラック食べたい。

 

曳山祭りの描写もすごく良くて、観光案内としてそのまま使えるような出来栄えでした。あと、昔ながらの銭湯。いいっすね。

 

さて、肝心の映画部分ですが、男子三人組の友情物語としてはコテコテで少し古臭い感じ。今どきの子供感を出すためにyoutube要素も絡めてるんですけど、やりとりや展開に既視感があるものが多く、特段悪いわけではないんですがもう一歩突出した部分が欲しかったように思います。

 

演技面でも結構素人臭さが出ていて、感動的なシーンでも今一つ感情移入しにくかった。子役の下手な演技って、それも味ではあるんですけど、高校生だともうちょっとしっかりした演技が見たいと思ってしまいます。

 

ストーリーに関して言えば、祭りを開催する流れや埋蔵金というアイデアの使い方など、面白い部分も多かった。ただ、組み立て方に少し違和感を覚えました。おそらく、画的に一番派手なお祭りパートはラストに持ってくるような構成にしたほうがいいんじゃないかなとか、意中の女の子に告白するシーンをメインではなくエンドロールに混ぜ込んでるとことか。

 

見せ場や話の盛り上がり部分をもう少し意識して脚本を組みなおせば、もっと良いストーリーラインになったんじゃないかなと上から目線で言ってみます。クソ偉そうですね。

 

あとは、どうしても低予算っぽい部分が目立っているのもマイナスでした。特に、タイムカプセルから出てくる昔の8mmフィルムを見るシーンですが、明らかに背景とかが現代日本そのものだったりして、かなり感動するシーンのはずが冷めてしまったり。

他にも大企業が土地を買収するために開いた説明会のシーンがあるんですけど、企業側の言ってることがヤバすぎてリアリティ皆無だったりとか。

 

もう一つ気になることと言えば話のオチ。高校生なりに頑張って地域復興を目指すんですけど、結局は赤の他人のおこぼれ的な感じで窮地を脱するという展開になってしまって、今までのは何だったんだと少しもやもやする感じに。悪の大企業もきれいさっぱり手を引くし。聖地巡礼的な儲け方ってデメリットも死ぬほどあるんだし、ホントにそれでいいのかな、と思いました。

 

まとめると、射水市に行きたくなるくらいには地元の魅力を伝えてくれるいい映画だったと思います。ただ、クソ長タイトルから変わった感じの映画を期待して見に行くと肩透かしを食らう、いい意味でも悪い意味でも普通の映画だった、という感想です。

【感想】波紋

波紋 : ポスター画像 - 映画.com

 

波紋

2023年公開

監督 荻上直子

 


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◉あらすじ(公式HPより)

 

須藤依子(筒井真理子)は、今朝も庭の手入れを欠かさない。“緑命会”という新興宗教を信仰し、日々祈りと勉強会に勤しみながら、ひとり穏やかに暮らしていた。ある日、長いこと失踪したままだった夫、修(光石研)が突然帰ってくるまでは—。自分の父の介護を押し付けたまま失踪し、その上がん治療に必要な高額の費用を助けて欲しいとすがってくる夫。障害のある彼女を結婚相手として連れて帰省してきた息子・拓哉(磯村勇斗)。パート先では癇癪持ちの客に大声で怒鳴られる・・・。自分ではどうにも出来ない辛苦が降りかかる。依子は湧き起こる黒い感情を、宗教にすがり、必死に理性で押さえつけようとする。全てを押し殺した依子の感情が爆発する時、映画は絶望からエンタテインメントへと昇華する。

 

 

◉私的評価

★★★★★★★☆☆☆   7/10

 

◉総評

 

いってきのーみーずー。

 

このフレーズが耳から離れなくなる、シュールで奇妙な日常の映画。

 

何といっても素晴らしいのは主人公の感情表現だった。帰ってきた夫に対する嫌悪感を彼女目線で見せることによって、どんどん主人公に感情移入するし、かと思えば、新興宗教団体での珍妙な行動でこちらを突き放してきたり。まさに『波紋』のように寄せては返す揺さぶりを画面のこちら側に投げかけてくる。

 

そしてその描写を支える筒井真理子さんの演技力の高さも素晴らしい。特に表情。憎悪、恍惚、当惑。百面相のごとく劇中では表情を変えるんだけど、どこにもスキがなく演じ切っている感じ。彼女の表情を見ているだけでも面白い映画です。

