【感想】わたしの見ている世界が全て
わたしの見ている世界が全て
2023年公開
監督 佐近 圭太郎
◉あらすじ(公式HPより)
熊野遥風は、家族と価値観が合わず、大学進学を機に実家を飛び出し、ベンチャー企業で活躍していた。しかし、目標達成のためには手段を選ばない性格が災いし、パワハラを理由に退職に追い込まれる。復讐心に燃える遥風は、自ら事業を立ち上げて見返そうとするが、資金の工面に苦戦。母の訃報をきっかけに実家に戻った遥風は、3兄弟に実家を売って現金化することを提案する。興味のない姉と、断固反対する兄と弟。野望に燃える遥風は、家族を実家から追い出すため、「家族自立化計画」を始める―
◉私的評価
★★★★★★☆☆☆☆ 6/10
◉総評
映像的にもストーリー的にもかなーり人を選ぶ映画だと感じました。
まず映像面では、定点カメラ中心で動きのないカットの連続が多いんだけど、見る人によっては退屈に感じると思う。日本映画にはありがちな画だとは思うが、それがかなり極端な割合を占めているので、単調。ただ、それぞれのシーンを繋ぐ間が絶妙で、しずかーな日本映画が好きな僕みたいな人には刺さる。疲れずに自然体で見れるというか。
感情が揺れ動くようなシーンではもう少し動きのあるカットを増やしてもよかった気がするけど、映画としての特徴づけを崩さないためのあえての工夫なのだろうと思う。
ストーリーに関して言えば、主人公の人柄が受け入れられるかどうかで、この映画が好きになれるかどうか決まってくる。よくシナリオとか小説の初心者向け講座では「主人公の葛藤と成長を描きましょう」なんて言われることがある。それは、見ている人が感情移入しやすいし、なにより物語が分かりやすくなるからだ。大体の映画というのは大筋これを踏襲しているので、ストーリーを一見した段階で大抵の人は、ははん、これは主人公が自己中のパワハラクソ野郎から改心して成長していく物語だな、と予想してしまう。
しかし、実際には物語の中で主人公のそういう変化や成長というものをはっきりと感じることはできない。一応、自分はこれでいいのかという疑問を持っているような描写があるにはあるのだが、結局は終盤まで唯我独尊で突っ走っていく。だから、ラストに関しては、マジでこれで終わりなのかと驚愕してしまうようなシーンとなっていた。
代わりに成長していくのは周りのキャラクター、主人公の兄弟姉妹たち。金欲しさに家を売り払うため、それぞれ自立させて追い出そうとするのだが、それがなんやかんやいい感じに彼らの成長・変化へとつながっていく。一人一人に割り当てられたシーンは短いながら感情の揺らぎが濃縮されていて、感動を呼ぶものになっているはずなのだが、いかんせん主人公は他人の気持ちなど考えない自己中なので、結局はその視点を通して見てしまえば他人事感が増してしまっているように感じた。
僕は割と主人公の考え方も理解できたので、そういう冷めた目線を共有することができたのだが、わりかし拒絶反応を起こす人がいてもおかしくないレベルの性格なので、そうなってしまえばこの映画は非常につまらないものとして映ると思う。
全体を通していうと、上映時間が82分と昨今の長編映画にしては非常に短いためか、一つ一つのシーンにはストーリー的に無駄なものがほとんどなく、どこを切っても完成度は高かったと思う。特に好きなシーンとしては、兄の彼女と一緒に農業を手伝うシーン。田舎暮らしと都会暮らしの対比と、そのずれが生み出すコミカルさが非常に好み。
ただ、最初に述べたように、静かで動きの少ない画が連続するせいで、ぎゅっと熱量が詰まったストーリー展開なのに淡々と進んでいってしまっているようなちぐはぐさが、見ている側としては気になった。
この映画が賛否両論多そうだろうなと予測する点として、やはりラストシーンもあげるべきだと考える。途中にも書いたけど、本当に唐突ぶつ切りさようなら、って感じ。最後の意味は観客それぞれで考えてくださいね、のスタンスだ。挑戦的な試みだとは思うが、ここだけはあまり好きになれなかった。
個人的な好き嫌いもあるけど、それまでの洗練された構成に合わない陳腐さとでも言うか。狙いすぎじゃない? みたいな。
何はともあれ、映画としての完成度は非常に高い一本となっていますので、日本映画好きにはお勧めできる作品となっていました。以上。