邦画大好き丸の感想文

黄金時代は去ったのか? いや、まだ邦画にも面白い作品は生まれるはずだ、多分

【感想】BAD LANDS

BAD LANDS

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映画情報

監督 原田眞人

脚本 原田眞人

主演 安藤サクラ 山田涼介 生瀬勝久

 

2023年/143分/PG12

 


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あらすじ(公式HPより)

大阪で特殊詐欺に手を染める橋岡煉梨(ネリ)と弟の矢代穣(ジョー)。ある夜、思いがけず3億円もの大金を手にしたことから、2人はさまざまな巨悪から狙われることとなる。

幼い頃からネリのことをよく知る元ヤクザ・曼荼羅を宇崎竜童、特殊詐欺グループの名簿屋という裏の顔を持つNPO法人理事長・高城を生瀬勝久大阪府警で特殊詐欺の捜査をする刑事・佐竹を吉原光夫、特殊詐欺合同特別捜査班の班長・日野を江口のりこが演じる。

 

私的評価

★★★★★☆☆☆☆☆  5/10

 

感想

 

◉「見せたいもの」の渋滞

 

本作ですが、要所要所を切り取って見てみると、非常にクオリティが高くエンターテイメント性にも富んでおり、映画として楽しめる一作になっているはずなんです。ただ、どうしても自分にはハマらなかった。

 

一番の要因として、とにかく内容を詰め込みすぎだった気がします。話の都合上、必要だったか? と首を捻るようなシーンも多く、監督の自己満足になってしまっているような。とにかく「見せたい!」っていう気持ちは伝わってくるんですが、それを果たして観客が「見たい!」と思っているかは別なわけでして。代表的なところで行くと、主人公のネリをつけ狙う暗黒金持ち男がいるんですが、もう最後に殺されるためにそれまで出てきてただけなんじゃないかというくらい本筋に絡まない。最初っから最後まで勝手になんかしてるだけ。この映画を好きな人でもその部分はバッサリカットしてよかったんじゃないかと思ってそう。

 

その他もろもろ余分なシーンがあるんですが、色々やりまくった結果、上映時間がなんと143分に。もう一息でインド映画じゃん。近年の邦画では稀にみる長さです。その長い分退屈なのかというと、決してそういうわけではなく、それぞれのシーンに対する熱量も高く演出も濃厚なので飽きることはないんですが、なんかこう、胸焼けしちゃいました。

 

あとは僕の個人的な好みの問題だけでなく、最近では何かと時短が持てはやされている風潮もある中で、さすがに逆張りしすぎたんじゃないかなとも思います。一時期話題になったファスト映画とかね。あれは流石にやりすぎだと思うけど、これだけエンタメが溢れている世の中にあって、そんな長い上映時間を使うのであれば、もう少し取捨選択による洗練が必要だったのかなと思います。

 

いや、面白いところはホント面白いんですよ。例えば、物語序盤にネリが「三塁コーチ」として特殊詐欺の指揮を執るところとか、詐欺のリアリティもあるし緊迫感もあるしですごく見ごたえがあった。そんで意味深に「月曜日」みたいな字幕が出たもんだからすごい緻密なクライムサスペンスが始まるもんだと期待したら、そこからだらだらしちゃったもんですごく残念。ホント期待値が高かった裏返しってのもあるんですが。

 

◉人物を描くのか、感情を描くのか

 

あとは見た人が結構思ってそうなのが、山田涼介さん演じるジョーの感情と行動があまりにも理解不能すぎるっていう点。殺しの依頼を受けていくんだけど、ビビって引き金を引けずに帰ってきて、でもその足で強盗しに行って、そんで仲間を平然と撃ち殺す。堂々と全くビビらずに。本人はサイコパスだからって言ってんだけど、いやいや最初あんなビビってたじゃんって言いたくなる。特に精神的に成長するような描写もなく、そんな感じになってるもんだからこちら側としては混乱しちゃいます。

 

おそらくですが、これは先に描きたいシーンが頭にあってそこに人物を割り振ったものだから、登場人物の感情描写が上手く連続したものになっていないんじゃないかと思います。悪い言い方をすると、完成度の高い人形劇みたいな。

 

これってこのシーンだけじゃなく、割と顕著に映画中感じた内容でして、だからシーン自体は面白くても感情移入が出来なかったんだと思います。そもそも映画の主題としては、クライムサスペンスっていうよりかはどちらかというと、ネリとジョーの関係性の方に重きを置いているはずなので、もっと感情の揺れを丁寧に描写するべきだったような気がします、と偉そうなことを言ってみたり。

 

感情描写の点で言うと、一番不満なのがネリが高城を殺してしまうシーン。いやいや、あんなに仲良さそうにしてたのにクズの弟を救うために殺すのかよ、と納得がいっていなかったのですが、後付けのように高城のことを実は憎んでいたみたいなエピソードが後半に出てくるんです。ここだけは絶対に順番逆の方がよかったでしょと思いました。主人公が命の選択をするという葛藤なんて、最高の感情移入ポイントであるはずなのに、終わったあとで実はこんなこと思ってたんだよね、なんて言われたらすごく消化不良に感じてしまいました。

 

◉行ってみたいな、西成へ

 

この映画で唯一満点が付けられるポイントがあるとするならば、犯罪者の生活描写が非常に面白かったところです。ネリが潜伏場所を何個も持っていたり、割と緩い雰囲気の掛け子集団だったり、西成で人を集めて出し子をさせてたり。リアリティとフィクションがいい感じのバランスで描写されていて、すごくワクワクさせられました。

 

西成の世紀末感もいいですよね。集合住宅の廊下のど真ん中で賭け事をしていて、掛け金は10円20円。どん底感が半端ない。

 