 

脇を固める俳優陣も、どれも曲者ぞろいでよく集めたなと思います。ひっそりと混じっているムロツヨシさんとか、完全に目がイっちゃってる平岩紙さんとか、スーパーの老害柄本明さんとか。僕の一押しはスイミングサウナババアの木野花さんなんですけど、誰が一番か決められないくらいに、ちょい役の人たちの癖が強すぎる。

 

そんな癖つよな人たちがシュールな笑いを振りまきながら、スクリーンという水面にドボンドボンと『波紋』を生む。その波が次々と連鎖して波及していく様は先の読めないストーリーとなっていて、めちゃくちゃワクワクしながら見れました。

 

特に序盤から中盤にかけての夫との攻防(?)。男としてはかなり辛いというか、お腹が痛くなるような描写と展開なんですけど、とても面白い。いつ爆発するのかヒヤヒヤしながら夢中で見させてもらいました。

 

ただ、ちょっと減点要素なのが、やっぱ詰め込みすぎたところかなあと思う。風呂敷広げすぎて溢れかえったまま終わったというか。最初の東日本大震災から始まり、風評被害やら介護問題やら新興宗教団体やら障碍者との結婚やら、あれやこれやとぶち込みまくってます。

 

それぞれの切り口や見せ方は、ユーモアを含んでいたりして面白いんですけど、若干胸焼けするし、あとは消化不良だった。

 

後は、ラストのフラメンコ。これ、かなり賛否両論ポイントだと思うんですけど、僕は好きです。意味の分かんない強引なラストなんですけど、映像の圧がすごくて、もうこれでいいんじゃないかな、と納得させられてしまう。あんなラストシーン、何を食ったら思いつくんだろう。

 

まとめると、若干のマイナスポイントはあるものの、シュールな笑いと先の読めない展開で飽きることなく最後まで鑑賞することができました。監督・キャストともに実力をいかんなく発揮した良作だと思います。

 

【感想】ヴィレッジ

横浜流星主演「ヴィレッジ」期待と謎が深まる予告映像&ポスタービジュアルが解禁 | TV LIFE web

 

ヴィレッジ

2023年公開

監督 藤井道人

 


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◉あらすじ(公式HPより)

 

夜霧が幻想的な、とある日本の集落・霞門村。神秘的な「薪能」の儀式が行われている近くの山には、巨大なゴミの最終処分場がそびえ立つ。幼い頃より霞門村に住む片山優は、美しい村にとって異彩を放つこの施設で働いているが、母親が抱えた借金の支払いに追われ希望のない日々を送っている。かつて父親がこの村で起こした事件の汚名を背負い、その罪を肩代わりするようにして生きてきた優には、人生の選択肢などなかった。そんなある日、幼馴染の美咲が東京から戻ったことをきっかけに物語は大きく動き出す――。

 

◉私的評価

★★★★★☆☆☆☆☆   5/10

◉総評

 

全編通して漂う不穏な雰囲気はとても好みでした。横浜くんのやさぐれ男とできる男の演じ分けもすごく上手く、あんまり演技がよい印象がなかったので素直に見直した。あと、一ノ瀬ワタルはパワー系ヤバい奴を演じさせたら邦画界に比類ないくらいの立ち位置になったなあと。まーじ怖い。彼主演の『サンクチュアリ』(ネットフリックスオリジナルドラマ)はばちくそ面白いから是非見てね。

 

とまあ、雰囲気作りと役者はよかったんだけど、ストーリーのほうは物足りなさを感じた。おそらく一番の主題であろう村社会の閉塞感なんだけど、これが弱い。人物描写に重きを置きすぎていて、村とか地域に関する描写が少ないんです。そのメインテーマに対する主張が弱いので、全体としてピリッとしてないというか。あんま村関係なくね、って印象でした。

 

あと、力を入れていると思われる人物描写に対しても、若干違和感があるというか。本当にどうしようもなく落ちぶれている主人公が、出戻りのヒロインに発破を掛けられただけであそこまでずんずん出世していくのが、まるでなろう系を見ているかのような感じでした。それがすなわち『邯鄲の夢』ってことなんだろうけど、あまりにも簡単に行き過ぎて現実味がない。カンタンだけに。

 