同じ理由で賭場のシーンもすごい好みでした。わざわざ別の場所に集めてから車で移動して薄暗い旅館みたいなところで半丁博打をするんですけど、雰囲気がすごくよかったです。サリngROCKさんが演じてた胴元の姐さんも、ぜってえ現実にはいないくらい脚色されまくったキャラが逆にアクセントとして利いていて面白いので、ここだけは見てほしいと思います。

 

そんな感じで、物語の舞台を作り上げる演出力は素晴らしく高く、映画に入り込めるパワーはあったので、最後まで楽しく鑑賞することはできました。ただ、上にうだうだ書いている引っかかりポイントのせいで、喉元に小骨が突き刺さったような、モヤモヤした余韻が残る感じに。

 

ラストシーンの伏線回収は気持ちよく、なんやかんや主人公は救われるので、それだけに惜しいと感じる作品でした。

 

安藤サクラという女

 

最後になりますが、本映画のキャストについて。

 

天童よしみだったり、某サプライズ出演のイケメンだったり、お祭り的なキャスティングですごく楽しめました。主演陣も実力派揃いなので、全編ほほ関西弁ながら、関西人の僕でも違和感がほとんどなく受け入れられるような演技です。

 

その中でも特筆すべきなのは安藤サクラさん。僕は『百円の恋』を見たとき、あまりの体当たりっぷりに衝撃を受けたのですが、今作でも異質な存在感を放っていました。ボソボソと関西弁で喋るシーンが結構多いんですけど、ちゃんと聞き取れるんですよね。でも陰気な感じはしっかり出しているので、その両立が出来るのがザ・演技力って感じで驚きました。

 

『怪物』でも主演でしたが、今年はとんでもなくブレイクしてますよね。容姿や話題性偏重のキャスティングが多い中、彼女が注目されているのは邦画自体のレベル底上げになっているような気がして、一邦画好きとしては嬉しい限りです。

 

◉まとめ

・長い。

・人間ドラマとしてもクライムものとしても中途半端。

・情景描写やキャスティングは高得点。

土手焼き食べたい

 

まとめると、せめて120分以内に纏まっていれば好きだったかも、な映画でした。

【感想】アリスとテレスのまぼろし工場

アリスとテレスのまぼろし工場

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映画情報

監督 岡田麿里

脚本 岡田麿里

主演 榎木淳弥 上田麗奈 久野美咲

 

2023年製作/111分/G

 


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あらすじ(公式HPより)

菊入正宗14歳。彼は仲間達と、その日もいつものように過ごしていた。すると窓から見える製鉄所が突然爆発し、空にひび割れができ、しばらくすると何事もなかったように元に戻った。しかし、元通りではなかった。この町から外に出る道は全て塞がれ、さらに時までも止まり、永遠の冬に閉じ込められてしまったのだった。

 

私的評価

★★★★★★★★★☆  9/10

 

感想

 

岡田麿里ガチャSSR

 

良い意味でも悪い意味でも、現在TVアニメ業界で最も名前の知れ渡っている脚本家。それが岡田麿里さんである。

 

一番のヒット作である「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」は僕と同世代のオタクならほとんど見たことがあるだろうし、「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」は放送終了してもう6年以上経過するのにいまだにネットのおもちゃにされている。

 

どうしてこんなにも評価がぶれるんだろうかという疑問に対し、僕個人の考えとしては彼女の人物描写が常軌を逸したぶっ飛び方をしているからだと思っています。感情表現が複雑すぎてそうはならんやろ、みたいな。でもすごく人間味があるというか、理解できないことへの魅力があるというか。そんな独特な人物描写なのですが、世界観の作りこみとかストーリーの組み立て方なんかが作品によって大きく違うので、ハマったりハマらなかったりする。そこが原因なのかなぁと。

 

そんなこんなで半ば怖いもの見たさで劇場に足を運びましたが、蓋を開けてみればアニメ映画では数年に一作くらいのレベルで面白かったです。すごい。物語の設定とマリー特有の恋愛描写が見事に噛み合い、良さが倍増されているように感じました。というのも今作は、言ってみれば逆「あの花」みたいなストーリーなんですけど、そりゃあ相性がいいに決まってるよねという話で。

 

もうほんとにやってることは滅茶苦茶で、常人には考え付かないような恋模様なんだけど、これぞ岡田麿里の真骨頂という作品に仕上がっていたと思います。

 

◉設定はありきたりだけど、見せ方が上手い

 

設定自体はよくある閉鎖空間もの。時間と場所が隔離され、原因はよくわかんないけどなんとなく神の怒りのせいなんじゃないかみたいな。ぶっちゃけ既視感がすごい。

 

ただすっごい上手いなと思ったのは「変わってはいけない」という設定をつけ足したことです。いつ、元の世界に戻れるか分からないので、その時に備えて自分の状態を保存する、みたいな。そのために自分確認票という履歴書みたいなのを書かされるんですけど、設定としての説得力もあるし、キャラの内面を可視化して説明もできるしでかなり小道具の使い方として巧みだなぁと感心しました。

 

また、その設定のおかげで「不変」と「変化」という分かりやすい構図を作れたのも大きいと思います。今作はがちがちに恋愛がテーマなんですけど、誰かを好きになるっていうのはかなり大きな変化なわけで、変わらないことを良しとする世界との対立が見ている側にとってすごく入りやすい構造になっていたんじゃないかなと。当然、我々観客は映画を見ている以上、感情を動かされる変化を望む人間が多いわけで、主人公たちに感情移入しやすい土壌が出来上がっていました。

 

あとは製鉄所と町の半分廃墟に足を突っ込んでいるかのようなノスタルジック全開な舞台設定も、非常に物語にマッチしていました。リアルとファンタジーがいい塩梅な美しい映像が流れるだけでワクワクするような風景なんですけど、このレトロな感じも「不変」と「変化」というテーマと際立たせています。テーマと舞台の選択が嚙み合っていて、上手いこと考えたなあと。

 

◉恋愛はわけわかんねえほど面白い

 

話の本筋は若者たちの恋愛模様になっているんだけど、これがまた狂気じみてるんですよね。

 

というのも映画のメインヒロインである睦実ちゃんですが、マジで何考えてるかわからんくらい情緒不安定。彼女の心境を100パーセント理解できるのって岡田麿里さんしかいないんじゃないでしょうか。登場シーンでいきなり主人公にパンツを見せたり、謎めいたクール系少女かと思ったらいきなり感情的になったり、終盤デレてきたなと油断したら「キスしたくらいで調子に乗らないで」とキレられたり。まさにマリー節炸裂といった感じで、まーじで行動原理が意味不明。女心は秋の空と言いますが、もう天変地異レベルに豹変しまくり。でもめっちゃ好きになっちゃう。

 

限られた尺の中でキャラクターの魅力を引き出すためには、普通であればしっかりと芯の通った人物設定にすることが多いと思います。わかりやすくて感情移入しやすい。でも岡田麿理さんの作るキャラクターってそれとは真逆でめっちゃブレることが多いんですよね。そのブレが他の作品にはない魅力になっていて、今回のように恋愛テーマの作品であればなおさら光るんだと思います。こっちの感情をめっちゃ動かされますからね。これが例えば、某機動戦士に乗って戦うようなアニメでされると、本来のテーマとの乖離でちぐはぐ感が増して、全体的にへんてこな出来になってしまったのかもなんて。

 

まあ、そんな御託はさておき、睦実ちゃん可愛いですよね。気持ち悪いのは重々承知してるんですけど、生々しい色気があるというか。シンプルに言ってえちえち。すっげえバランスの悪いツンデレなんだけど、その分デレた時の破壊力がヤバい。古のオタクみたいなこと言ってて本当にアレなんですけど、今作って表情の描写にかなりこだわっていて感情を台詞じゃなく顔の動きで表現したいってのがすごく伝わってくるんです。だから基本むすっとしている睦実ちゃんが恋する女の顔になった時のギャップが凄い。

 

もう一人のヒロイン?である五実ちゃんも声優が引くほど上手くて魅力あるんですけど、なにぶん出番が少なかった気がしないでもないです。睦実と比較すると明らかに出番と描写の割合がアンバランスでした。物語のキーとなる存在であるはずなのに、あんまり感情の動きが分からんかった。だから、最後の展開もいきなり感があったのだけが少しマイナスポイントですね。

 

でもラストシーンは始まり方こそ唐突でしたが、中身は濃厚でした。特にいよいよ五実との別れになるとこなんですけど、睦実が「他は全部上げるけど正宗だけは私がもらう」とか言いやがるんですよ。このシーンだけでも岡田さんが書いたんだなということが分かるくらい色濃くマリーが出ているんですけど、最高ですよね。狂おしいほどにねじ曲がりつつも真っすぐな独占欲。そりゃ世界もぶっ壊れますわ。

 

◉オリジナルアニメがもっと見たいんです!

 

とまあ、僕的には大好きな映画なんですけど、流行るかというと相当難しいんじゃないかと思います。見たのは公開初週でいまさら感想を書いてるんですが、驚くほど話題になってないし。

 

ぶっちゃけ現代が舞台の特殊設定ボーイミーツガールアニメって、「君の名は。」が大ヒットして以降、一時期流行ったものの今では若干食傷気味なんですよ。映画の公式サイトとか予告編とかだけ見ても、斬新! 見たい! とはならないじゃないですか。そもそもマリーだしって毛嫌いしてる人もいそう。

 

あとは最近ってジャンプアニメ黄金期が来てるんで、オリジナルアニメ自体がかなり窮地に立たされてると思います。ここ数年、新海誠細田守ジブリ以外のオリジナルアニメ作品ってほぼシネコンで上映されていないですよね。だって一般の人たちはある程度ネームバリューがなければアニメなんて見に行かないですから。僕自身、映画館ではアニメってオリジナル作品しか見ないんで、その現状がすごく悲しいんです。

 

今作は人をめちゃくちゃ選ぶものの、上記の作品群に負けないくらいのポテンシャルは秘めてると思うんですよね。マリーはSSRだし、映像はMAPPAが本気だし、声優豪華だし、ED曲はなんと中島みゆきだし。おそらくはもう負け戦な気がしないでもないですが、じわじわと人気が出そうな実力はある作品なので、アマプラとかネトフリで出た辺りで話題になって、オリジナルアニメ作品がもっと増えるきっかけになればいいなと思います。

 

とはいっても、まだまだ上映中の映画になりますので、見てない方は是非映画館でご鑑賞いただきたい。

 

◉まとめ

 

岡田麿里カラーが前面に出た、代表作と言っても過言ではない傑作

・「不変」と「変化」の対立的な見せ方が上手い

・恋愛描写は理解するな、感じろ

睦実ちゃんかわいい

 

まとめると、恋愛も興行も一筋縄ではいかないよね、な映画でした。

 

【感想】ほつれる

ほつれる

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映画情報

監督 加藤拓也

脚本 加藤拓也

主演 門脇麦 田村健太郎 染谷将太 黒木華

 

2023年製作/84分/G

 


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あらすじ(公式HPより)

綿子と夫・文則の関係は冷め切っていた。綿子は友人の紹介で知り合った木村とも頻繁に会うようになっていたが、あるとき木村は綿子の目の前で事故に遭い、帰らぬ人となってしまう。心の支えとなっていた木村の死を受け入れることができないまま変わらぬ日常を過ごす綿子は、木村との思い出の地をたどっていく…。