そうそう、『邯鄲の夢』=伝統芸能である『能』に絡めてストーリーが進んでいくんですが、そこまで能をプッシュする意味があったのかなという疑問もあります。能のシーンは明暗くっきりとした迫力ある映像になっていて見ごたえはあります。ただ、そこまで綿密に能を描くんであれば、さっきも言ったようにもっと村社会の陰惨なところとかを描いてほしかった。ヒロインも不自然なくらいに能が好きすぎだし、何なら中村獅童を出すためにそこまでプッシュしたのかななんて邪推しちゃう。

 

まあ、一番文句があるのは自閉症を持っている(多分)ヒロインの弟の使い方なんですけどね。見たらわかると思うんですけど、結構序盤から登場するんですが、結局はあのオチの為に用意されただけのような存在で。主人公やら村やらがめちゃくちゃになったきっかけを作っておきながら、ラストシーンでさらっと村から出ていく。障害を理由に守られているような感じがして、すごくモヤっとしました。邦画では障碍者を絶対に悪く描けないからね。

 

まー、あと予告詐欺(ホラー映画的な意味で)とか色々言いたいことはあるんだけど、金がかかってると分かる映像の綺麗さは見ものなので、総評としては、鑑賞して損はしないだろう、という一作でした。

【感想】宇宙人のあいつ

中村倫也主演映画『宇宙人のあいつ』、ポスター&予告編解禁 主題歌は氣志團(クランクイン!) - Yahoo!ニュース

宇宙人のあいつ

2023年公開

監督 飯塚 健

 


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◉私的評価

★★★☆☆☆☆☆☆☆   3/10
 

◉あらすじ

ある男の告白が、平凡な家族に激震をもたらす。 彼は、23年間も、真田家の四兄妹の次男・日出男として家族になりすましてきた宇宙人だというのだ!しかも地球を離れるまでの残された時間は3日間―。日出男は、限られた時間の中で、人間としてやり残したことに奮闘することに!《家族になりたかった男》を通して映し出される家族愛をコミカルに描いたエイリアンコメディが誕生した。

 

◉総評

 

ノリと勢いだけで映画を作った結果、盛大に滑ってる感じの出来に。設定はすごく好きなんだけどなあ。なんでこうなった。

 

どうしてこんなに面白くないのか、言語化するのは非常に難しいんだけど、物語として致命的に脆いという部分があると思う。

この映画の肝となるのって、兄弟それぞれが問題に直面し、それを解決していくストーリー構成だと思うんだけど、その方法や展開が非常にモヤモヤするものだった。

嫌がらせしてきた相手が唐突に心変わりするし、彼氏をクズ呼ばわりして一家総出で制裁するんだけど、よく考えてみたら別に彼が浮気したりとか悪いことをやってるわけではないのにやり過ぎだと思うし。加えて、それらの経験が兄弟たちの成長に繋がっているかと問われれば、結局は宇宙人パワーに頼ってしまっているので、はっきりノーなのである。

 

そんでもって、これは主要人物が多い映画にはありがちなんだけど、やっぱり短い上映時間で色々解決しようと詰め込みすぎたせいで、非常にとっ散らかっているのも気になった。うなぎのくだりとか、時間をかけてやる意味がわからない。

 

あと、肝心なコメディ部分にも文句がある。バナナマン日村さんはじめ、笑いに自信ありな感じのメンツを集めてはいるが、そのキャラクターに頼りすぎていて、台詞回しとかがちっとも面白くない。それなのに、コメディシーンをバンバン連打して、『ほら、面白いでしょ』みたいな感じで観させられるのがかなりこたえた。唯一笑えたのはWi-Fiのくだり。あそこだけセンスある。

 

そしてそれ以上に許せないのがあのオチである。今作最大の見せ場というか、話のキーになってくるのは、兄弟に混じった宇宙人が誰を母星に連れ帰るか葛藤するっていう部分なんだけど、いよいよラスト誰を選ぶのか選ばないのかという最も肝心なシーンがすごく雑。え、結局そうなるの、これまで葛藤してたのは? みたいな。ハッピーエンドに見せかけて、めちゃくちゃビターエンドだし、エピローグでそれを誰も引きずってないみたいな感じの描かれ方をしているので、すごくしこりの残る終わり方。

 

期待していた分、あまりにも残念だった一作でした。