 

私的評価

★★★★★★☆☆☆☆  6/10

 

感想

 

門脇麦を味わう84分間

 

普段あまり進んでみない映画のジャンルなんですが、ぶっちゃけ門脇麦目当てで見に行きました、すみません。そんでもって、その目論見通り今作は彼女のポテンシャルが最大限発揮された映画となっておりました。

 

冒頭のシーン、夫に対するそっけない態度から、不倫相手に会った瞬間の微笑み。決して台詞は多くないのだけど、たったそれだけで両者に対する関係と気持ちがこちらに伝わってくる。初っ端から演技力の高さを見せつけられて、そこからは門脇麦という女優に観客は目をくぎ付けにされます。

 

監督へのインタビュー曰く、情報量の多い演技ということですが、言いえて妙だなと。セリフだけでなく、表情やしぐさ、目線などでこちらへと感情をビシビシ訴えてくるんです。そんなに感情的になるようなシーンは少ないはずなのに、こちら側への揺さぶり方が半端ない。門脇さんを初めてみたのは「太陽」という映画だったんですが、年を重ねるごとにどんどん演技力オバケな女優になってきている気がします。ちなみに「太陽」はあんまし面白くないので見なくてもいいと思います。

 

門脇さんの演技で特に好きなのは、死んだ染谷君から貰った指輪をなくしたシーン。夫と記念日のプレゼント交換で、ちょっとは気を許してやるか、みたいなムードから一転、ふとした拍子で指輪がないことに気づき、動揺しまくりの目が泳ぎまくり。さっきまでいい感じだったはずの夫に構う余裕もなくなる。このシーン、感情の切り替えのリアリティがヤバすぎるんです。これから見る人には是非注目してほしいシーンです。

 

◉気まずい雰囲気を楽しめるかどうか

 

門脇さんを褒めるのはこれくらいにしておいて、いよいよ本筋ですが、これは非常に評価が難しい。最初っから最後までひたすら夫との気まずい会話の繰り返しがメインストーリーとなっており、これを退屈だと感じるか面白いと鑑賞できるかが分水嶺となっております。

 

不倫相手が初っ端に死んでからは、物語に大きな動きって特にないんです。いやらしいほど理論っぽく話す夫と、感情ぐらぐらな妻とのかみ合わない冷めた関係が徐々に壊れはじめて、(そりゃ黙って不倫相手の墓参りに行ったりしたらそうなる)特にどんでん返しもなく崩壊して終わり。音楽もほとんど無音で、割とぼそぼそした感じの会話しか聞こえてきません。僕的には、そのじめじめした感じが好きで入り込むことができたんですが、人を選ぶのは確かです。

 

ハマってしまえば、会話の絶妙な間とか、かなりいい感じに内臓にダメージを与えてくれるような気がして癖になるんですけどね。染谷さんとの会話がデレデレな分、そのギャップもきつくて気持ちいい(?)ですし。

 

ただ、正直なところ門脇さんの演技力で十分見られる会話劇になっているだけではないか、と思っちゃったりもします。おそらく、これで演技がいまいちな女優さんが演じていたりすると、いよいよ僕でさえ面白く感じられなくなるんじゃないか、みたいな。セリフ回しは自然でスムーズですけど、別段独自性やキレッキレな部分があるわけでもないので。

 

あとは、男は左脳で話して、女は右脳で話すみたいな決めつけ論、どこかで聞いたことあるかと思いますが、ある意味徹底的に男女を区別して描かれているので、そこに少し抵抗はありました。夫側の話し方にしろ態度にしろ、露骨に嫌悪感を覚えるような描き方にしすぎなような。女性が主人公なので視点的に仕方ない部分があるにしろ、不自然な感じはしました。

 

そもそもなんでそんな相手と結婚したんだよ、という疑問もありますよね。昔はよかったのかもしれないけど。最後のほうに明かされるんだけど、主人公たちも実は不倫からの略奪婚だったみたいで、不倫時代の恋愛と結婚生活とでは違うんだよという話かもしれませんが、なにぶん結婚前の話が全く出てこないので、想像で補うしかありません。

 

そんな不満点もありますが、気まずい雰囲気を楽しめる僕みたいなマゾ気質の人間は基本的にはずっと楽しめる映画だと思います。一番のお気に入り気まずさシーンは、何といっても不倫相手の妻と対面するところ。思わずうわぁと声が漏れそうになるくらいヤバいです。門脇さんの胃が痛そうな演技もいいですが、相手側のセリフも悔しさと怒りが静かににじみ出ている感じで、ここはかなり尖ってて面白かった。

 

門脇麦特化の演出面

 

カメラワークについてなんですけど、基本的に門脇さんを正面に捉えて他を脇に映すような演出が多いです。非常に割り切った撮り方だと思うんですけど、本作に関してはとても効果的だったなあと感じました。やっぱり彼女の演技力をアピールしたいし、見る側もそれを見たい。需要と供給を理解している演出だなと感じました。

 

黒木華さんや染谷将太さんなど、一線級の俳優さんも出ているんですけど、あくまで門脇さんメイン。初監督作品ということなのにここまで振り切った演出ができるのは胆力があるなあ、と。普通はもっと使いたいよね。

 

ただ、あまりにも門脇さんが映りすぎるせいで、他のキャラが何を考えているかの感情描写がほとんどありません。キャラクター的にも決して善い人間というわけではないので、綿子という主人公が合わない人にはかなり苦痛な映像になると思います。僕は門脇さんが大好きなので大好きでしたけど。

 

そんな僕でも一つだけうーんと思うのは、あれだけ好き勝手不倫しておいて最後は何事もなかったかのように家を出ていくのは、さすがに贔屓しすぎじゃないかなとモヤモヤしちゃいました。別に不倫を肯定するような描き方ではないんですが、何かしらの罰を受けてほしいと感じてしまうのは男性目線が過ぎるからなのかもしれません。

 

◉その他雑感

 

さて、色々グダグダ書きましたが、これって男性である僕の意見であるわけで、おそらく女性が見れば全く違う方向性の意見が出てくるんだと思います。別に男女差別というわけではなく、それほどまでに男と女の考え方の違いについて描かれた映画だと思うので。間違いなく言えることは、カップルでこの映画を見に行った暁には、映画同様の気まずい雰囲気が味わえるということでしょうか。絶対にデートで見るべきではありません。

 

あとついでに思ったことなんですけど、今作は演劇用の戯曲として始まった作品ということで、全体としてスケールの小さなお話なわけですが、実はこういう会話劇って最近増えてる?ような気がします。もっともメジャー路線ではないですけど。火付け役は「アルプススタンドのはしのほう」とかになるんでしょうか。基本あんまり予算がかからないスタイルですが監督の技術とセンスがもろに出る映画だと思うので、今後もジャンルとして定着していけば面白い作品に出合えるかもしれません。

 

◉まとめ

 

門脇麦ファンにとっては必ず抑えておくべき作品。

・アクションもサスペンスもない、あるのは気まずさだけ。

・今回はあくまで男の僕目線の意見です。

・世の中のカップルは全員この映画を見に行くべき。

 

まとめると、門脇麦ってやっぱすげえな、な映画でした。

【感想】神回

神回

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映画情報

監督 中村貴一郎

脚本 中村喜一郎

主演 青木袖 坂ノ上茜

 

2023年製作/88分/G

 


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あらすじ(公式HPより)

逃げることも死ぬことも叶わない 

イムループの果てに待つ切ない真実 17歳の夏休み。文化祭の実行委員となった樹と恵那は、教室で待ち合わせていた。 13時になり打合せを始めることに。しかし、しばらくすると、13時に戻ってしまうことに樹だけが気付く。 タイムループに陥った樹はなんとかその状況から抜け出そうともがくが、なかなか脱出することができない。 数えきれないほど同じ時間を繰り返していくうちに樹の精神は混乱を極め、物語はあらぬ方向へ加速していく。 果たして樹は無事に”時の監獄”から抜け出すことができるのだろうか。

 

 

私的評価

★★★★★★★★☆☆  8/10

 

感想

 

◉「タイムループ×青春」というド定番への挑戦

 

いまや当たり前のように使われている「タイムリープ」という言葉ですが、実はこれが「時をかける少女」で登場した造語であるということを知っている人は割と少ない。

 

はい、明日使える無駄知識を披露したところで本題ですが、「時をかける少女」以降、タイムリープを主題にした映画はじわじわと作品数を伸ばしてきて、2010年アニメ映画がヒットしたことで大流行に。このタイムリープという概念は日本創作界で完全に定着し、今では一大ジャンルとなっています。

 

毎年何かしらの作品は世に出ていますが、記憶に新しいのは本ブログでも感想を書かせていただいた「リバー、流れないでよ」。2分間の超絶短い時間のループという変わった切り口ながら、観客を飽きさせない作りが上手く、とても面白い映画でした。

 

hougatarou.hatenablog.com

今回の映画「神回」は5分間のループだよ、という事前情報を知っていたので、おもっくそ被ってるやんけ、と心配しながらの鑑賞となりました。

 

感想ですが、一言で表すならばエモい」

これに尽きます。正直、期待せずに見ていた反動もあったかもしれませんが、ぶっささりました。

 

エモさポイントについては後で述べるとして、肝心のタイムリープ作品としてはどうだったのかというと、本作は完全に異端です。

 

「タイムループ×青春(ラブコメ)」というテーマって、映画のみならずアニメや漫画で嫌というほど擦られてるんですが、大体行き着くところは同じなんですよ。過去をやり直してより良い未来にする。大好きなあの子とくっつく。本作ではそんなものはありません。何をやっても、どれだけ努力しても無駄。行き着くところは「無」=「死」

 

例えば映画の序盤、校庭で怪しい動きをしている奴がいるんですけど、5分という時間制限のため、中々そこまでたどり着けないんです。普通の作品なら、頑張ってたどり着いたらループ解決につながる謎やヒントなんかが手に入るものですが、今作では何度もループしてようやく校庭にたどり着いた結果、そいつは煙草を吸っていただけで何にも関係がないと分かるだけ。後半に繋がる伏線にもなりません。

 

ループものの定番である謎解きもなければ伏線回収もない。なんならタイムループを解決すらできない。定番をすべて無視したないない尽くしであるが、その「ない」ことが閉塞感と狂気を生み出し、徐々に主人公と我々視聴者を狂わせていく。他のループものでは味わったことのない感覚でした。

 

多分賛否が分かれると思うんですけど、主人公が我慢できずに女の子を襲ってしまう弱い人間であるという描写もリアリティがあってよかったです。普通はそうなりますよね。アニメの主人公が異常なんです。

 

というように、非常に暗ーいループ作品、といった感じになっています。それのどこが「エモい」んだよとお思いでしょうが、ご安心ください。本作はある意味2部構成のようになっていまして、このループの正体が明かされてからが本番なのです。

 

◉叶わなかった初恋という楔

 

この作品が僕にぶっ刺さった一番の要因はこれ。ずばり、叶わなかった初恋。チャンスはあったはずなのに、それを無駄にしてしまった。そんな青春時代の思い出をストレートに抉ってくるのが本作です。

 

「高校の文化祭、あの時勇気を出して実行委員に立候補していれば、あの子と仲良くなれたかも・・・」

 

物語の本質はたったこれだけなんです。自分の死の間際に、そんな気持ちの悪い「if」を妄想する。でも実際にあった出来事ではないからそこから先は想像できなくて、ループに自ら囚われてしまう。

 

理解できない、という人もいるかもしれません。でも僕は数年に一回くらい中学の時の初恋を思い出しては、なんであの時勇気を出さなかったのかと悶々する残念な男なので、主人公の気持ちに痛いくらいに感情移入してしまいました。そもそもが「タイムリープ×青春もの」が流行った原因もそこにあると思うんですよ。あの日あの時あの場所で違う選択をしていたら。そんな欲求があるからこそ、みんな見るんです。

 

さて本編の続きですが、主人公とヒロインは脱出できないループの中で、なんとどんどん年齢を重ねていきます。制服姿のおばあさんはかなり来るものがありましたが、「茶飲友達」で耐性をつけておいてよかったです。

 

hougatarou.hatenablog.com

 

このループ内で年を取るという表現も中々斬新でした。死にかけている本来の主人公は老人なのでそこに近づくことでタイムリミットを表しているというのと、あとは初恋の相手と一緒に年老いていきたい、という欲求もあったのではないかななんて個人的に思います。

 

そんでもってラストシーン! エモエモ! 夜の校舎のあらゆるところにプロジェクションマッピングで、あの子の姿を投影です。現実にあった出来事と、妄想の中の出来事。混ざり合い、映し出されては消えていく映像は、CGを使わずにここまで幻想的な表現ができるのかと驚きました。

 

最後の最後まで、初恋の相手と妄想の中で死んでいく主人公。はっきり言って「ここまですべて妄想」の一言で片づけられてしまうストーリーですが、僕みたいに刺さる人にはとことん刺さる内容になっていました。

 

妄想で何が悪い、男の初恋は重いんだよ!!

 

◉ちょっとした不満点色々

 

ここまでべた褒めなんですが、まあいくつか不満点もありまして。

 

一つはどうしても間延びしている感じがあったことです。先にあげた「リバー、流れないでよ」はループの繰り返しでも飽きさせない工夫がされていたんですけど、本作は単調な繰り返しが続くシーンが多いです。それはもちろん、ループの閉塞感を表現するためというのもあるんですが、ちょっと流石にやりすぎだなと感じました。上映時間は88分でポンポさん的にもOKなはずですが、体感はもっと長かった。

 

あとは、現実サイドのストーリー。主人公の甥とその妻?が主人公を看病している話なんですけど、結構な尺を使う割にそこまで必要だったのかなと疑問が残りました。あれだけお世話になった叔父さんに恩返しするんだ、と言われても、僕らが見てるのは学校で好きな女子に鼻を伸ばしている主人公なわけで、全くつながりません。

 

おそらくは現実のヒロインが登場してネタ晴らしをするというシーンを描きたいがために入れたサイドストーリーだとは思いますが、中途半端。バッサリ切るかもう少し深堀するかしたほうがよかった気がしました。

 

説明不足も少し気になったポイントです。あんまり説明されすぎる映画も好きじゃないんですが、主人公の行動理由や人となりがあまりにも説明されなさ過ぎて、理解できないシーンもいくつかありました。

 

◉キャストなど雑感

 

一番驚いたのはヒロインを演じた坂ノ上茜さんがなんと26歳だということ。女子高生役に全く違和感がなく、知った時には度肝を抜かれた。御神楽を踊るシーンとかめっちゃ可愛かった。あとは、ループを知覚していないという設定上、あれやこれやあったのに5分経てばフラットな状態に戻る、という難しい演技だったと思うがそつなくこなしていて素晴らしかった。流石26歳。ありがとう、って聞いてる?のセリフはしばらく耳から離れなさそうです。

 

主人公役の青木袖さんは、んー、まあぶっちゃけ普通。会話シーンなんかはちょっと陰キャっぽい男子高校生をリアルに演じていたとは思うが、怒ったり泣いたりするところでは迫力がないというか、見ている側にあんまり感情が伝わってこなかった。あまり尖りすぎていると感情移入できないけど、もう少し露骨に表現してもよかったんじゃないかなと思ったり。

 

映像については、基本9割が教室なので変わり映えはないんだけど、主人公目線と俯瞰との切り替えが上手くて没入感があるなあとか、窓から飛び降りるところのカットなんかが印象に残りました。ただ、夜の学校になってからは、何と言うかセットっぽさ?みたいなのを感じてどこか安っぽい映像になってしまっていたなと思います。

 

◉まとめ

 

・ループものの定番をあえて外した挑戦作。

・初恋に重たい感情がある人にはぶっ刺さる。

・初監督作で粗さはあるが、没入感で気にならないレベル。

・ヒロインは26歳女子高生

 

まとめると、『神回』は無限リピートしたいよね、な映画でした。

 

【感想】戦慄怪奇ワールド コワすぎ!

「戦慄怪奇ワールド コワすぎ!」ポスタービジュアル

 

戦慄怪奇ワールド コワすぎ!

2023年公開

監督 白石晃士

 


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◉あらすじ(公式HPより)

 

怪奇系ドキュメンタリーを作ってきたプロデューサーの工藤(大迫茂生)は、コロナ禍の影響もあって倒産の危機に喘いでいた。そんな中、工藤のもとに1本の投稿動画が寄せられる。それは3人の若者が心霊スポットとされる廃墟を撮影したものだった。 そこには、全身に返り血を浴びたかのような“赤い女”が仁王立ちでこちらを睨んでいる戦慄の映像が収められていた――。

 

 

◉私的評価

★★★★★★★★☆☆   8/10

◉総評

 

長年待ち続けた、待望のシリーズ新作である。

 

公開初日。21時以降のレイトショーにもかかわらず、劇場は満席。昔ミニシアターで見たときは観客が僕一人だったのに、ここまで有名になったのかと感動すると同時に一抹の不安が。

これだけ客を集められるくらい白石くんもすっかり有名監督になってしまったんだ。ああ、求めていた「コワすぎ!」欲求は満たされるのか。全く別物を出されるんじゃないのか。

 

そんな不安は、いざ始まってみれば一瞬で吹き飛びました。

 

「良質でしっかりとしたPOVホラー」でもなく、「低予算で雑なモキュメンタリ―」でもない。

期待通りの「コワすぎ!」新作を出してくれたことに、今は感謝しかありません。

 

本作ですが、ストーリーや展開は「FILE-04【真相!トイレの花子さん】」の焼き回し感が強く、新鮮な面白さはあまりありませんでした。連続映像風に見せて昼夜を逆転させたり場所を替えたりする演出も、かなり多用されていて食傷気味。ホラー映画として恐怖を感じるような場面もほとんどありません。

 

でも、そんなことはどうでもいいのです。あの工藤(今作はプロデューサーに)や市川(なんとディレクターに昇進)や霊体ミミズがスクリーン上で動いているだけで、我々は満足なのです。

 

というのも、この白石晃士という監督のもっともすぐれている点はキャラクターの造形にあると思っていて。一見、バリバリのテンプレに見えるんだけど、そこから少しずらすんですよね。例えば、シリーズを代表する主人公の工藤仁ディレクター。モキュメンタリ―の主人公らしく映像制作に熱意を燃やし、命がけで取材していくという基礎はあるんですが、性格は乱暴で威圧的、だけど実はビビりで小物という主人公にあるまじき特徴づけがされているんです。

 

普通ならそんなキャラクター、ブレブレだし好きになれないと思うじゃないですか。でも何故か奇妙なバランスでリアリティを保っているというか、おそらくは唯一無二のキャラクターだからとても印象に残るんです。シリーズを通して見れば誰もが工藤のことを好きになっているんですよ。

 

テンプレートからの微妙な乖離、虚構とリアルの絶妙なバランス。忘れられない強烈なキャラクターを作るそのスキルが、白石ワールドがカルト的人気を誇る一番の要因なんじゃないかと僕は思います。

 

そんなキャラクター造形が一番生かされるのは、映画に登場する個性豊かな霊能者たちです。これまでの作品でもネオ様(『カルト』)や常盤経蔵(「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」の人)など、魅力的な霊能者が多数生み出されてきましたが、今作も最高なんです。序盤に登場する鬼村伊三という霊能者も、飄々とした性格が面白く良いキャラなんですが、その師匠である珠緒師匠が登場した途端、完全にそっちに持っていかれました。

 

ホントにすごいんです。おそらく白石作品群でも相当上位の実力を持っており、なおかつギャル。しかもオタクに優しそうなギャル。ギャルなのに師匠オーラがすごいから、なんか工藤さんも師匠って呼んじゃってる。武器は鉄パイプ。鉄パイプ使ってワープできる。こんなのみんな好きになるにきまってるじゃん。ずるい。

 

演じるのはシリーズお馴染みの桑名里瑛さん。File4花子さんの時にはめちゃくちゃ棒読み演技だったのに、今作の熱演っぷりを見て、あぁ成長したんだなと気持ち悪い父親面みたいな感想を抱いてしまいました。

 

珠緒師匠のキャラクターだけで十分元が取れるし、赤い女もこわ可愛いし、あとは邦画好きの人なら何故か舞台である廃墟にものすごく既視感があるという不思議な体験も味わえるので、シリーズ未視聴の人でもお勧めでき・・・・るかは微妙なんですが、この映画がヒットしてDVDも売れて工藤さんの事務所が立ち直って、シリーズが完全復活するのを夢見てるので、皆さん是非劇場に足を運びましょう。

 

あと余談ですが、EDで流れるコワすぎ音頭(?)、めちゃくちゃ頭悪くて最高に面白いので必聴です。シリーズ見てた人なら絶対笑顔で帰れます。

【感想】ランサム

映画チラシサイト:ランサム

 

ランサム

2023年公開

監督 室賀厚

 


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◉あらすじ(公式HPより)

ラン韓国人ひとりを含む謎の5人組が、19歳の女子大生を誘拐した。彼女は日本の裏社会を牛耳る大物・金山省吾の娘の由美だった。犯人たちは金山に1億円の身代金を要求し、このことから名もなき犯罪者たちによる、1億円の身代金強奪バトルが勃発する。

 

◉私的評価

★☆☆☆☆☆☆☆☆☆   1/10

◉総評

 

久しぶりにエンドロールが終わる前に席を立った映画。

 

何より一番許せないポイントからお話しすると、今作の売りって公式サイトを見てもらえばわかるように『アジアン・アクション新時代宣言!』とのことらしいんですけど、今作アクションらしいアクションシーンが1ミリもありません。ヤバいですよね。唯一それっぽいところはラスト辺りなんだけど、それも物陰に隠れながらバンバンやるだけ。観客を舐めてるとしか思えない謳い文句です。

 

ほんじゃまあ、ストーリーが面白かったら許したるわ、という感じなんですけど、これがまたつまらない。1億円の身代金強奪バトルなんてものは始まりません。誘拐シーンから身代金の引き取りまで、何の山もなければ見せ場もない。

 

クライムものの鉄板として、敵側との攻防って絶対必要だと思うんですけど、今作は敵側が無能すぎて微塵もハラハラしないんです。最後、警察が乗り込んでくるんですけど、なんとたった2人ですよ。誘拐犯相手に2人。こいつらのほうがよっぽど主人公っぽいことしてやがる。まあ彼らは悪徳警官で横取りを狙ってるんですけど、それにしても無策で正面突破してくるんです。そして2対4。こっちのほうが味方多いし。クライマックスシーンがそれで盛り上がるわけないですよね。

 

ただそんなことより、ストーリー構成で一番文句の言いたいところはどんでん返しの部分で。内容はまあいいですよ。ネタバレになるので多くは語りませんが、ベタですがちゃんとどんでん返しになってるし。問題は一切の伏線が貼られていないことです。突然、実は俺は・・・みたいに始まっちゃって、もうこっちは置いてけぼりですよね。素人が書いたとしか思えない脚本です。

 

キャラクターもヤバいんですよ。そもそも味方にあんまり見分けのつかないやくざが2人いる時点で怪しいんですけど、それより何より主人公がマジで何考えてるか意味が分からない。最初から最後まで、ほぼすべて感情=無って感じ。脚本が無味無臭なうえに演技が酷いのでそりゃそうなるわって感じなんですけど。ヒロインは情緒不安定で行動が理解できないし。

 

映画好きとしては何かしらいいところを見つけてあげたいんだけど褒めるところが一つもないから困った。上に書いてないところ以外にも欠点は山ほど出てくるんですけどね。主人公以外の演技もぶっちゃけ標準以下だし、CGしょぼいし、テンポ悪いし、OPクソダサいし、止め画連発するセンス寒いし・・・。

 

んー、何かないか・・・。

 

あ、そうそう時間! 短いんです!! 90分以内にまとめてるところは褒められますよ!! 『ポンポさん』で習いました!! (もっといらないシーンを削れば60分くらいになりそうなくらい内容はないですが)

 

よし、褒めノルマは達成したのでこれにて感想は終了します。お疲れさまでした。

【感想】ヒッチハイク

ヒッチハイク(2023)の上映スケジュール・映画情報|映画の時間

 

ヒッチハイク

2023年公開

監督 山田雅史

 


www.youtube.com

 

◉あらすじ(公式HPより)

 

大学生の涼子と茜は、ハイキングの帰りに山道で迷ってしまう。やっとバス停に辿り着いたものの、バスが来る気配は全く無かった。さらに、涼子は足を怪我しており、茜の彼氏も飲み会で迎えに来られないらしい。ふたりは、意を決してヒッチハイクをすることに。こんな山奥で無謀にも思えたが、運良く一台のキャンピングカーが停まる。運転席から降りて来たのは、時代錯誤のカウボーイの格好をしたジョージと名乗る男。ジョージは快くふたりを受け入れ、車内へと誘う。そこには、ジョージの家族も同乗していたが、どこか異様な雰囲気が漂っていた―。
一方、過保護な親にウンザリしている健は、悪友の和也を誘い同じ山でヒッチハイクの旅をしていた―。

 

◉私的評価

★★★★☆☆☆☆☆☆   4/10

◉総評

 

『きさらぎ駅』はやっぱり奇跡的な出来だったんだなと再認識させられた映画。

 

 

hougatarou.hatenablog.com

 

同じ脚本家ということで期待して見に行ったんですけど、ううん、期待が大きすぎたのか、色々ダメなところが目立つ映画に感じました。

 

そもそもこの映画の元ネタの話って、有名どころの実話怪談系とは違って、ぶっちゃけかなり創作っぽさがある内容なんですよ。正直なところ、劣化版ホラー短編みたいな、ある意味2ちゃんに載ってるからこそ許されてる作品なんです。だから、今作みたいにアレンジが薄めだと単純に話として面白くないんですよね。『きさらぎ駅』みたいに思い切った舵切りが欲しかった。

 

特に時間がずれてる云々のところとか、映画だけしか知らない人からすれば全く入れる必要のない設定なんだけど、オリジナルの話にはそれっぽい描写があるからって無理矢理寄せにいってるんですよね。完全に調理失敗しています。

 

あとは『きさらぎ駅』があんなに面白かったのって主人公のキャラが立ってたところも大きな要素だと思うんですけど、今作はそれもダメ。ヘタレ設定かと思えば、なんか脈略もなく覚醒したり。ある種王道的なキャラクター造形なんですけど、ありきたりすぎて作風とマッチしていませんでした。

 

それに、あんまり偉そうなことは言いたくないんですけど、さすがに主役の演技が微妙過ぎたような気がする。ひたすら棒読みで「俺は悪くない」みたいなことを言いながら逃げるシーンとか、おええって言いながら吐きそうになるシーンとか。彼が出ているほかの映画を見てないので、演技指導が悪いのか彼自身が駄目なのかは分かりませんが、B級ホラーというのを差し引いてもリアリティのかけらもない演技だったと思います。

 

と、ここまでは悪いところばかり書きましたが、めちゃくちゃ良い点が一つ。というか、これだけで見る価値はあったとまで言えるのですが、それはジョージ一家の怪演っぷりです。初っ端から『おおブレネリ』を家族で合唱するシーンがあるんですけど、そこだけ切り抜いたら名作レベルですからね。ヤバい。

 

ジョージを演じる川崎麻世さんも相当やべー奴感が出ていて良いんですけど、ピカイチなのが双子の赤と青を演じた結城さと花・こと乃さんたち。めっちゃ怖かわいい。原作ではおっさんの双子っていう設定なんだけど、これは良改変! 包丁持ちながら疾走するシーンめっちゃ好き。ぴょんって丸太飛び越すところほんと好き。

 

まとめると、普通にB級ホラーとして見れば及第点はあるけど、期待していた変化球が来なかった凡作といった作品でした。とはいえ、今作も大勢でわいわい見る分にはいい映画なのかもしれません。私は劇場で一人っきりでしたが。